第 56 話
「んっ? ようっ!」
「あ、あぁ………」
「どうも……」
バニップ討伐依頼を達成したエルヴィーノたちが報酬金を受けとり、ギルドから宿へ向かおうかと思っていたところで、ギルドに入ってくる集団に遭遇した。
よく見てみると、その中には顔見知りの冒険者がいたため、エルヴィーノは声をかける。
相手もエルヴィーノのことに気付き、挨拶を返した。
クラン【鷹の羽】のグスターヴォとオフェーリアだ。
「そちらは何を?」
報奨金を得てニコニコ顔をしているセラフィーナを見て、何か依頼を達成したのだろうと察したのか、オフェーリアが問いかけてきた。
「バニップの討伐だ」
「っ!? またあんた1人でか?」
オフェーリアの問いに対し、エルヴィーノは簡単に説明する。
その答えに、グスターヴォが反応する。
「いいや、俺は見ていただけで、今回はこいつ……セラとその従魔に任せた」
オルフェオのことを考えて、今回はセラフィーナとリベルタのコンビに任せて自分は動かなかった。
エルヴィーノは、そのことをグスターヴォに伝える。
「なっ!? バニップを1人と1頭でだと……」
エルヴィーノの答えに、グスターヴォは衝撃を受けたような表情で呟く。
バニップほどの魔物を、たった1人と従魔1頭で倒すだなんてとんでもないことだ。
先日のこともあり、エルヴィーノならばそれも不可能ではないかもしれないと思っていたが、それをやったのがエルヴィーノではないというのだから驚くのも無理はない。
「化け物はあなただけではなかったようですね……」
「化け物って……」
1人で他国に侵入し、無傷で帰ってくるようなエルヴィーノならば、バニップの討伐なんて難しくはないだろう。
しかし、それを成したのがエルヴィーノではないというのだから、オフェーリアも信じられないという面持ちで呟いた。
その化け物呼ばわりの呟きに対し、エルヴィーノは言いすぎだと言わんばかりに反応した。
「夫婦そろってかよ……」
「この分じゃ、子供もとんでもないことになるでしょうね……」
「……いや、俺たちは夫婦じゃないし、俺たちの子でもない」
「「えっ!?」」
とんでもない実力を持っているのは、エルヴィーノだけではなくセラフィーナも。
グスターヴォとオフェーリアは、そんな2人のことを夫婦だと思っており、エルヴィーノに抱かれているオルフェオのことを、2人の子供だと思っているようだ。
以前から夫婦に見られることがあったが、オルフェオが来てからというもの、全員が全員そう見るようになっている。
毎回のことで面倒ではあるが、エルヴィーノは定型文ともいうべき反論を2人にした。
そのまさかの反論に、オフェーリアとグスターヴォは思わず固まった。
「
「そ、そう……」
確かにエルヴィーノとは夫婦ではないが、セラフィーナとしてはいずれはそうなりたいという思いがある。
そのことを暗に伝えるように、セラフィーナは先ほどのエルヴィーノの言葉に付け足した。
同じ女性のオフェーリアはそれで察したらしく、頷きを返した。
「……そっちはオーガ数体だったか?」
「えぇ……」
「まぁな……」
話がそれてしまったため、エルヴィーノは元に戻す。
ギルド所長のエヴァンドロから、彼らクラン【鷹の羽】には別の依頼をしたと聞いていた。
帰ってきたということは、その依頼を達成したということだろう。
そう考えたエルヴィーノは、2人にそのことを尋ねると、2人はすぐれない表情で返事をした。
「どうした? なんか歯切れが悪いな」
「もしかしてオーガに……?」
表情と返事の声から、何かあったような雰囲気を感じる。
そのため、エルヴィーノとセラフィーナは、オーガ討伐に向かった時にクランのメンバーに死傷者が出たのかもしれないと思った。
「いえ、オーガの方は問題なく討伐できました」
「じゃあどうして……」
オーガの討伐で何かあったのかと思っていたが、オフェーリアによって否定された。
それならば、どうして彼らの表情がすぐれないのか分からない。
「今回のオーガ討伐に際し、私たち【鷹の羽】は選抜を組みました」
「あぁ……」
クランには新人育成の役割も担っている。
見込みのある者でも、新人の時は金がなく大した装備をしないまま魔物と戦闘したりして命を落とすようなことがある。
そういったことを減らすために、クラン内の冒険者が指導・援助をして、有力な仲間を増やすというものだ。
しかし、今回のオーガ討伐は、ちゃんとした実力や経験のない者を連れて行けるような相手ではない。
そのため、クランリーダーのオフェーリアとサブリーダーのグスターヴォは、一緒にオーガ討伐に向かう者たちを選んだ。
そうすることは当たり前のため、エルヴィーノは頷きで返す。
「その残してきた仲間の数人が、行方不明になったらしい……」
「何……?」
言いにくそうなオフェーリアの言葉を、グスターヴォが引き継ぐ。
危険なオーガ討伐で何かあったのではなく、安全なこの町中で行方不明になるなんて、そんなおかしなことがあれば2人のような表情になるのも理解できる。
だが、そんなことが起こるなんて信じられないため、エルヴィーノは不思議そうに声を漏らした。
「そのことでギルド所長と話をしようと思っていたんだが……」
「……あなたたちも協力してもらえませんか?」
この町の情報を知るなら、ギルドに聞く方が速い。
何か情報がないかを知るため、オフェーリアとグスターヴォは所長のエヴァンドロのところに行くつもりのようだ。
その前にたまたま会えたことで、2人はあることを思いついたらしく、顔を見合わせる。
それで同じことを思いついたことを確信した2人は、エルヴィーノにも協力してもらうことを頼んできた。
「今度は冒険者か……」
数日前は行方不明になった子供たちを救出したというのに、今度は行方不明になった冒険者の捜索を求められた。
こんなことが起こるなんて思わなかったため、エルヴィーノは思わずため息を吐きそうになった。
「まぁいいか。2人には借りもあるしな」
「そうか!」
「助かります!」
数日前に解決した行方不明の子供の救出。
それを1人でこなしたことで、自分の能力が知られてしまうことになる。
それを隠すため、2人のクランには協力をしてもらうことになった。
その時の借りを返すため、エルヴィーノは行方不明になった冒険者たちを探すことにした。
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