第 55 話
「全く……、リベルタって指示しないと自分勝手なんだから……」
「ニャウ!」
せっかくエルヴィーノにバニップの討伐を譲ってもらったというのに、リベルタが先に攻撃をしてしまったため、セラフィーナは頬を膨らませて抗議する。
しかし、そんなことを言われても知らないと言わんばかりに、リベルタはそっぽ向いてセラフィーナの言葉を聞き流した。
『相変わらずおかしな主従だな……』
魔物の討伐をするとき、エルヴィーノたちの中で戦いたい者が戦うといったようなスタンスを取っていて、戦いたい者が多かった場合は早い者勝ちとしている。
今回、エルヴィーノはオルフェオを気遣い、バニップの討伐をセラフィーナに譲ることにした。
自分の従魔であるノッテとジャンにも、参加しないように指示したため、残るのはセラフィーナとその従魔のリベルタだけだ。
エルヴィーノとその従魔だけで戦う場合、主人優先で行動することが多い。
主人であるエルヴィーノのことが大好きだからだろう。
そんな関係のエルヴィーノたちとは違い、セラフィーナとリカルドの主従関係はあまり上下関係がないように見える。
セラフィーナはエルヴィーノのことになると周りが見えなくなる時があるし、従魔のリベルタはネコ科だからなのか、指示されなければ好き勝手に行動する傾向にある。
つまりは、似た者同士の主従といったところだ。
そのせいで、時々このようにちょっとした揉め事が起きるのだ。
そんなセラフィーナとリベルタの関係を見て、エルヴィーノは不思議そうに心の中で呟いていた。
「リベルタは援護! こいつは私がやるから!」
「ニャウ……」
獲物を横取りされたくないと思ったセラフィーナは、リベルタに援護のみの協力を求める。
その指示を、リベルタは「仕方ないな……」と言わんばかりに受け入れた。
「ブーッ!!」
セラフィーナとリベルタのことなど気にすることなく、傷をつけられたバニップは怒りの声を上げる。
「変な鳴き声してうるさいわね!」
リベルタの勝手な行動に少しイラっとしているところで、バニップが殺気をみなぎらせて睨みつけてくる。
その殺気がさらにイラつき、セラフィーナはバニップに向かって文句を言った。
「ブーッ!!」
「っと!」
頭が鳥の巨大な蛇のバニップは、硬い嘴を武器としてセラフィーナに襲い掛かる。
蛇の体を利用して、ほとんどモーションなしにもかかわらず高速で迫りくる攻撃。
それを、セラフィーナは横へと跳ぶことで回避した。
「……直撃したら穴が開きそうね」
躱されたことで、バニップの嘴が地面に刺さる。
それにより、先程までセラフィーナがいた場所には深い穴が開いた。
それを見たセラフィーナは、ふと思ったことを口にした。
「ニャウ!」
「ブッ!?」
「あっ!」
セラフィーナをターゲットとしたバニップは、次の攻撃をしようと体をくねらせる。
そんなバニップに対し、死角へと回ったリベルタが攻撃を仕掛ける。
爪による斬りつけにより、バニップはまたも体に傷を負う。
先程よりも深い傷を負い、バニップの体から血が飛び散った。
「もう! リベルタは……!!」
「ニャウ!」
またも自分より先に攻撃を当てたリベルタに、セラフィーナは非難めいた声を上げる。
しかし、リベルタは「弱らせただけ!」と言うかのように返答した。
「しょうがないなー!!」
攻撃を受けたため、バニップ意識がリベルタに向く。
それこそがリベルタの援護。
それが分かっているため、セラフィーナは隙ができたバニップに向かって一気に距離を詰めた。
「セイッ!!」
距離を詰めつつ、剣に纏わせていた魔力の領を増やすセラフィーナ。
その剣を振りかぶり、セラフィーナは唐竹斬りを放った。
「ブッ!!」
まっすぐ振り下ろされた剣により、バニップの首が斬り飛ばされる。
飛んで行ったバニップの頭から、短い悲鳴のようなものを上がる。
そして、首のなくなった体は少し地面を跳ねた後、全く動かなくなった。
「あ~あ、ほとんどリベルタの成果じゃない……」
「ニャウ!」
依頼を達成したエルヴィーノたちは、バニップの死体を影の中に収納してイガータの町へと戻った。
帰りの道中もそうだが、町中に入ってもセラフィーナは機嫌斜めだった。
エルヴィーノに格好よくバニップを倒すところを見せたいと思っていたのに、どちらかというとリベルタの方が格好よく映ってしまった。
その不満が消えないため、愚痴っている状況だ。
さすがにしつこいため、リベルタはもう知らんぷりしている状況だ。
「まあまあ、結局最後はお前が倒したんだから倒したんだからいいだろ?」
たしかにバニップを倒せたのはリベルタのお膳立てがあったからだが、いつまでも不機嫌にされているのは気が滅入る。
そのため、エルヴィーノはセラフィーナを宥めるように声をかける。
「……分かりました」
自分でも、「もういいかな」と思っていたところだったが、なんとなく止め辛くなっていた。
そこでエルヴィーノに宥められたため、セラフィーナは渋々といったような表情をして愚痴るのをやめることにした。
「ブ~……」
「こらこら、バニップの鳴き声の真似なんかするんじゃないよ」
しつこいと言えば、エルヴィーノの胸に抱かれているオルフェオもだ。
どうやらバニップの鳴き声が面白かったらしく、何度も真似をしているのだ。
そのたびにやんわりと止めているのだが、なかなかやめてくれないため、エルヴィーノは少し困っていた。
「子供って、おならとか好きですもんね……」
「そうだな……」
普通の人族ならば高齢者になる年月生きてきたため、子供の面倒なんて何回も見てきた。
シカーボのギルド所長であるトリスターノの娘もその一人だ。
その経験上、子供が今のオルフェオのように繰り返すのは、ある意味あるあるの反応と言ってもいい。
そのため、オルフェオが飽きるまで付き合ってやるしかないと、エルヴィーノは諦めることにした。
「……そういや、お前も昔は……」
「それは思い出さなくていいです!」
よく考えたら、セラフィーナも赤ん坊の時同じようなことをしていたことを思い出す。
その時のことを口に出そうとしたエルヴィーノだったが、昔のことを言われるとどんな恥ずかしいことをしていたか分からないため、セラフィーナは少し強い口調で遮ったのだった。
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