アラジンとメイジー、と、イバラキと
――――――――
『おまえ、いま誰を侮ったんだ?』
――――――――
イバラキは、声を聞いた気がしました。はっとして精神を研ぎ澄ませます。
最強の技を使ってのイバラキの思い描いた結果は、メイジーを切り捨てて、そのままアラジンまでも一気に攻撃していくことでした。メイジーの助けがなくなってアラジンと一対一なら、もうイバラキは負ける気がしていません。
アラジンはたしかに鬼と同じくらいの力を持っているとわかりましたが、それはもっとも力の弱い鬼であるイバラキと同じくらいっていう程度です。ぐっと力を溜めたイバラキの技には、さすがのアラジンでも受けきれるはずがないと思っていました。
「
アラジンはすぐそこにいたはずです。イバラキは一瞬メイジーに気をとられて、そっちを優先にしてしまいましたが、それでもアラジンから目を離してなんかいなかったはずなのです。
なのに
「わるいな。これは
うしろのアラジンもすこしだけ煙をまとっています。ちらりと見ると、腰に下げているランプから煙が出ていました。それを使って、どうやってだか身を隠したのです。
「おのれ、アラジン!」
うしろにいるとは思わなかったので、イバラキは焦りました。
「そう簡単に、この俺が……!」
――――――――
メイジーには見えていました。とっても目のいいメイジーには、イバラキの攻撃がちゃんと見えていたのです。
すう。と息を吸って、安心できるところで息を止めました。そうして身体の働きを落ち着けて、指先の感覚に集中します。
イバラキの攻撃が、遠いところからでも届くんだってことをメイジーはわかっていました。それが自分を切ってしまうんだってことも。
だけどメイジーは集中しました。切られてしまう怖さもありません。だっていまメイジーは最高に調子がいいのです。それにメイジーはもう知っています。
ちゃんとアラジン王が、そしてターリア女王が、自分を守ってくれるんだってことを。
イバラキの斬撃が飛んできます。それをちゃんとわかったうえで、メイジーはひとつも動じないまま、ただ静かに引き金を引きました。
――――――――
――――!!
背中にするどくて重い衝撃があって、イバラキはつんのめりました。撃たれた瞬間、イバラキは『撃たれた』と理解します。それでも、それはとっても運の悪い偶然だと思いました。
イバラキはぜったいメイジーを切ったと思っていました。メイジーに攻撃を躱す時間はなかったはずですし、メイジーはおろか、仮にアラジンが防御したとしても受けきれるはずがない威力で切ったつもりでしたからです。
だからイバラキが撃たれたのは、切られたメイジーがその衝撃で引き金を引いてしまって、その銃弾が偶然自分に当たったんだと思ったのです。
そんなこともあるかもしれないとは思っていました。だからイバラキはがまんして体勢を立て直します。
「…………っ!?」
だけどそれは違いました。イバラキは二回も三回も、まだまだうしろから撃たれています。鬼のじょうぶな身体ですからすぐにたいへんなことにはなりませんが、あんまりたくさん撃たれるとあぶないです。メイジーの銃弾はやっぱり強くて重くなっているのです。
「なあ、誰を侮った? イバラキ」
アラジンが言います。ちょっとだけメイジーを確認します。
イバラキが切ったと思ったメイジーは、静かに微動だにしないまま、たくさんの茨に守られていました。メイジーの視界をふさがないように、手元を刺激しないように、繊細に。それでいてその茨はうねうねと生きているみたいに動いて、どうやらイバラキの攻撃を防いだのです。
「ああ、たしかに侮ったね」
そういうことなら、そういうことです。それはしかたがないことです。『童話の世界』と戦っているのですから、それくらいの予想外くらいしかたがないのです。だからイバラキは理解して落ち着いて、また構えました。
「『
「もう遅い」
それは銃弾と同じ方向から聞こえました。つまりイバラキのうしろです。
「…………?」
最初、そこにいたはずのアラジンが煙みたいに消えて、だからイバラキはうしろを振り返ったのです。そこにはべつのアラジンがいて、じゃあそっちを攻撃しなきゃいけませんでした。
そのせいでメイジーに背を向けてしまいました。メイジーのいる方向がうしろになって、まえにはアラジンがいたはずなのです。
だけどいまは、まえにいたはずのアラジンが煙みたいに消えて、うしろから声がします。これじゃもうどっちがどっちだか、ぜんぜんわかりません。
「また、
アラジンのするどいナイフが、背中からお腹までイバラキを貫いていました。それだけでも足りないのか、あと何発かの銃弾がイバラキをうしろから襲います。
だからイバラキはまえに押されて、つまづいて倒れてしまいます。ナイフが抜けた穴から、たくさんの血がどくどく流れました。
「まあ、そんなもんだ」
ナイフを一回、強く振るって、べっとりついたイバラキの血を落とします。だけどあんまりうれしくなさそうに、アラジンは言いました。
呼吸が荒いのでつかれているのでしょう。ですけどそれだけでもないのです。
敵だって、やっぱり倒すのは気が引けるのです。アラジンは楽しく戦いにきたのです。誰かの命を奪いたかったわけじゃありません。
そのつもりだったのですが、手加減ができませんでした。命を奪うしか、イバラキに勝つことができなかったのです。それくらいイバラキは強かったのです。
「わるいな」
アラジンはあやまります。手加減をしてあげられなかったことについてです。ですけど。
「いいや、悪くない」
イバラキにあやまったはずが、お返事はもっと高いところから、もっと低くて強い声で降ってきます。
「イバラキを倒せるなら、儂とも遊べるだろう」
見たこともないようなおっきな影が、真っ赤でどす黒いお山みたいな影が、油断していたアラジンの上になにかを振り下ろしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます