アリスご一行と天狗たち、戦い
シラミネはテーブルを蹴り飛ばします。まだ座っていた天狗たちやアラジンなんかはびっくりしてしまいました。もちろんお給仕をしていたアリスもびっくりです。つい持っていたティーポットを落として割ってしまいます。割れたポットは風に吹かれて消えてしまいましたが。
みんながびっくりした隙を、シラミネは狙います。天狗たちの得意な武器は刀です。刀と、天気をあやつる
その羽団扇をぶわっと振ります。強い風が渦を巻いてみんなのまわりをまわり始めました。風の近くにいた天狗たちやアラジンなんかが内側のほうへ押し戻されます。その風の外に出るのはむずかしそうでした。
「けっきょくやるんじゃねえか。魔人たち!」
『わわわわ、我らにぃ!』
『たたたた、頼るなぁ!』
赤と青の魔人はおっきいのです。風の中はもう定員いっぱいなのでした。魔人たちは出てきたかと思えばまた消えてしまいました。
「……使えねえ魔人だ!」
アラジンは叫びます。ほんとはこんな窮屈なところに呼び出して悪い気持ちでした。あとちょっと恥ずかしい気持ちもありました。
そんな隙に、天狗たちがおそいかかります。シラミネが集めた天狗たちはみんな剣の達人たちです。シラミネは剣が得意ではありませんでしたから、近づいて攻撃するのはほかの仲間に頼ったのです。
「うおぉ! ちょっとタンマ! まだ準備が」
アラジンはたくさんの天狗に攻撃されそうになってあせりました。魔人たちは呼べませんし、たいへんです。
「使えねえのはあんたですよ、バカちん王」
遠くで準備していたメイジーが言います。言うが早いか、彼女はとっくに銃を発射していました。
「メイジー!」
アリスが怒ったみたいな大声で言いました。でもそんなのより、銃弾のほうが速いに決まってます。
ですけどメイジーだってもうわかっていました。アリスの言いたいことなんてかんたんなのです。
銃弾は襲いかかった天狗たちの足元にぶつかりました。攻撃したらアリスはきっと怒るでしょうから、メイジーは最初から外すつもりで撃っていたのです。
「アラジン!」
メイジーが叫びます。アリスのご機嫌をうかがいながら、天狗たちを止めるのはメイジーにはむずかしいのです。
「てめえいま呼び捨てにしやがったなこのやろう」
「いいからやれ!」
アラジンがどうでもいいことを言っていたので、メイジーは怒ります。攻撃されているのですから、そんな場合じゃないのです。
「うるせえな。もう細工は終わってんだよ」
お顔をつきあわせて動きを止めた天狗たちのまえに、アラジンはひとつ、よごれたランプを取り出しました。
「はいはいはい、取り出しますはなんのへんてつもないひとつのランプ! しかし少々よごれております。しかしこのよごれを、きれいにていねいにみがいてやりますと」
アラジンは口調を変えてお話ししました。慣れた手つきでランプをこすります。するともくもくとランプのお口から煙が出てきました。
煙はいきおいよく広がりまして、まわりの天狗たちを包んでしまいました。天狗たちはまわりが見えなくなってまたまた動けません。それに煙を吸いこんだりして咳きこんでしまいます。ちょっと涙も出てきました。
「さあさあこうして見事きれいになりますと、噴き出した煙も晴れてまいります。そしてすべての煙が晴れたとき」
「くだらない目くらましです」
アラジンが言いおわるまえに、シラミネがもういちど羽団扇を振りました。それでとっても簡単に煙が晴れてしまいます。
「……なにしてんだおまえぇ!」
アラジンは怒ってしまいました。予定よりさきに煙が晴らされたら、ぜんぶ失敗なのです。
「
「子どもみたいな理屈をわめかないでいただきたい。ここは戦地ですよ」
失敗したアラジンに向けて、シラミネは羽団扇を向けました。
*
アリスはびっくりしまして、それからあたふたしました。たいへんだわ、たいへんだわ。あっちへいったりこっちへいったりして、それからちょっとお空をながめて、頭を抱えてみました。そうしたらいい考えが浮かんだ気がしたので、そっちのほうにとことこ向かっていきます。
「クラウン、クラウン」
「はい、なんでしょう」
クラウンはお返事しました。まだおつかれみたいに見えますが、さすがにそろそろ元気ももどってきたみたいです。立ち上がれるくらいはだいじょうぶになっていました。
「なんとかしてよ」
アリスはアラジンやメイジー、そして天狗たちのほうを指さして言いました。
「なんとかと言われましても」
クラウンは困ったみたいに首をかしげます。仮面はもちろん、いっぱい笑ったままですが。
「ワタクシは戦うことはからっきしですし」
「知ってるわよ。だからなんとかしてって」
アリスはだいたいなにを言っているかわかりません。ですけど、このときの言葉はクラウンにはわかりました。
戦うつもりじゃないんだから、戦えないクラウンになんとかしてって言っているのです。ですけど、とはいえ、もう戦いは始まっているようなものなので、けっきょく戦えないクラウンにはできそうなことはありませんでした。
「このままじゃ
「ああ、なるほど」
アリスの言うことをやっと理解して、クラウンは走る準備をしました。
戦えないから、敵を止めることはできません。ですけど味方なら、戦えなくても止められるでしょう。
*
「ほうら、メイジー。高い高いですぞ!」
「…………!?」
メイジーはいきなりうしろから抱き上げられてびっくりしました。びっくりしすぎて銃を撃つなんてできません。
「あはははは。あっはははははは」
「この非常時になにやってんすか! クラウン王!」
むーんとメイジーは暴れますが、クラウンは背が高くって腕も長いので、なかなか逃げられません。バタバタしても腕も足もクラウンにとどかないのです。
「ほうら、こちょこちょ~!」
「ひゃ! ……や、や、め、ひぃゃっ、ひ、ひひひひ……」
「よし、これでメイジーはだいじょうぶでしょう」
ふいー、と汗をふくようにして、クラウンはメイジーをおろしました。メイジーはもう腰がくだけて立てません。
「てめえおぼえとけよクラウン」
「アラジン王~!」
「聞けよっ!」
メイジーが叫んでも、もうクラウンはアラジンのほうへ走っていってしまいました。
「いまおたすけしますぞアラジン王~! うわあっ!」
あんまり気持ちのこもってないみたいに言って、嘘みたいにクラウンはずっこけました。そのはずみでアラジンのズボンが指に引っかかって、脱げてしまいます。
「うおぉ! なにやってんだクラウン!」
「すみません、すぐ直しますから!」
慌てたみたいに言いながら直そうとしたので、クラウンの手元はくるってしまって、間違えて脱げかけたズボンを引っぱってしまいました。足元が引っぱられて、さすがのアラジンも転んでしまいます。
「おいクラウン! どういうつもりだおまえぇっ!」
怒っていてもどうにもなりません。そうなってしまったものはそうなったのです。
「なんのつもりか知りませんが」
そしてそんな大きな隙を見せたりなんかしたら、戦場では一巻の終わりです。
シラミネはもうそこで、羽団扇をかまえていました。
「戦う気がないなら」
その一撃でみんなを倒そうとして、シラミネはいつもよりいきおいよく、羽団扇を振り上げました。そうですこれは、一巻の終わりです!
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