第10話

「テール様、モニターに接続していないと画面が映らないんですよ」

「なるほど、この穴は別の魔道具を接続する為の穴なのか」

 テールの知りたかったパーソナルコンピューターと呼ばれる箱の使い方をマリアは一つ一つ丁重に教えていく。テールはマリアの説明を吸収するべく、聞き逃さないように聞いている。

「じゃあこっちの穴は?」

「その穴も別の機材をつけるんですよ。今度用意しますね」

 テールが質問をしてマリアが答える。ありきたりかもしれないが彼らはそのありきたりでパーソナルコンピューターを使うという目標に近づいている。

 マリアが愚痴を言う。

「全く、魔王様にも困ったものです」

「あぁ、まさか別の魔道具を繋がないといけないとは……」

 テールはしみじみと言う。自分がどんな状況に置かれていたのか思い返しているのだろう。何も知らないテールに対して不十分だった魔王の性で、テールは答えのない回答を延々と解いていたようなものだ。この事実にマリアも魔王の擁護が出来ない。その為マリアもテールに苦笑いを返すのみだった。

「私が教えますので、この事は水に流していただけますか?」

「あぁ、使えるなら文句はない」

 魔王の手伝いがなかったとしてもテール自身、異世界の知識には興味があったりする。しっかりと異世界の知識を学べるであろうこのパーソナルコンピューターを使えるのは純粋に嬉しかった。その為か、顔に出るくらいは上機嫌だ。

「ふふ、楽しそうですね」

「わかるか?知らない事を知れるのはいくつになっても楽しいものだ。小さい頃に感じた、素振りを重ねるごとに鋭くなっていく未知の感覚。比べるのは可笑しいかもしれないけど、今の気分はそんな感じだ」

 テールの顔はおもちゃを貰った少年のようだ。

王都の図書館でも見れないであろう異世界の情報だ。テールは期待に胸を膨らませている。

「そうですか。ではがっかりされないといいですね」

「あぁ、そうだな」

マリアが箱にケーブルと呼ばれる接続機具を差し込みモニターに繋ぐ。そしてスイッチを入れるとモニターに映し出される画面が変わる。映し出された画面にテールが思わず魅入った

「綺麗だ……」

 思わずテールが呟いた。画面にはOSのロゴが映り画面の下には青いバーが白い線の中を動き回っている。異世界人にとっては見飽きたであろう映像もテールには光のイルミネーションに見える。

 思わずテールがマリアに聞いた。

「なぁ……魔王は俺の知識がないことをいいことに芸術品を渡してきていないよな?」

「ふふ、もしそうなら魔王様も芸術品を嗜むんですね。とでも言ってあげてください」

 マリアはテールの発言に笑いながらいう。

 モニターの後ろについているスピーカーから起動の音が聞こえてくる。

「セキュリティを意識するならパスワードを掛けるべきですが、ここはこのパソコンがある世界ではありませんので見られる心配はないでしょう。ですから、このパソコンにはパスワードはかけていません」

「パソコン?パスワード?」

「はい、パソコンはパーソナルコンピューターの愛称。パスワードは家の鍵だと思ってください」

 テールが首を傾げた。

「家の鍵ならかけておくべきではないのか?」

「本来ならそうでしょう。しかし物理的にパソコンを開く人はいません。また、セキュリティソフトは万全で、よほどのことがない限り安心だと思いますよ?」

 マリアが説明をする。その度にテールは気になった単語を聞き返す。

「セキュリティソフト?どんな奴だ」

「所謂パソコンの門番です」

 パソコンには鍵ではなく門番が居る。用心しているのか無用心なのかテールは分からなくなるが、勤勉なのはいいことだとテールは頷きながら言う。

「門番なら休憩を上げなきゃな」

「ふふ、そうですね。ついでにねぎらいの言葉もかけてあげると喜ばれるかと」

 マリアが笑いながら言う。面白い話を聞いたという感じだが面白がっているわけではなく、可愛いものを見た。そんな印象を感じる笑みだ。

「あぁ、そうさせてもらうよ」

 テールはマリアにそう言葉を返すとモニターに目を向けた。モニターは静止した状態になり模様が沢山映っている。

「この模様がアプリケーションです。様々な機能があるんですよ?」

「機能?インターネットを見るだけではないのか?」

 マリアはくすりと笑った。

「例えばこの模様。クリックと呼ばれる動作をすることで使うことが出来、数字の計算をすることができるのです」

 テールは驚愕の表情を浮かべた。計算はいい学校でしっかりと学んだ人でないと上手く扱うことの出来ない程の特殊な工程だ。それがこの箱にできるというのだ。テールは言葉を述べる。

「この箱でそんな高度なことができるのか」

「えぇ、他にも文字や数字の記録や、音楽を作ることだって出来ます」

 テールは怖くなった。それほどの機能がある物だ。自分に扱いきれるだろうか。いや、もし壊れてしまった時、どう責任を取ればいいのか。

テールは眩暈で倒れてしまいそうな気分になった

「なぁ、本当に俺が使ってもいいのか?」

「えぇ、かまいません。手伝ってもらうのですから、自由にお使いください」

 マリアはそう告げる。テールは再び聞き返す。

「もし壊したら俺はどうすればいい?これほどのもの、俺には返せそうにはないんだが」

「かまいません。そのパーソナルコンピューターはテール様にあげます。壊した場合は私にお申し付けください」

 マリアはそういってお辞儀をするのだった。

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