第15話 再戦の約束
「天馬さん。やりましたね」
「ええ。なんとか倒せました」
ラピスから通信が入る。天馬はそれに答えた。元々はモンスター同士での対戦を目的としていたのに、気づけばハンターに襲われて共闘することになった。
『ハンターの撃退おめでとおおお!』
『ナイスー!』
コメント欄も天馬たちの勝利を祝っていた。そんな中でラピスがスピーカーモードに切り替えて、全体に向かって話をする。
「みんな。今日は対戦のために集まってくれたのにすまないな。ハンターはいつくるかわからないからこういうハプニングもある。今回はこういう結果になって無効試合になったけれど、いつかはクルワサンとも再戦したいと思う」
『再戦待ってる!』
『また共闘してハンターを倒す配信をしてもいいんだぞ』
こうしてなんだかんだで配信が盛り上がりを見せて無事に終了した。終了後、天馬は端末でクルワサンのチャンネル登録者数を確認した。
「は……え? チャンネル登録者数2400!?」
まさかの3倍以上の伸びを見せたクルワサンのチャンネル登録者数。それに伴いいくつかのスキルが解禁されていた。
アーツスキル『火炎鱗粉
(条件:チャンネル登録者数:1500人)
アーツスキル『癒しの波動SLV2』が解放されました。
(条件:1回の配信で高評価数200以上)
パッシブスキル『火炎耐性SLV3』が解放されました。
(条件:1分間で100人以上がコメントをする)
アーツスキル『妖精のエールSLV2』が解放されました
(条件:チャンネル登録者10万人のモンスター・配信者と累計1回以上コラボする)
効果:自分以外のモンスター1体が使うスキルを強化する。
「おお! 既存のスキルのスキルレベルが上がりつつも、新規で妖精のエールも覚えることができた。やったな! クルワサン」
「うん! ボク。強くなれたんだね!」
金ゴマとの決着はつかなかったものの、そのお陰でクルワサンの知名度が上がった。芋虫時代と比較すると爆速的に強くなっていくクルワサン。天馬もクルワサンもその成長を楽しみにしていた。
◇
事務所の朝礼。天馬の部署のボスである平が進行をしている。
「本日の朝礼を始める。今日も一日がんばろう」
平は基本的に朝礼を雑に行う。特にありがたい話もなにもしない。ただ、報告事項があれば、報告する程度の時間。
「あ、そうだ。今日は新人がいるんだった」
なぜそれを先に言わないと事務所の誰もがツッコミを入れた。そして、平の紹介で事務所に入って来たのは一人の若い少女だった。
「彼女の名前は賀藤 瑠璃。Vtuber兼バーチャルモンスターのオーナーとして内の事務所に移籍してきてもらった」
「賀藤 瑠璃です。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をする瑠璃。天馬はその声に聞き覚えがあった。つい先日、対戦コラボをしたラピスの声そのものであった。
「賀藤君は普段は高校生として学校に通っている。そのため、昼間は仕事に参加できないけれど、かなり貴重な戦力だ。なにせ、あのチャンネル登録者数100万人を超えている大人気Vtuberのラピスなのだからな」
事務所がざわつく。無理もない。いきなり、大物Vtuberが移籍してきたともなれば、業界全体に大きな震撼が走るのだ。だが、天馬にはある疑問があった。
「あの。ボス。1つ質問いいですか?」
「ん? どうした。海渡君」
「Vtuberの移籍って結構面倒じゃないんですか? モデルの権利とか色々あると思いますけど」
「ああ。その点については問題ないですよ。天馬さん。私はお父さんとお母さんの愛の結晶なので」
「いや、急になにを言ってるんだ……」
瑠璃の意味不明な発言に天馬は余計に意味が解らなくなる。このタイミングで平が咳払いをする。
「オホン。私から説明しよう。賀藤君のお父様とお母様は共に3Dデザイナーをしていてな。賀藤君のVtuberの姿は彼らの合作なのだ。権利も譲渡していないから使用権は賀藤君の一家にあるということだ」
「というわけで、今までのモデルも何の制約もなく使えますし、チャンネルも私のアカウントなので面倒な移行とかないし、引き続き同じチャンネルで配信ができます」
要は所属事務所が変わったこと以外、Vtuberとしての活動になんにも支障はないのである。
「それに、金ゴマも一緒に連れて来ることもできたし。ねー。金ゴマ」
ケルベロスの金ゴマも一緒ということで、強い戦力がそのままワンダーズの事務所に加わったということだ。
「というわけで、これから賀藤君をよろしくたのむ。それではみんな各々の仕事に励んでくれ」
朝礼が終わったところで天馬は自分のデスクに向かい、仕事を始める。色々面倒な諸手続きのための資料を作成を始めた。
「天馬ー。ラピスがボクたちの事務所に入ったの?」
天馬の端末からクルワサンが話しかけてくる。
「ああ。そうだな。正直、俺も驚いている。まさか急にこんなことになるなんてな」
「ラピスと一緒の事務所か。なんか嬉しいな」
目じりを下げてニコニコと笑うクルワサンに天馬もほほ笑んだ。
「事務所の共用仮想スペースに金ゴマがいるみたいだし、遊んでもらったらどうだ?」
「うん。そうしてくるー」
クルワサンは天馬の端末から、事務所内にある仮想空間に飛んで行った。そこには、事務所に所属しているバーチャルモンスターたちがいて、オーナーの仕事中はそこでモンスター同士が遊んでいる。いわば、モンスターの託児所的な場所である。
◇
「ねえ。瑠璃。事務所移籍したって本当?」
学校の昼休みにて、同級生の女子に話しかけられる瑠璃。彼女がVtuber活動をしていることを知っている数少ない同級生である。
「うん。本当」
「ええ。どうして? 前の事務所って待遇良くなかったの?」
「そういうことじゃないんだけどな。ちょっと気になる人がいるって言うか」
「気になる人? まさか。彼氏?」
「あはは、そんなんじゃないさ。相手は私よりも5歳も年上だ」
「え? でも、瑠璃のお父さんとお母さんって7歳差って言ってなかったっけ?」
「それは大人だからだろう。流石にお母さんもお父さんが高校生の時に手を出すようなことはしてないはずだ」
瑠璃の父母は年齢が割と離れている。ちなみに、父親が高校生の時には既に交際関係にはあった。
「ふーん、そっかー。私は愛に年齢は関係ないと思うけどな」
「どうしても、くっつけたい方向に持ってこうとするな。私はただ、彼のことをバーチャルモンスターのオーナーとして尊敬しているだけだ。彼はモンスターの可能性を何よりも信じている。そして、モンスターを決して見捨てない。そんな人間性に惚れ込んだんだ」
瑠璃は遠い目でその彼に思いを馳せた。瑠璃の友人はそんな瑠璃を見てなにやらピンときた様子である。
「やっぱり惚れてるじゃない」
「人間性にな。男性としてなんて一言も言ってないから曲解しないでくれ」
「えー。じゃあ、男の人としてはナシってこと?」
「…………そうとは言ってないぞ」
「どっちなの」
「それはあえて明言は避けさせてもらう」
瑠璃はごまかした。瑠璃が人間性に惚れ込んだと言っている人物。それは一体誰なのだろうか。それは現時点では瑠璃以外誰にもわからないことである。多分。
「でも、瑠璃。それ大丈夫? 瑠璃のファンはそういう理由で納得するの? 男の人を追いかけて移籍しましたって」
「そんなのバカ正直に言うわけないだろ。ちゃんと適当な理由をつけてごまかしておいたさ」
「賀藤ー! お前、提出した宿題が真っ白じゃねえか! なにしてたんだ」
先生が教室に入り瑠璃に詰め寄る。しかし、瑠璃は堂々とした態度だった。
「宿題はやりました。やった上で全く分からなかったので空欄のまま提出したんです」
「そ、そうか……やろうとはしていたんだな」
やろうとした意思があるだけ、教師は何も言えなかった。瑠璃が本当に1問も解けなかったのは彼女のことを知るならば納得できる理屈だ。
「瑠璃……私に言えば宿題写させてあげたのに」
「こら、教師の前で堂々と不正の取引をするんじゃない」
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