第9話
「というわけでテール!君には動画とは何かを学んでもらう!」
と、朝食の後に魔王が偉そうな態度でテールに言っていた。そしてその為の教材も既に渡されている。
テールの前にはパーソナルコンピューターと呼ばれる箱が置かれている。教材としてこいつを使えばいいと魔王に渡されたものなのだがテールは遣い方が分からない。魔王の話もこんな小さな箱で何ができるのかと目を細め疑っていたくらいだ。
「さて、どうしたものか……」
テールはこの箱の使い方を魔王に聞きたかったのだが、魔王はテールが使い方を知っているという考えなのかすぐに消えてしまった。
「使い方を知っている人に聞くのが一番だが……」
テールは首を捻る。マリアは何処にいるかわからない。そして魔王もどこかに消えたのだから聞く相手が居ないのだ。
「いや。魔王がお前にも仕えると判断したんだ。きっと簡単に違いない」
テールは彼らを探すのを諦めた。そして自分を鼓舞するとこの箱を使ってみることに決めた。
「何、俺だって長いたびの間にいくつもの魔道具を見てきたんだ。こんな箱くらい使えない事はないさ」
テールは自分は旅で魔道具を使ってきた。そして魔王のいうインターネットに繋がるこの不思議な箱も魔道具なのだろうと考え、使い方を模索することにした。
「魔道具ってのはシンプルに使えれば良いのに、製作者が無駄に変な機能を追加するからややこしいものが多いんだよなぁ……この魔道具はシンプルならいいんだが」
テールは遠い目で過去に使った魔道具に思いを馳せた。
その時間も長くはない。すぐに思考を切り替え箱を見つめ始める。
「黒い、この箱は黒いな。そして小さいことからきっと機能はインターネットと呼ばれる書物を見ることに特化している魔道具なのだろう」
テールは安堵のため息を吐いた。これぐらいの大きさなら無駄な機能などついていないだろうと考え。特化した機能なら使うことも簡単にできるだろう。テールはそう考え頷いた。
「よし、そうと決まればまずは起動方法だ!」
テールは箱に視線を戻した。そこにあるのは箱と称されながらも所々に丸みがありテールにとっては機能性を感じない箱だ。テールはごくりとつばを飲み込んだ。
「綺麗な丸みだな。人の手で創られたものだとは思えないくらいだ……もしかして魔王は俺が分からないのをいいことに芸術品でも渡してきたんじゃないだろうか……」
テールが箱にある溝を指でなぞる。指に伝わった感覚は、ざらっとした感覚ではなく長い年月をかけて研磨された石のような艶やかさだった。
「うわ、凄いつるつるだ。本当に自然が作り出したものなんじゃないだろうか……」
いや、自然が作り出したものなら箱の形にするわけがない。それもただの四角ではなく止丸みを帯びた部分を含めての四角だ。テールは自分の考えもつかない機能がこの箱にあり、本当に自分で使いこなせるかと不安になってきていた。
「……いや、まずは動かしてみるしかない!」
そういいながらテールは箱の動かし方を考える。
「少し凝った職人だと資格がなければ動かないこともあるんだよな……」
テールは勇者の御伽噺で聞いた勇者の剣が隠してあるという洞窟を思い浮かべた。
「あの魔王のことだ。うっかりで渡してきても可笑しくないはずだ」
そんなことを真剣な表情で呟く。しかしそれではテールにこの箱を使うも何もない為、すぐに考えを切り捨てた。
「いや、それならマリアが止めているはずだ。俺の手元にあるということは俺にも使えるという考えは間違っていないはずだ」
そう考えたテールはじっと箱を眺める。そしてテールは先ほどなぞった丸みのある面の溝近くに文字が書かれているのを発見する。
「見たことない言語だが古代文字……いや、この場合異世界文字か」
テールは人差し指で文字のある付近をなでまわす。そしてある程度撫で回すと、撫で回している人差し指を止めると力を込め押し込んでみた。
カチッ。そんな音を出しながら丸みを帯びた部分がずれる。
「うおっ!……壊してないよな……?」
テールは不安に駆られながらも動いた部分を軽く引っ張ってみた。その部分はテールの力に逆らうことなく前後に動く。しかし外れないように止められており、この動くという動作もコンピューターの決められた動作なのだろう。その事実にテールがほっと息を吐いた。
「どうやら壊したわけではないみたいだ。よかった……」
魔王からの借り物だ。いくら勇者で借りた相手が魔王でも人から借りたものを壊しっぱなしにするのは気が引ける。ましてや見た目は大人の勇者と子供の魔王だ。テールからしてみれば村の事度も変わらない見た目で、そんな相手に怒られるのは大人として駄目なのではとため息を吐いた。
「いや、今はそんなことはどうでもいい。この魔道具を使う為の進展があったぞ」
テールの声は少し弾んでいる。テールは指で丸みを帯びた動く板を動かすとそこには裏側と違う形の穴が複数開いている。
「穴……か。隠されているということはこれが起動に関係するのか?」
テールは穴を触りながら思考する。しかし箱は動く気配を見せない為その思考はすぐに破棄をした。そしてテールは別の結論を出した。
「いや、文字を押したら外れたんだ。この発見を生かし文字の箇所を押してみればいい!」
テールは早速実行した。同じ形の異世界文字で書かれた場所。
「うおっ!ここも開くのか」
別の異世界文字で書かれた場所。
「……何もおきないな」
そうして記号が書かれた出っ張りに辿りついた。テールは迷わずその出っ張りを押す。箱は静かな音を立てながらも確かに動き、テールの押した出っ張りの下が光っている。
「やった!魔道具の起動に成功した!」
テールは喜び、魔道具の次なる姿を待った。しかし1分2分と時間が経っても魔道具は静かな音を立てているだけだ。
「どうしてつかえないんだ!」
テールが大声で叫んだ。頭を抱え地面に突っ伏す体制だ。ここまでやって発展がないとしたらどうしたらいい。テールはそう考えた。
「どうしましたか?」
そんなテールに掛けられたのはタイムアップを報せるマリアの声だった。
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