突入準備
合流したアラジン、ベート、メイジー、ヘンゼルのチームは、簡単に情報を交換しました。おもにお話しするのはふたりの王さまです。アラジンは
「おれたちはペルシネット女王とターリア女王が捕まってるって聞いたぜ。グレーテルのことは聞いてねえけど、たぶんいっしょにいるだろ」
「モモはべつの場所にいるのだろう? ならばそちらに囚われている可能性もある。だが今回はヘンゼルの鼻がこちらに向いたのだから、おそらくは間違いないか」
なんだかふたりの王さまは話し合っているようで、なんとなくひとりごとを言い合っているだけにも見えます。アラジン王とベート王はあんまり仲がよくないってのは、ちょっと有名ですけどね。
「男女で分けられたんじゃねえか。
「男ってのはどいつもこいつも獣ですね」
メイジーがちょっとはなれたところでぼそりと言いました。メイジーは男性も獣たちもだいたいきらいなのです。誰も彼もお腹に石でも詰めこんで川に流してやりたいとか思っていたりします。
「…………」
自分自身が獣であるベートはいやそうなお顔でメイジーをにらみました。ですけど、男性はたしかに誰も彼もそういう一面があるのでうまく文句も言えません。とくに、自分の性格があんまり好きになれないベート王ですからなおさらでした。
「策はあるのか、アラジン」
メイジーの言ったことには触れないでおいて、ベートはアラジンに聞きました。
「ねえよ。そんなこむずかしいこと考えられる頭がねえんでな」
アラジンがベートとあんまり仲がよくないのは、そのあたりの性格が合わないからでもありました。アラジンは考えなしすぎますし、ベートはいろいろ考えすぎるのです。
「でも、アリスの邪魔にはならねえようにしようと思ってるよ。あいつはほんきでこの戦争を止めたいみたいだしな」
「そんなことを考えられるようになったのか」
馬鹿にするみたいにベートは言ったのですが、アラジンは怒るようすもなく、ただあきれたようにすこしため息をつきました。
「あいつの邪魔をすると、シラユキがうるさいだろ。それにアリスはいちおう、おれたちのリーダーなんだ」
ベートがすこしうつむいて、ちょっと笑いました。そこで笑われたらさすがにアラジンもばつが悪かったので、照れ隠しに怒ります。アラジンがわーきゃーと騒いでいますが、そのせいで森の中のカラスたちもいっしょになって騒ぎたてるので、ベートが人差し指をお口に当ててアラジンに合図しました。ここは敵地なので、あんまり騒いじゃあぶないのです。
「ねえ、そろそろいこうよ。ベート王、アラジン王」
一刻も早く
ベート王、アラジン王のお返事も待たずにヘンゼルはさきに行ってしまったので、しかたなくみんなも追いかけました。
*
ヘンゼルのお鼻をたよりに進んでいきますと、やがて地面が大きく割れているところに出ました。アラジンたちがいた森をまっぷたつに切ってしまったような大きな大きな窪地です。その
「おそらく間違いないな。情報と一致する」
ベート王がひとりごとみたいに言いました。
「鬼ヶ谷の情報を持ってたのか」
アラジンが問いただしました。
「ああ、ベアから聞いたことがある」
それはこの戦争が始まる数日前のことでした。ベアは戦争が始まることさえ知っていたようすで、『愚か者には理解できない情報』だと言ってベートにいろいろと教えてくれていたのでした。
「さすが、『始まりの王族』で唯一、生き残っているだけはある。年季が違うな」
アラジンが皮肉っぽく褒めました。ベートもその点には同じ気持ちでしたので、とくになんとも言いません。
「情報に間違いがなければ、中は階層式になっている。どこかから降りられるはずだ」
「あれじゃないっすかね」
ベート王のお言葉にメイジーが応えました。メイジーはとっても目がいいので、遠くのほうも暗いところも、ほかの仲間たちよりもよく見えるみたいです。メイジーには見えているみたいですが、その指さすほうになにがあるのかは、ほかの誰にもわかりませんでした。
「かなり荒いですけど、岩肌を削った階段みたいのがあります」
「んじゃ、とりあえず行ってみっか」
短絡的にアラジンが言いました。
「ちょっと待て、アラジン。ヘンゼル」
ベート王がアラジンを止めて、ヘンゼルのほうに声をかけます。ヘンゼルはなにを聞かれているのかわかっているみたいに、「ちかいところにいる」と、ちいさく答えました。
「であれば、浅い階層にいるということだろう。この鬼ヶ谷、深く降りるほど高位の鬼のすみかになっているらしい。浅いところに捕虜たちが囚われているというなら、救出は比較的かんたんそうだ」
「そりゃあ願ったり叶ったりだ。とっとと行こうぜ」
アラジンはとにかくとっとと行きたそうにそわそわしてます。
「短気がすぎるぞ、アラジン。すこし待て」
ベートは言って、あたりをきょろきょろ見渡します。ベアに教えてもらった情報を思い出して、目のいいメイジーにいろいろと確認をしてもらって、そして考えます。いちばん安全に、確実に、みんなを助ける方法を。
「よし」
たくさんたくさん考えて、ベートは思いつきました。
「策がある。よく聞いて覚えろ。とくにアラジン」
やっぱり馬鹿にするみたいにベートは言いました。
ベートはアラジンがあんまり好きじゃありません。アラジンだってベートがあんまり好きじゃありません。そんなことはおたがいにわかっているのです。だから、ふたりはおたがいのことがわかっているのです。どういうふうに言えばアラジンはその気になるのかを、ベートはきっと、誰よりもわかっているのです。
「てめえおれを馬鹿にすんじゃねえ。そんなん一瞬で覚えてやるよ」
まんまとベートの口車に乗ったアラジンは、必死になってベートの作戦を頭に叩きこみました。
そうしましたら、さあ。
ついに鬼ヶ谷に突入です。
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