ベアとベートはおとなだから
ほのぼのとした高台にて優雅に彼らは向き合います。どちらも窮屈そうに椅子を圧迫して、大きなテーブルいっぱいの料理に舌鼓を打っています。
「ときにベートくん。お妃はお元気かね? 今度『美しい者にしか見えない髪飾り』でも贈りたいのだが、お妃はどのようなこしらえが好みかな?」
贈り物の大好きなベアはそのようにたずねました。がっしりとした身体つきがひと目でわかります。だってベアは王冠とマント以外の衣服をなにも着ていないのですから。いいえ、『着ていないようにみえる』とそのように言うべきでしょうか? ベアに言わせれば『愚か者には見えない服を着ているのだ』ということらしいのですから。
ベアは楽しそうに笑顔を浮かべますが、ベートにしてみればその笑みはなんだか気に障ってしまいます。
ぐるるるるる。だからベートはこたえます。そして不愉快をあらわすように大きなステーキにかじりつきました。
「気に食わんか? まあ婚姻直後の妃に贈り物というのも多少ははばかられるか。ではきみはどうだ? ちょうどハピネスくんに『勇敢な者にしか見えぬ剣』を造っていただいているところだ。きみにも一振り」
言いかけたところで、ぐるるるるる、とベートが唸ります。余計なお世話だ、とでも言いたげでした。そんなベートを見て、ベアは笑います。「あっはっはっは」とわき目もふらずに大笑いです。
「冗談でもないのだよ、ベート。わしの情報では、うむ、『愚か者には理解できない情報』によれば、もうじきこの平和も、脅かされる」
いたって真面目な顔で、ベアは言いました。だけど口を拭うのが適当だったからすこし汚れたままで、なんとなく締まりません。
ぐる? それでもベアの言葉には重みがありました。この世界の住人は誰も彼も楽天的です。その中でベアだけはいつも、災難に備えてつねに目を光らせていました。そのことに対してだけはベートもベアを認めていたのです。
「アリスのお嬢ちゃん、いや失礼、彼女もいまでは立派な女王さまか。とにかく女王アリスへのこたびの呼び出し。そこでおこなわれるであろう会談の結果しだいでは、すぐにでも戦いの準備が必要になるであろう」
ベアは言うと、食事の終わりを示すように、葡萄酒を飲み干しました。その後に乱暴な手つきで口元を拭いますが、やはりちゃんと綺麗にはなっていませんでした。
ぐるるるるる。ベートもベアにならってグラスの中身を飲み干します。ベートは身だしなみに気をつかう男性だったので、しっかりと丁寧に、念入りに口元を拭います。あるいは乱れた全身の毛並みも手短に整えて席を立ちました。
「というわけでだ。やはりきみにも必要だろう? 『勇敢な者にしか見えぬ剣』が」
あっはっはっは! ベアは冗談なのか本気なのかわからない調子で笑います。
ぐるるるるる。だからベートは不機嫌そうに唸るのでした。
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