第19話 救援
金ゴマとラピスのコンビがデュラハンの救援に従い、配信内に現れる。既に1体のモンスターが救援にかけつけていた。暗いシルバー色の鋼鉄のボディを持つ四足歩行のドラゴンが雄たけびをあげる。
「我はチャンネル登録者数53万人のメタルドラゴン
メタルドラゴンは忍者の内の1体に突進を仕掛ける。鋼鉄の体に体当たりされて忍者が宙に吹っ飛ぶ。だが、忍者は華麗に宙返りをしてきれいな着地を見せた。鋼鉄の突進でも忍者はほとんどダメージを受けていなかった。
「デュラハン! 助けに来たニャー」
金ゴマがデュラハンに声をかける。デュラハンは親指を立てて金ゴマにこたえる。
「ありがとう。金ゴマ。多分、ウチの事務所で忍者軍団に対抗できるのはこの3体だけだと思う」
ワンダーズにもそれなりにモンスターを抱えている事務所であるが、チャンネル登録者50万人を超えるのは今のところこの3体しかいない。10万、20万程度では忍者軍団には敵いそうもないので、彼らがここに来ていないのは非常に賢明な判断である。
救援要請は同盟全員に送られてしまう。そのため、連携が取れていないと実力を見誤って参加してくるケースもあるのだ。
「3対5か。まあまあ、燃えて来る展開だニャー!」
『来た! メタルドラゴンと金ゴマ来た!』
『勝ったな。ガハハ』
『もっとモンスター来ないのか?』
『チャンネル登録者数30万のハーピィがなすすべもなくやられてんだぞ。それ以上じゃないと戦力としてカウントできないわ』
『ワンダーズで戦力になるモンスターはこれくらいしかいないからな』
『金ゴマが移籍してくれてよかった』
忍者軍団の目が赤く光る。そして、それぞれのステータスを分析する。その結果、忍者軍団が下した結論は……デュラハンに1体の忍者。金ゴマに1体の忍者。そして、メタルドラゴンに3体の忍者を配置することだった。そういう陣形を組んで襲い掛かってくる。
「なぬ、我に3体がかりだと……!」
メタルドラゴンは自分にだけ多く負担がかかっている状況に困惑した。メタルドラゴンはチャンネル登録者数でも戦闘能力でもこの中では最も格下。彼自身もそれを自覚しているからこそ忍者の作戦を理解できてしまった。
「まさか……弱いやつから順番に潰していくつもりなのか!」
強敵に数を多くぶつけるのではない。弱いやつに数を多く当てて敵の戦力を削る。敵の急所を狙う非常にきたないやり方ではあるが、忍者はきたない戦術をとるような存在なので仕方ない。
「メタドラ! 待ってて! 私がすぐに助けるから!」
デュラハンが目の前の忍者を倒そうとする。だが、この忍者は回避行動に専念している。まるで攻撃をする意思が感じられない。そう。この忍者はデュラハンを倒す必要がない。ただ、他の忍者がメタルドラゴンを倒すのを待っていればいいだけ。彼の目的はデュラハンをこの場に貼り付けてメタルドラゴンと合流させないこと。
それは金ゴマについている忍者も同じであった。
「ジグザグファング!」
金ゴマが忍者に思い切り噛みつこうとする。忍者を噛んだ手ごたえはあった。しかし、忍者の体は丸太とすり替わっていた。
「身代わりの術でござる!」
「くぅ!」
単なる時間稼ぎ。だが、その時間稼ぎがこの状況で最も嫌な戦術である。メタルドラゴンと戦っている忍者は、それぞれスキルを使う。
「木遁の術!」
「火遁の術!」
「火遁の術!」
まずは木遁の術でメタルドラゴンの表面を枯れ木で覆った。水分が飛んでいる枯れ木は良く燃える。そして、火遁の術で火を噴いて火力を上げてメタルドラゴンを燃やそうとする。
「ぐ、ぐううううう!」
メタルドラゴンが一気に熱されて苦しい悲鳴をあげてしまう。鉄の融点自体は約1530度程と高くて、ちょっとやそっとの炎では溶けない。だが、溶けないだけであって鉄としての強度は熱によって下げられてしまう。
メタルドラゴンの特性として炎属性の攻撃を受けると防御力が下がってしまうというものがある。忍者はその隙を突こうとしているのだ。
ジャキっと3人の忍者が忍者刀を抜く。このままメタルドラゴンを攻撃してダメージを与える作戦である。
「天誅ッッ!」
忍者はそう言いながら目を赤く光らせてメタルドラゴンに斬りかかろうとした。その時!
「
デュラハンが空気を切り裂く剣技を使った。これは飛ぶ斬撃。切り裂かれた空気は飛翔して、忍者たちに向かおうとする。忍者たちは攻撃を中断してその一撃を避けた。
「空裂斬!」
デュラハンがもう1度、空裂斬を使う。それがメタルドラゴンの炎の周囲の空気を斬り刺した。一時的に炎に真空のフタにして、炎に空気を送り込まないようにする。空気がなくなり、炎は鎮火をした。
「隙ありッッ!」
忍者がデュラハンの背後から忍者チョップを繰り出す。
「がはッ……」
背中に思い切り打撲を受けたデュラハンはその場に倒れた。デュラハンもまた忍者と戦闘中で少しの隙を見せたら、忍者に攻撃をされてしまう。忍者も逃げ・回避の一手を取っているものの、攻撃を全くしないわけではないのだ。
こうして仲間の援護をしつつ戦うのも重要なことではあるが、忍者に少しでも隙を見せればやられてしまう。人数が増えたところで余裕がない戦いであることは間違いない。
『ダメだ。忍者軍団が強すぎる』
『せめて、後もう1人戦力がいてくれたら助かるのに』
『でも、ワンダーズで他に戦力になりそうなモンスターはいないんだよな』
『他の事務所に救援要請をするか?』
『今からじゃ間に合わないだろ。まずは同盟を結ばないといけないし……』
チャンネル登録者数50万人を超えるモンスター3体ですら忍者軍団に劣勢を取ってしまっている。これほど強いハンターが存在して、無差別に襲ってくる。それはバーチャルモンスター全体にとっても驚異的なことだった。
「みんな。負けるわけにはいかないニャ。この忍者は強すぎる。だから、ここできっちり仕留めておかないと、他のモンスターたちが安心して配信できなくなるニャ」
金ゴマがデュラハンとメタルドラゴンを鼓舞する。言っていることはその通りである。これほどまでに強い集団が戦って勝てないともなれば、他の配信者が忍者軍団に勝つのは絶望的である。
「ココロ。もう1度救援要請をして欲しい。今は少しでも戦力が必要なの」
デュラハンがココロに訴えかけえる。しかし、ココロはそれを安易に受けることはできない。
「無理やんな。デュラハン。中途半端な戦力は忍者に殺されるんね。ウチは事務所のみんなが死ぬところは見たくないんね!」
「…………いや、ココロ。まだ手は残っている。いや、手というか頭というか」
「!!」
ココロも気づいた。デュラハンは、今完全体の状態ではない。頭部が欠けていてその力の3分の1も出せていない状態なのだ。
逆に言えば頭部と合体さえすれば戦力が3倍になる。今応援している忍者など瞬殺できるほどの戦闘力を手に入れられるのは間違いない。
「で、でも。良いの? デュラハン。あなた、顔出しはNGだって」
「そんなこと言ってる場合じゃない。頭部は嫌がるかもしれないけれど、仲間の命がかかっている状況で出し惜しみなんてできると思う?」
なにごとも命には代えることはできない。配信を共有してみていた頭部もそれは感じていた。
チャンネル登録者数300万パワーがあれば、実際こんな忍者軍団など1体でも勝てるかもしれない。その可能性をデュラハンは秘めているのだ。
「わかった。ちょっと待って。今そっちに頭部を転送すんね!」
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