第20話 真打登場
ココロがデュラハンの首を転送しようと決める数分前。配信を見ている天馬とクルワサンは歯痒い思いをしていた。火遁の術で焼かれていくメタルドラゴン。痛々しいその姿を見て、クルワサンは奥歯をギリリと噛む。
「あーっ! ボクだったら、火炎耐性でメタルドラゴンの盾になれたのに」
「いや、クルワサン。いくら、お前が火炎耐性SLV3を持っていても元の耐久力に難がある。耐えられるかどうかはわからない」
火炎耐性SLV3になってもその攻撃を完全に遮断するわけではない。チャンネル登録者数もまだまだ低くて、耐久力もメタルドラゴンと比べて低いクルワサンが耐えきれる保証はどこにもなかった。
「うう。ボクにもう少し数字が足りていれば、今頃は戦えていたのに」
「嘆いていても仕方ない。俺はみんなを応援することしかできない」
「応援……あ、そうだ! ねえ、天馬。ボクには妖精のエールってスキルがあったよね」
「ああ。そうだな。つい最近覚えたスキルだ。確か効果は……」
天馬は端末を確認してその効果を確認した。
アーツスキル『妖精のエールSLV2』
(条件:チャンネル登録者10万人のモンスター・配信者と累計1回以上コラボする)
効果:自分以外のモンスター1体が使うスキルを強化する。
「スキルの強化……これって、ボクが直接前線に立たなくても後方支援でみんなを強化できるってことだよね?」
「ああ……でも、それには配信に乗り込む必要はあるがな……天馬。お前まさか!」
「うん! 行こう。天馬。ボクたちにも救援要請は届いている。その要請はまだ生きているから配信に乗り込める」
クルワサンは手に汗をかきながら、コクリとうなずいた。しかし、天馬は――
「バカなことを言うのはやめろクルワサン!」
「バカじゃない! 確かにボクは数字が足りていない。でも、妖精のエールは対象のスキルを強化する。つまり、強化される側の数字に
クルワサンは天馬に対して強い意見を通そうとする。退く気が全くない。
◇
「今そっちに頭部を転送すんね!」
ココロがデュラハンの首の転送準備を始めた。端末を操作して配信の現場に放り込もうとする。その瞬間!
【妖精クルワサン】がログインしました。
「へ?」
ココロが素っ頓狂な声を出す。間違えてクルワサンを転送してしまったかと思ってしまったからだ。だが、ココロの権限ではクルワサンを転送することはできない。クルワサンの転送する権限を持っているのは天馬だけ。ということは、天馬が自発的にやってきたことににある。
「助けにきたよ!」
「クルワサン! なんで来たん!」
「本当だ! クルワサン。キミには来るなと言っただろ!」
ココロとラピスがクルワサンに非難の声を向ける。だが、すぐにその考えを改めることとなった。
「よし、クルワサン。まずはメタルドラゴンの強化だ!」
「わかった! 妖精のエールSLV2!」
クルワサンの手にボンボンが出現する。クルワサンが軽快な応援ダンスを踊り、それはさながらチアリーダーのようである。
『男の娘チアリーダー?』
『オ、オデも応援して欲しいど』
「な、なんだ。これは……! 我の体に力が漲ってくる
パッシブスキル『鋼鉄強度SLV0』が『鋼鉄強度SLV2』に一時的に上昇しました。
「我がまだ解放してないスキルが解放されただと……」
メタルドラゴンは驚いた。解放条件が難しくて放置していた鋼鉄強度のパッシブスキル。それが、クルワサンのスキルによって解放されたのだ。
「え? ボクそんなすごい力を持っていたの?」
「ああ、俺も驚いている。どうやら未解放のスキルは、スキルを覚えていないというのではなくて。SLV0の状態で覚えているということなんだろう。SLV0の状態ではそのスキルを使うことはできない。一見するとそこに違いはないようにみえるけれど、クルワサンの能力はSLVを上げる能力だから、実質的にまだ覚えてないスキルを一時的に解放することもできる……という理屈なのか?」
「天誅ッ!」
忍者もメタルドラゴンに攻撃を仕掛ける。しかし、鋼鉄のボディが強化されたことで、忍者刀を弾き飛ばすことができた。
「ッ!」
忍者は驚く。これほどまでにメタルドラゴンが強くなるとは思いもしなかった。
3人の忍者はお互いに顔を見合わせる。そして、手裏剣をクルワサンに向けて飛ばした。
「わわっ!」
飛んでくる手裏剣にクルワサンは驚いて硬直してしまう。
「させない! テイルハリケーン!」
金ゴマが尻尾を振り竜巻を起こして、手裏剣の軌道を変える。これにより、手裏剣はクルワサンに命中せずに済んだ。
「みんな。クルワサンを全力で守るんね! クルワサンはエールでみんなのスキルを強化していって!」
「了解!」
ココロの指示をみんなが実行する。クルワサンの能力は存外、役に立つことがわかった。
「えっと。天馬。ボクはなんのスキルを強化すればいいのかな」
「まだSLV0のものを強化するんだ。まだ解放条件を満たしたないってことは、その分強力なスキルの可能性が高い。基本的に条件が難しいほど強いスキルだから」
「わかった! じゃあ、次は金ゴマのスキルを解放するね! えい! えい! がんばれー!」
クルワサンが金ゴマを応援をする。金ゴマはその能力を受けて、強化される。
パッシブスキル『神速SLV0』が『神速SLV2』に一時的に上昇しました。
「ジグザグファング!」
金ゴマが目にもとまらぬスピードで忍者の1人を噛みつく。神速で上がったスピード。破壊力にもスピードが乗り、忍者の噛まれた箇所の左腕が大きく損傷してしまう。
「ぐぬうう!」
忍者がうめき声をあげる。金ゴマは反撃を食らわないうちに距離を取り、ヒットアンドアウェイ戦法を心掛ける。
「なんと小癪なッ!」
『おおお!』
『忍者にダメージが通ってる! いいね!』
『クルワたそが来てから流れがよくなってない?』
チャンネル登録者数が少なすぎて全く役に立たないと思われていたクルワサンだが、そのスキルが非常に強力なもので、仲間のサポート役として機能している。
「ボクだって戦えるんだ!」
数字が足りてなくたってできることはある。その意地を見せつけたことでリスナーたちが次々にクルワサンを応援する。その応援は数字にも反映される。クルワサンのチャンネル登録者数が息をつくごとに伸びていく。
「ここで負けるわけには……!」
忍者軍団は隊列を入れ替えた。それぞれ、金ゴマに1人、デュラハンに1人。メタルドラゴンに3人ついていたのが、5人一斉に固まるようになった。
『なんだ?』
『隊列を変えたぞ?』
『固まってるならチャンス。範囲攻撃を叩き込んでやろうぜ!』
事実、ここで金ゴマのテイルハリケーンを叩き込めばほぼほぼ勝利の状況である。
「金ゴマ!」
「うん! わかってるニャー! テイルハリケーン!」
金ゴマがぶんぶん尻尾を回す。しかし、その発動は数刻遅かった」
「合体変化!
ドロンと煙が出て来る。金ゴマのテイルハリケーンがその煙を晴らす。煙が晴れた時に出てきたのは、猿の顔、狸の胴体、前後の肢は虎、尾は蛇。伝説上の生物の鵺の姿がそこにあった。
「なっ……で、でけえ!」
平屋の一軒家くらいの大きさの鵺。5人の忍者軍団はその力を合わせて1体の大きくて強力な怪物と化したのだ。
「我らにこの姿を解放させたのは貴様らが初めてだ。それは誉れに思うが良い。十分に自慢すると良い。冥土でな!」
空気が一変する。鵺からおどろおどろしい紫色の瘴気が漏れ出て来る。その瘴気を遠目で見ているだけで、全身の毛穴に針が刺されたような感覚に陥るほどであった。
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