アラジンの決意/ペルシネットの諦め
強い強い自分でいたメイジーですが、とつぜんのことに焦ってしまって緊張がほどけてしまいました。
「アラジン王!」
絶対に当たる。そんな強さがなくなってしまった気がします。ですからやたらにたくさんの銃弾を発射して、とにかく敵に当ててすこしでも動きを遅らせようとしました。でも、そんな必要なんかありません。それくらいに新しく出てきた敵は大きすぎました。
アラジンやメイジーなんかじゃ、ジャンプをしても肩車をしたって、とうてい届かないような高い天井ですのに、その鬼は手を伸ばすだけでも簡単にさわってしまいそうです。大きな金棒を振り上げるにはむしろ狭いくらいでした。
たくさんお酒を飲んだみたいに真っ赤な身体をしていて、額には立派な角がふたつ。おそろしくゆがんでいるお顔と、大きなお口からは鋭い牙がたくさんむき出ていました。大きなお顔だけでアラジンやメイジーと同じくらいの大きさがあるかもしれません。
そのおでこに、メイジーは銃弾をバンバン撃ちつけました。金棒がアラジンを攻撃するのをすこしでも遅らせるためです。メイジーの銃弾はだいたい当たったのですが、でもぜんぜん動きが遅くなりません。その鬼は銃で撃たれているのに虫がたかっているくらいにしか思っていないようすでした。
やがて、アラジンのいたところにおっきな金棒が振り下ろされます。アラジンは攻撃に気づいて振り返りこそしたものの、急な攻撃をよけることはできませんでした。
ドオオォォンン!!と、
「アラ、ジン、王……!」
その振動に、メイジーは立っていることすらできませんでした。それくらいにその攻撃はすごすぎたのです。
「『
動けないメイジーに向かって、砂ぼこりの中から声が上がります。
「『
こんどはずっと近くに寄ってきました。メイジーを守る茨ごとしっかり切るために。血にまみれても死んでしまいそうでも、まだ死んでいない限りは戦い続ける青鬼が、メイジーの首を狙います。
――――――――
アラジンは思いました。
ここまでか。と。
だから最後にメイジーに目を向けて、声は届かないですけど、気持ちを伝えます。
――――――――
その気持ちは、ちゃんとメイジーに届いたかわかりません。ですけど、もうじゅうぶんでした。
だからあとは、できることを、やるだけです。
「『
アラジンはほんとうの覚悟をして、力を解放しました。
――――――――
赤と青の魔人は理解しました。自分たちがやるべきこと。そして、
そして同時に、彼らは消えてしまいます。
――――――――
「…………っ!?」
メイジーの首元に刃を当てた瞬間、イバラキはうしろに吹き飛びました。なにが起きたのかわかりません。ですけど急にメイジーと自分のあいだに、なにか赤い姿があらわれたのだということだけ見えました。
「メイジーを保護。脱出する」
赤い大きな何者かはそう言ったかと思えば、つぎの瞬間には消えてしまいました。そのあとにはメイジーも茨も、なにもかも残っていませんでした。
――――――――
ペルシネットは不快でした。たくさん動いて汗をかいていたのです。それに頭からは血を流してしまっていましたし、そのせいできれいなドレスが台無しでした。
「うまああぁぁ! じょうぶな頭皮だ! 髪の毛が取れない!」
馬のようなお顔をした肌の黒い鬼は、どしんどしんと地面を鳴らして不満そうです。金棒にはペルシネットの美しい髪の毛が巻きついていて、それをぐっと引っぱっているのですが、ペルシネットの髪はとっても丈夫ですので、一本たりとも切れたり引き抜かれたりしていませんでした。
「このっ! このっ! 僕の髪の毛をはなせ!」
ですけど髪の毛をからめるだけでは馬の鬼、メズの動きを止めることができずに、ペルシネットはおっきな金棒でずっと叩かれていました。攻撃は丈夫な柔らかい髪の毛でガードしていますけど、それでも叩く力が強すぎて頭を傷つけられたのです。
「この髪はわたしのもの。あなたには一本たりともわたしません!」
がんばって攻撃を耐えながら、ペルシネットは言いました。守るだけじゃなく攻撃もしたいところですが、金棒での攻撃が強すぎて防御ばかりに髪の毛を使わなきゃなりません。だから攻撃に髪の毛を使うよゆうがないのでした。
それにそもそも、ペルシネットは守ることが得意な女王さまです。自分から攻撃するのはあんまり得意ではありませんでした。
「うまああぁぁ! なんてやつだ! 恋敵め!」
なんでだかメズは怒って、攻撃をいっそう強くします。
ああ、もう、みっともない。ペルシネットはあらためて思います。血と汗にまみれて、男性にいいようにされて、穢されています。こんな汚い姿、耐えられない。
「はあ」
と、ペルシネットはめんどうくさくなりました。
こんなに汚れたなら、もういいかしら? そうやってあきらめたくなります。
世界にはきたないものがあふれている。世界にはいやしく、いやらしいものがあふれている。そんなものぜんぶなくなればいいと思いますけど、でもじっさい、そんなことなんてできないともわかっているのです。
すくなくとも、
ペルシネットは汚いものが大嫌いです。汚いものをぜんぶお掃除したいと思っています。
でもそのためには、自分が汚くなることも必要なのです。
「『
彼女が呪文を唱えると、メズの金棒にからませていた髪や、攻撃を防御していた髪が、ひとつの束に編まれていきました。それは長くて太くて、そしてとってもきれいなひと束になり、ペルシネットの意思のままに毛先をメズへと突きつけます。
「うま! なんてきれいな髪の毛だ!」
メズは大喜びで、これまで以上に力強く金棒を振り下ろしました。
「お気に召したようですけど」
ペルシネットは言って、髪の毛を動かします。しゅっと見えないほどの速さで、それはメズの金棒をバラバラに切り裂いてしまいました。
「これからわたしは、とってもよごれてしまいますの」
大きな大きなメズにおびえることもなく、ペルシネットはちょっとずつ近づきます。その美しい髪はヴォンヴォンと不気味な音をたてて動いているみたいですが、あまりに速すぎてよく見えません。
「うまぁ! 僕の髪の毛を汚すなんて許さな」
「ああ、まったく。きたない、きたない」
メズの言葉はとちゅうでなくなって、かわりにたくさんの血が雨みたいにペルシネットを濡らしました。
「湯浴みがしたいわ。もうほんと、さいあく」
汚れたペルシネットは髪をほどいてぼやきます。ちょうどそのとき、青の魔人があらわれて、ペルシネットを背中に乗せました。
「女王ペルシネットを保護。次は」
言いかけて、魔人は消えます。もちろんペルシネットの姿もいっしょにいなくなりました。
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