開戦二日目

二日目、冒険の朝


「ふあああぁぁぁぁあ」

 うんと伸びをしてアリスは目覚めました。お目めパッチリです。十時間もしっかりおねむりして元気いっぱい。今日もアリスは絶好調に飛び起きました。

「おはよう、メイジー。アラジン。クラウン」

 アリスは元気にあいさつします。ですけど仲間たちはみんなみんなアリスほど元気ではなさそうです。

「よく敵地で十時間も熟睡できますね。素直に尊敬しますよ。その図太さ」

 メイジーはいつも以上に眉間にしわを寄せて言いました。まばたきが多いです。なんだか眠そうに見えます。不思議ですね、夜は明けたばっかりなのに。

 まあ夜が明けても『怪談の世界』はいつも曇りの日みたいにうす暗いから、そのせいなのかもしれません。

「ぐう……ぐう……」

 アラジンはまだ眠っています。どんな夢を見ているのかわかりませんが、お鼻をひくひくさせて、なんだかくしゃみでも我慢しているみたいでした。

『我らが主人は夜更かししすぎましてな』

『手品のタネを仕込むに苦戦したのです』

 赤と青の魔人がどこからか飛び出して言いました。主人のことなんてなんとも尊敬していないふうに、その大きなお手てでつついたりして遊んでいます。

 そうこうしていたらアラジンが起きました。まだ眠そうなお顔で鼻水もちょっとたらして不細工です。そうだってわかっているのか、アラジンは両手でごしごしお顔をふいて眠気を吹き飛ばしました。

「腹減ったな」

 アラジンは頭をかきながらそう言いました。

「はいはい、アラジン王。ちょうど朝食の準備がととのったところですぞ」

 いつも通りにおっきな笑顔を張りつけたクラウンが言いました。アリスははじめてクラウンと丸一日をいっしょにすごしましたが、食事中も眠るときも、けっきょくクラウンがその仮面をはずすところを見ることはできませんでした。

 まあ、それはともかくとして、朝ごはんにしましょう。


        *


 メイジーはいらないと言ったきり、おそばでうたたねをはじめてしまったので、アリスは、アラジンとクラウンとだけいっしょに朝ごはんを食べました。ドロシーが作ったものには勝てませんが、クラウンの朝食も悪くはありませんでした。甘いはちみつをかけたパンケーキがとくにアリスのお気に入りです。

 朝食が終わったころにフランケンがやってきました。

「よく眠れたか」

 やっぱり感情なんてないみたいな、つっけんどんなお声でした。まあ、アリスはそんなの気にしないのですけれど、アラジンなんかはちょっとだけ不機嫌そうなお顔になっています。パンケーキが甘すぎただけかもしれませんが。

「今日はおじいさんのところまで案内してくれるのね」

 アリスはお返事するかわりに確認しました。けっきょく昨日は妖怪の王さまに会うところまでいけていません。戦争はとっくに始まってしまっているのですから、一刻も早くおじいさんに会わなきゃいけないのです。いつもほんわかしているアリスですけど、焦る気持ちも大きいのでした。

「俺だけなら、一日で行けるだろう。だが、おまえたちを連れていくなら、もう少しかかる」

 フランケンは昨日と同じ、ところどころですこし考えこむような間を空ける話しかたでゆっくり言いました。アリスは、わたしは足が速いからきっとだいじょうぶだわ、と思ったのですが、そういう問題ではないみたいでした。フランケンが理由を続けてお話しします。

「最短で行くなら、『天狗山てんぐやま』のふもとを通ることになる。このあたりならまだいいが、天狗たちは、なわばり意識が強い。『童話の世界』のおまえたちが通るには、いささかやっかいだ」

「天狗どもがつっかかってくるなら、ぶっ飛ばしていけばいいじゃねえか」

 アラジンがぶっそうなことを言いました。フランケンは考えるみたいにすこしだけ両目をつむります。

「おまえたちがそのつもりなら、俺はべつにかわまない」

「考えなしにしゃべんないでくださいよ、バカちん王」

 眠っていたのか、最初から起きていたのかはわかりませんが、メイジーが片目だけ開いて言いました。あんまりにもまったく動かないまま言ったので、みんな最初は誰がしゃべったのか気がつかないくらいでした。

「誰がバカだって?」

「天狗は妖怪の中でも鬼のつぎに戦闘に長けたやつらです。そのうえやっかいなのが、鬼よりも多芸なこと。力まかせにつっこんでくるやつらと違って知恵もある。たやすい相手じゃないんですよ。アラジン王」

 メイジーはまだお眠そうにあくびをして立ち上がりました。トレードマークの血みたいに真っ赤な頭巾をかぶって、手足みたいに大事にしている銃を担ぎます。

「てめえじゃ歯が立たなくても、うちの魔人たちの敵じゃねえんだよ、メイジー」

 アラジンはそう言ってメイジーのそばまで歩いて行きました。アラジンはあんまり大きな身長ではないのですが、メイジーはもっとちいさいので見下ろすかたちになります。

『さすがは我らが主人、虎の威を借る狐よ』

『ここまでくれば潔し、手品の甲斐もなし』

 赤と青の魔人もアラジンのうしろにしかたなくついて行きました。彼らは主人であるアラジン王からあんまり遠くは離れられないのです。

「誰が歯が立たないって言いました? あっしはめんどうだから楽しようって言ってるだけですよ」

「楽するってんならなおさら、一番近いルートで進みゃいいじゃねえか」

 見上げるメイジーと、見下ろすアラジンの視線がばっちりとぶつかりました。いまにもケンカをはじめてしまいそうです。

「まま、アラジン王、メイジーも、そこまでにしておきましょう」

 ですのでクラウンが間にはいります。ぐぐっとアラジンとメイジーをそれぞれ反対側に押しやって、なんとか距離を離しまして、ふいー、と、おおげさに仮面の上から汗をぬぐうような動きをして見せました。クラウンの行動はいつも、どれもこれも芝居がかっています。

「おふたかた、それぞれのご意見はごもっとも。ですのでここはひとつ、女王アリスに判断をゆだねるということでいかがでしょう? ねえ、女王アリス?」

 クラウンは折衷案としてそのようなことを提案しました。そうしてアリスのほうを向きます。アリスはいつの間にかいなくなっていました。

「女王アリス……?」

「あれ、なにしてるの、みんな」

 遠くを見てみますに、女王アリスが見つかりました。おそばにはフランケンもいます。

「遅~い! おいてっちゃうわよ!」

「女王アリス! いったいどこへ行くというのです!?」

「え、天狗山っての行くんでしょ?」

「それをいま話し合っていたところで!」

「だって一番近いのよ!」

「そうですね!」

 クラウンはなんだかもうなにを言ってもアリスの意思は変わらないと思って諦めました。そしてアラジンもメイジーもおんなじ気持ちで諦めたので、やっぱりいつも通り、アリスの決めたとおりにお話しは進んでいくのでした。


 戦争の二日目が始まります。たくさんの攻撃を受けて傷ついた『童話の世界』はひとまず休息を必要としています。ですので、二日目は『怪談の世界』から。

 アリス、アラジン、メイジー、クラウン。彼らの冒険を追いかけてみましょう。



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