第 57 話
「今回の場合、エル様がいるからすぐに見つけられそうですね」
「まあな」
数日前にあった子供の行方不明。
それを解決したと思ったら、今度は冒険者が行方不明になるという事件が起きた。
その被害者が所属しているクラン、【鷹の羽】のリーダーとサブリーダーを務めているオフェーリアとグスターヴォに求められ、エルヴィーノたち被害者捜索を開始することになった。
オフェーリアたちからは、エルヴィーノの能力の関係を考慮して、捜索作方法は任せてくれた。
そのため、エルヴィーノたちは自分たちだけで捜索を始めることにしたのだが、先日の行方不明事件の犯人の捜索よりも簡単だとセラフィーナは考えていた。
というのも、エルヴィーノには魔力の痕跡を察知することができるからだ。
それを利用すれば、犯人、もしくはの被害者の行方を捜すことは難しくないからだ。
「リベルタもいるしね」
「ニャウ!」
エルヴィーノだけでも捜索できるだろうが、こちらにはセラフィーナの従魔で、オンブロキャットという種類の魔物であるリベルタもいる。
犬ほどの嗅覚はなくても、猫は人間の数十万倍と言われている。
この数十万というのは、人間より何倍も濃くにおいを感じるというわけではなく、遠くのにおいや微かなにおいを察知するという意味だ。
犯人や被害者のにおいを追って捜索するには、まさにうってつけの存在とも言っていい。
そのため、セラフィーナはリベルタにも期待の言葉をかけた。
それに対し、リベルタは「任せて!」と言わんばかりに鳴き声を上げた。
「ここが行方不明になった冒険者の部屋か……」
リベルタがいることから、においを追うことはオフェーリアたちも察していた。
そのため、クランが管理している寮内の、被害者の部屋に入ることを許可してくれた。
本来はクランに所属している人間以外が入ることは認められていないそうだが、オフェーリアとグスターヴォから指示が出ているため、エルヴィーノたちは特別だそうだ。
「……犯人に繋がるような証拠はないな」
部屋に入ったエルヴィーノたちは、何とか事件解決に繋がるものがないかと調べる。
しかし、服の散らかりようからいって、被害者が多少抵抗したことぐらいしか分からない。
「やはり、エル様とリベルタに頼るしかないですね」
「そうだな」
「ニャウ!」
犯人に通じる物的証拠がないのなら、他の痕跡で探すしかない。
エルヴィーノは魔力、リベルタはにおいだ。
セラフィーナに頼まれたエルヴィーノとリベルタは、自分たちの得意な捜索方法を開始することにした。
「ニャウ!?」
「んっ? どうしたの?」
クラン【鷹の羽】の寮から、被害者のにおいを頼りに捜索を続けていたリベルタだったが、急に立ち止まり首を傾げる。
足を止めたリベルタに、主人であるセラフィーナが問いかける。
「……もしかして、においが消えたのか?」
「ニャウ!」
リベルタの反応を見て、エルヴィーノは少し考えた後に問いかける。
どうやら、その問いは正しかったらしく、リベルタは鳴き声と共に頷いた。
「……どういうことでしょう?」
「恐らくだが、ここから転移したか、近付かせないためににおいを消す作業を行ったのかもしれないな……」
リベルタはにおいを探って町中を歩いていた。
そのにおいが無くなったことで探れなくなったようだ。
においいが無くなったということは、ここから一瞬にして距離を取ったか、においを消すための工作を行ったかだ。
前者ならば有力なのは転移。
しかし。転移の魔法を使える者も、魔道具である転移魔石を使用できるものもかなり限られる。
そう考えると、後者の方が確率は高い。
「どちらにしても用意周到だな……」
転移したとしたら、かなり大規模な組織だと想像できる。
しかし、それにしては誘拐したのが成人したばかりの冒険者。
そんな人間を誘拐して、どうして追跡されないようににおいを消す必要があのだろうか。
あまりにも用意周到すぎて、エルヴィーノとしては違和感がぬぐえない。
「まぁいい、魔力痕跡までは消せていないからな」
「ニャ~ウ……」
「気にするな。匂いを消すやつもたまにはいるもんだ」
においは消せているが、魔力痕跡までは消せていない。
つまり、まだ追跡をする方法はあるということだ。
ここからはエルヴィーノに任せるしかないことに、リベルタは申し訳なさそうに鳴き声を上げる。
それに対し、エルヴィーノは頭を撫でて慰めてあげた。
そして、魔力痕跡を探りつつ、エルヴィーノは先頭に立って歩き始めた。
「……思ったとおりスラム方面のようだな」
リベルタのにおいによる追跡ができなくなり、エルヴィーノの魔力痕跡探知を利用しての捜索を開始した。
その成果により、エルヴィーノたちはイガータの町の外れ、スラム街の方へと進んで行っていた。
犯人、それに被害者を短時間で隠すとなると、犯行現場からはそれほど離れていないと考えられる。
そのため、被害者を隠すなら可能性の高いのは、人の近寄らないスラム街だ。
その考え通り、魔力の痕跡はスラム街に続いているため、エルヴィーノは納得の声をあげた。
「……あそこだな」
スラム街を進むこと数分。
町の外れまで来たエルヴィーノは、とある場所に行きついた。
その途切れた場所の近くには、樹によって隠されているが1つの建物が存在している。
魔力痕跡はその建物に続いていることから、犯人、もしくは被害者はその建物の中にいる可能性が高いということだ。
「探知します!」
「待て!」
「えっ!?」
ここまでの魔力痕跡の追跡によって、さすがのエルヴィーノも疲弊している。
そのため、セラフィーナは建物の内部を探るために探知魔法を発動させようとするが、エルヴィーノはそれを止める。
止められたセラフィーナは、驚きつつもそれに従う。
「においを消すようなやつだ。探知したことに気づかれたら逃げられるかもしれない」
「……そうですね」
冒険者の中には、嗅覚に優れた魔物を従魔にしている者も存在している。
その対策として、においを消して逃走を図るような犯人だ。
そのことから、恐らくは単独犯ではないだろう。
そこまで注意して犯行に及ぶような者たちだ。
かなりの実力を有している可能性が高い。
もしかしたら、探知能力に反応する人間もいるかもしれない。
そのため、エルヴィーノはセラフィーナの探知を止めたのだ。
エルヴィーノの言葉を受けて、セラフィーナも納得の声を上げた。
「このまま乗りこみますか?」
「いや、クランに報告しよう」
クラン【鷹の羽】のオフェーリアたちからは、犯人や被害者に通じる情報を探り当てて欲しいということだった。
このまま乗りこんでもいいが、犯人逮捕と仲間の被害者救出は自分たちの手で行いたいと思うのが人の情というものだ。
彼らの顔を立てて、エルヴィーノは探し出した建物の場所を報告し、彼らの判断に任せることに決めた。
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