第18話 デュラハン

 人気Vtuberの幸守ココロ。その姉妹チャンネルとなるデュラハンチャンネル。デュラハンはバーチャルモンスターで、チャンネル登録者数300万人を超える。まさに最強の一角である。


 鎧をまとった首なし騎士。その鎧のデザインが洗練されていてかっこいいという話もあり、このデュラハン。首はないものの、体つきが女性っぽくて、女性説がリスナーの間でささやかれている。事実、デュラハンは女性である。


 首なし騎士と言っても、首が取り外し可能で配信中は首を置いてきて写してないだけである。本人の自室にはきちんと首はある。その首がコロンと転がりくつろいでいた。


「あー……いっそ死にたい」

 

 そんなことをつぶやきながらぐでぐでと過ごしていた。配信の方は体に任せて。


「なんなんだよ。あいつら……アタシの体が女だって気づいた瞬間に美少女の首をつけたファンアートばかり描きやがって。あんなもの描かれまくったら、アタシも今更出てこれなくなるじゃないか」


 デュラハンはプレッシャーを感じていた。最初の予定では、首を出さずに配信してどんあ首なのかをリスナーに予想させる作戦だった。そして、リスナーのイメージを上回る美少女が出てきてドーン! と話題になる。そんなのは絵空事に過ぎなかった。


 リスナーの想像力がデュラハンを上回っていた。いや、画力とも言うべきことだろうか。とにかく、銀髪で碧眼の美女であるデュラハンがプレッシャーに感じるくらいのとんでもない美少女が量産されまくって、それがデュラハンの人気につながってしまった。


「あー。流石に300万人の前に今更顔出せねえーよー」


 なぜか顔出し禁止のVtuberの気持ちがわかってしまうデュラハン。Vtuberたちもまた、中の人という存在を隠している。リスナーの夢をぶちこわしてはいけない。だから、顔である自分はいつまでもここで隠れているしかない。


「でも、顔がないと戦闘力が大幅に下がっちゃうんだよねえ」


 顔というのは戦闘において重要な要素である。とある国民的ヒーローも、顔が汚れたり、潰れたりしたら力がでなくなってしまう。デュラハンはチャンネル登録者数300万人を突破しているが、強さ的には100万人とほぼ同格である。それでも元の数字が高い強いことには変わりない。


「さて、ボディの方は今どんな配信をしているのかな」


 デュラハンの頭部はボディと感覚を共有させることができる。配信中のボディの感覚を覗き見ることにした。



「今日は壺おじを金壺にするまで終わらない配信をしようと思います。残りクリア回数は10回。果たして、私は達成できるのでしょうか……チャンネル登録と高評価をして応援をよろしくお願いします」


 頭部もビックリのボディの過酷な配信が始まっていた。頭部は思う。自分がこの場にいなくて良かったと。


 全くつっかえることなく適切な速さで見所もなく壺をクリアしていくデュラハン。初見リスナーはその腕に感服するものの、それも慣れて来ると“退屈”な配信になってしまう。


 その退屈が続くと、どこからともなく退屈を嫌う鮮やかな影。そう“やつ”が来る。


【EMERGENCY】

【VIRTUAL_HUNTER】


「え? こんな時にバーチャルハンターですか。みんな。すみません。一旦壺配信を中断します」


『いいよー』

『こればっかりは仕方ない』


 予定していた配信の内容を中断されても怒らない暖かいリスナーたち。これは緊急性を要する仕方のないことであるからモンスター側を責めるのはお門違いである。


『おのれバーチャルハンターめ!』

『300万人(俺たち)の力を見せてやれ!』


 カメラがゲーム画面から配信スタジオに切り替わる。その配信スタジオにやってきたのは忍者、忍者、忍者、忍者、忍者。合計5忍者!


 赤、青、黄、緑、紫の影の集団がモンスターを狩ろうとやってきたのだ。忍者の目が赤く光る。そして、デュラハンを取り囲んだ。


「斬る!」


 忍者が抜刀してデュラハンに斬りかかる。だが、デュラハンもそのままやられるわけがない。レイピアを手に取り、忍者に応戦する……前に配信スタジオの狭いところへと移動した。囲まれているこの状況はデュラハンが明らかに不利。だから遮蔽物がある場所に忍者を誘導して、囲まれるのを防止する。


 だが、忍者は乗らなかった。狭いところに移動しようとしたデュラハンに手裏剣をなげて遠距離から攻撃をする。


「うわっ!」


 デュラハンはレイピアを振るう。金属同士がぶつかる高い音。それと共に手裏剣を弾き飛ばした。


 忍者。それは地形をも利用する存在。わざわざ自分が不利になる遮蔽物がある場所に移動するなんてバカなことはしない。冷静。きわめて冷静。数の利を活かしている。


「うーん。これは困ったな」


『デュラハンがんばえー!』

『デュラハンちゃんがんばれがんばれー! デュラハンちゃんがんばれー!』


「斬る!」


 再び目を赤く光らせた忍者が忍者刀をデュラハンに向かって斬りかかる。デュラハンは仕方なくレイピアで応戦する。1人の攻撃を防ぐ。次の瞬間、残りの4人がデュラハンに切りかかる。


 4回の金属がぶつかる音。デュラハンの鎧に忍者の攻撃が通る。鎧に攻撃を加えられてその振動がデュラハンの体に衝撃を与える。


「くっ……」


 鎧がなければ即死だった。それほどまでに忍者刀の一撃は重くて強い。相手が1人ならばまだなんとかなる。しかし、5人もいるとなると流石に首がない状態のデュラハンが相手をするのは厳しいものがある。


「デュラハン。救援要請をするんね!」


 ココロがデュラハンに通信を送る。救援要請はバーチャルハンターに襲われた時に同盟関係にあるモンスターに助けを求める機能である。デュラハンは同じ事務所のクルワサンと金ゴマと言ったモンスターと同盟関係にある。


「お願い。ココロ!」



【EMERGENCY】

【RELIEF_REQUEST】


「これは救援要請……デュラハンからだ」


 天馬がデュラハンからの救援要請に気づいた。救援要請が送られてくると相手のバーチャルハンターの情報も伝わる。


「これは……忍者軍団!? ココロとデュラハンが忍者軍団に襲われているのか?」


 天馬は悩んだ。できることならデュラハンを助けてあげたい。しかし、チャンネル登録者数が4桁しかない自分とクルワサンがいったところで足手まといになるのがオチである。なにせ、チャンネル登録者数300万人もいるデュラハンが苦戦するような相手であるから。


「天馬。行こうよ! ボクだって何かしらの力になれるかもしれないし」


「いいのか? クルワサン」


 戦う当人であるクルワサンのやる気は十分だった。しかし、ここで天馬に通信が入る。


「天馬さん。ここは私が行かせてもらう。くれぐれも変な気は起こさないでくれ」


「ラピス?」


「大丈夫だと思うけれど、天馬さんとクルワサンはまだまだ成長途中。こんなくだらない戦いで命を落とすようなことはあってはいけない。だから、私と金ゴマがやる。多分、ココロさんも天馬さんが来ることを望んでないと思う」


 遠回しな戦力外通告。救難信号は同盟の相手全員に送信されるため、天馬のところにも一応は来たということである。


「でも……」


「正直、300万人のデュラハンが苦戦するような相手だから、80万人の金ゴマでも戦力としてカウントできるかちょっと怪しいと思う。それくらいの相手だと思った方が良い」


 自分は数にすら入らない。その非情な現実が天馬とクルワサンに重くのしかかった。

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