第14話 連携
「クソ、相棒! オレ様は今尻尾を切ったところで体力を消耗しきった弱い分身しか出せねえ」
「落ち着け。3対2の有利が取れなくなっただけで、オレ様たちがこんなやつらに負けるわけがねえ!」
リザードマンたちは周囲に聞こえないように小声で会話をする。だが、そんな作戦会議を待っているほど、クルワサンも金ゴマも悠長ではなかった。
金ゴマは攻撃の軌道が読みにくい【ジグザグファング】で攻撃を仕掛ける。それをクルワサンのパンの弾丸【ブレットバレット】で、援護をする。
リザードマンAが金ゴマのジグザグファングを盾で防ぐ。この時点で盾の位置が固定された。そこにすかさず、クルワサンがリザードマンの頭部にブレットバレットをパンっと撃ち込んだ。
「がはっ……!」
見事にリザードマンAの頭部にパンが命中した。
『ナイスヘッドショット!』
『ヘッドショット決めれば勝ちだろ』
『連携攻撃取れてるね! いいね!』
FPSならば相手の頭部に銃を撃ち込めば勝てる。だが、バーチャルモンスターの戦いはそんな簡単に終わるようなものではない。
「いてえな!」
モンスターやハンターは耐久性が高い。そのため、頭部に思い切り弾丸を受けたとしても、脆い人間のように即死はしない。だが、このリザードマンも頭が弱点であることには変わりない。かなりのダメージを負ってしまったはずである。それこそ、クルワサンがもう少しチャンネル登録者数が伸びていてブレットバレットの威力が強化されていたらここで勝負はついていたレベルである。
「ヘルスクラッチ!」
今度は金ゴマが前足の爪でリザードマンAに追撃を仕掛ける。頭部にダメージを食らって若干の目まいを起こしていたリザードマンAであるが、なんとか体勢を持ち直して盾で金ゴマの爪での一撃を防ぐ。
カキン! と金属がぶつかる音が響く。リザードマンが持っている盾の表面が少し削れる。それほどの威力の爪での一撃。もし、リザードマンがこの攻撃を受けていたら、致命傷は避けられない。トカゲ特有の硬いウロコもチャンネル登録者80万人超えのケルベロスの一撃には耐えることができない。
「くそっ……」
リザードマンとしては金ゴマの攻撃はなんとしても避けたいところである。戦ってみてわかったことではあるが、金ゴマとクルワサンでは金ゴマの方が破壊力が圧倒的に高い。クルワサンの攻撃ならば何発かもらっても大丈夫であるが、金ゴマは耐えられる保証はない。
となれば、優先的に金ゴマの攻撃をガードする方向になるのであるが……
「火炎鱗粉!」
クルワサンもまた遠距離攻撃手段を持っていて、かなり厄介な存在である。
「逃げるぞ! 相棒!」
「おう!」
リザードマンたちは火炎鱗粉の外の範囲に逃げ出そうとした。防御でやり過ごす作戦は無理だと判断してのことだ。彼らも認めたくないが、2対2では強い金ゴマがいる方が有利である。せめて3対2の状況になれば数で有利になれる。
その判断はおおむね間違ってない。ただ、誤算があった。
「マッハダッシュ!」
金ゴマは速い! 移動速度を強化するマッハダッシュで逃げたリザードマンたちと一気に距離を詰める。そして――
「ヘルスクラッチ!」
尻尾がないリザードマンAを背後から爪で引き裂く。硬いウロコを剥ぎ、その下にある皮膚を切り裂き、致命傷を与える。
「がはっ……!」
「あ、相棒――!」
尻尾を有するリザードマンBは慌てた。仲間がやられたら完全に不利になってしまう。この状況でリザードマンBが逃げるには……
「ええい! トカゲのしっぽ切りだ!」
リザードマンBは自らのサーベルで尻尾を斬り落とした。そして、尻尾をおいて逃げる。
「金ゴマ! この尻尾は何とかするから、トカゲを追って」
「わかったニャ!」
クルワサンの指示により、金ゴマはリザードマンBを追う。だが、リザードマンBが逃げ込んだ先は灼熱地獄でも特に暑い場所であった。
「ぜーはーぜーはー」
壁際にリザードマンBを追い詰めたはず。だが、金ゴマは暑さで体力を消耗して全体的なステータスが下がってしまっている。
「へへ、お前。暑さに弱いんだろ? でも、オレ様は暑いのが大好きでね! このフィールドはオレ様に活力を与えてくれるのさ!」
リザードマンBは嬉々としてサーベルを構えて金ゴマに切りかかる。金ゴマもそれに応戦しようと爪でサーベルの攻撃を弾こうとする。
キン! 音が鳴るが、サーベルを振り落とすことはできずに受け流すので精一杯。
「ほらほら! どうした? 明らかにパワーが下がってるじゃねえの!」
リザードマンBはサーベルで連続で切りかかる。金ゴマはそれを避けるので精一杯で、反撃をすることができない。
「お前さえ! お前さえ倒せば、オレ様の勝利は揺るがない! くらえ! 十文字斬り!」
リザードマンがサーベルで金ゴマに向かって技を繰り出す。十字に敵を斬る技である。金ゴマにその攻撃が命中してしまう!
「やった!」
リザードマンは勝利を確信した。リザードマンの十文字斬りを受けて無事だったモンスターは今までいない。暑さで弱っているケルベロス程度なら倒せる。そう思っていた。しかし。
「よし、このまま追撃を! あ、あれ? サーベルが抜けねえ!」
リザードマンはサーベルを引き抜いて追撃しようとする。しかし、サーベルが金ゴマの筋肉にがっつりと掴まれて抜けなくなっていた。
「避けるのが面倒だからあえて受けてやったニャ。これで、お前のサーベルでの攻撃を封じたニャ」
「う、うわあ!」
攻撃を受けてもなお生きている金ゴマにリザードマンは恐怖した。そして、ない尻尾をまいて逃げようと背を向けた瞬間に……
「ジグザグファング!」
金ゴマの牙がリザードマンのウロコを貫いた。これはもう致命的なダメージ。チャンネル登録者80万人の重みの一撃で、リザードマンBは絶命してしまった。
「ふう。クルワサンは大丈夫かニャ?」
◇
うねうねと動く尻尾。それを手に取ったクルワサンは……
「ほれ、ぶーんぶーん!」
その尻尾を振りまわして遊んでいた。灼熱の壁に尻尾を叩きつけたり、床に思い切り投げ捨てたり、3歳の男児がおもちゃに対して行うような乱暴的な行動を尻尾に対して行っていた。
「ほらほら、復活できるもんならしてみなよ」
尻尾は意思を持っている。これからリザードマンとして復活しようとしているのに、大きな衝撃を加えられてそれどころではない。
バシーン! バシーン! バシーン! バシーン! 尻尾を鞭にして遊んでいるクルワサンを見て、コメント欄が沸き立つ。
『ひ、ひでえ!』
『そこまでするか』
『あの尻尾って生きてるんだよな?』
『クルワサンちゃんドSすぎて好き』
『ドS男の娘アリだな』
ぴくぴくと
クルワサンもそれに気づいて、尻尾への攻撃をやめた。しーんと静まり返ったところで、金ゴマが戻って来た。
「金ゴマ! 無事だったんだね」
「んにゃー。ちょっと負傷しちゃったけどニャ」
痛々しく突き刺さっているサーベル。それを見てクルワサンは眉を下げ心配そうに見る。
「金ゴマ。ちょっと待ってて。癒しの波動!」
クルワサンの両手の指から波動が出て来る。その波動を受けた金ゴマの傷がみるみる内に回復していく。傷口が塞がり、サーベルもポトンと落ちた。
「どう? 大丈夫?」
「にゃー。ありがとう。お陰で傷が塞がった」
金ゴマはクルワサンに向かってほほ笑む。
『クル金てえてえ』
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