アラジンの問答


 てのひらにちょうどよい大きさの果実をぽんと放り投げ、またキャッチします。それから指先でボールのようにくるくると回し、おもむろに腕の上を滑らせました。するとどうしたことでしょう、腕から肩へ届こうかというときに、不思議なことにその宝石のような果実は消えてしまいました。

 どこかへ落っことしたのかもしれません。しかしあたりを見渡してもそれらしいものは見つかりません。

 すると、そのように困惑している誰かを見るように、その少年は不敵に笑いました。そして種明かしをするかのようにポケットからさきほどの宝玉を取り出し、得意満面な笑顔を浮かべます。

 アラジンはとても器用ですので、こういった手品が得意なのです。

「ポケットには最初から果実が入っていた」

 端的に青い魔人は言いました。アラジンは不機嫌そうに顔をしかめます。

「じゃあ消えた果実はどこいったんだよ」

 挑戦するようにアラジンはそう言います。

「服の中に滑り込ませたな。背中のほうだ」

 今度は赤い魔人がそう言いました。ちっ、とアラジンは舌打ちします。

「おまえらなあ、もうすこし主人を立たせるってのを覚えたほうがいいぜ」

 背中に隠した果実を取り出しながら、アラジンは不満を漏らします。

 青と赤の魔人は鏡合わせのように対照的に肩をすくめて、

「あいやご主人、なんとお見事な」

「いったいぜんたいどんな手品か」

 そのように言いました。相手は魔人なのですから期待してもしかたがないのですが、あまりに感情のない言葉だったので、アラジンもうなだれました。

 両手に掲げたまったくよく似たふたつの宝玉を気持ちと一緒に取りこぼします。それはすごく価値のある果実なのですが、それがどこかへ転がっていくのを、アラジンは気にも留めませんでした。

 ぼふり、とアラジンは後ろに倒れ込みました。新緑の匂いがアラジンを包み込みます。

「……平和だな」

 そのことに不満があるような声音で、アラジンは呟きます。

「まったくもって平和でございますな」

 青の魔人が主人を立たせるために同意します。

「いったいぜんたいどんな手品なのか」

 赤の魔人がとくべつになにも考えないままに、適当なことを言いました。



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