第 48 話
「おいっ……」
気を失い横たわる3人。
絡んできたことからも、明らかに自分の追っている事件に関連する者たちだ。
5人中2人は殺してしまったが、3人残っていれば欲しい情報は得られるだろう。
その3人の前に立ち、エルヴィーノは声をかける。
「おいっ! 起きろっ!」
気を失ってから少し経っているので、そろそろ目を覚ましてもいい頃だ。
それなのに目を覚まさない3人に、エルヴィーノは若干苛立ちつつ声をかける。
「チッ!!」
声をかけても反応しない3人に、エルヴィーノは苛立たしげに舌打ちをする。
3人が目を覚ますまで待つつもりでいたが、我慢できなくなったので無理やり起こすことにした。
「……はっ!?」
軽い平手打ちをしたことで、ようやく1人目を覚ました。
2人いた剣使いのうちの片方だ。
目を覚ました男は、自分の現状を理解しようと周囲を見回す。
そして、目の前にいる男のものと思われる魔力によって手足を拘束されているのを見て、自分たちがエルヴィーノに気絶されたことを思い出したようだ。
「聞かれたことに答えろ」
1人でも起きればそれでいい。
エルヴィーノは横たわる男を見下ろすようにしゃがみ込み、淡々とした口調で命令する。
「フンッ!」
何も話すつもりはないということだろう。
男は鼻を鳴らすとともにそっぽを向いた。
「仕方ない……」
見た目は20代でも、エルヴィーノはもう80年以上生きている。
それだけ長いこと冒険者を行っていれば、拷問の手段を知らないわけではない。
しかし、拷問で吐かせるには時間がかかる。
そのため、エルヴィーノは手っ取り早く子供たちに関する情報を吐かせる方法を選択することにした。
「っ!? こ、これはっ!?」
エルヴィーノが男に手のひらを向けると、魔法陣が浮かび上がる。
それが何の魔法陣だか分かっているのか、男は驚きと戸惑いの声を上げた。
「まさか隷属魔法!?」
「その通り」
エルヴィーノが情報を吐かせるために使用するのは、男が言うように隷属魔法だ。
基本的には犯罪者を自由にさせないための手段としてだが、この世界には奴隷制度が存在している。
その奴隷化するために使用されるのが隷属魔法だ。
「バカな!? 魔石も使用せずに使用できるはずが……」
闇属性の隷属魔法。
そのため、大量の魔力を必要とする。
普通の奴隷商が隷属魔法を使用するとなると、大量の魔石を使用しなければ魔力不足で失敗に終わってしまう。
それなのに、魔法陣の中に魔石が置かれていない。
この状態で隷属魔法を使用しても失敗に終わるだけだというのに、エルヴィーノは全く気にすることなく魔法を発動させている。
それだけ自信があるということだ。
しかし、いくら何でも魔石を使用せずに隷属魔法を使用できるわけがないと、男は信じられない表情でエルヴィーノのことを見つめた。
「……よし。じゃあ、これから聞かれたことに答えろ」
「……はい」
隷属魔法の魔法陣が光り、次第その光りが治まっていく。
そして、完全に光りが治まったところで、エルヴィーノは男に命令する。
男は先ほどまでの反抗的な態度をすることなく、エルヴィーノの命令に素直に返事をした。
どうやら、隷属魔法は成功したようだ。
「お前たちはアルーオに雇われた者たちか?」
「……はい」
エルヴィーノの問いに対し、男は僅かに間を置き返答する。
本心では答えたくないが、隷属魔法の強制力によって答えざるを得ないためだろう、
正確な答えが聞ければそれでいいため、エルヴィーノもそんな僅かな抵抗なんて気にしない。
それに、エルヴィーノが思った通り、この男たちはアルーオ王国に雇われた者たちらしい。
「狙いはカンリーンとチョディアの不仲か?」
「……はい。理想は両国の戦争開始だそうです」
「やっぱりか……」
エルヴィーノの問いに、男が返答する。
その返答を受けて、エルヴィーノは正解してほしくない自分の予想が当たっていたことに、思わずため息を吐きたくなった。
場合によっては、国同士のもめ事に発展するかもしれないからだ。
「……まぁ、いいか……」
国同士のもめ事になるかもしれないが、別に自分が関わらなければいいだけの話だ。
自分は誘拐された子供たちを、無事親元に返したいだけだからだ。
それ以上のことは、自分に火の粉がかかるときに限り動けばいい。
そう考えたエルヴィーノは、あっさりと気持ちを切り替えた。
「それで? 子供たちはどの方角に連れて行った?」
「……分からない。この山の麓としか……」
どうやら、この男は子供たちを誘拐した者の仲間であっても実行犯ではないようだ。
子供たちをどこに連れて行ったのかまでは分かっていないようだ。
「……子供たちは生きているのか?」
もしも誘拐して息の根を止めたと言われたら、アルーオ王国に対してそれ相応の報いを受けさせてやりたい。
今住んでいるカンリーン王国の貴族に対し、エルヴィーノは結構顔が広い。
それでもなるべく貴族とは深い関係にならないようにしているが、もしもの時には手を貸すのもやぶさかではない。
そんな思いをしながら、エルヴィーノは本当は聞きたくないことを尋ねた。
「……分からない。しかし、殺すようには言われていない」
「微妙だな……」
男の返答を受けて、エルヴィーノは色々と思考を巡らせる。
その答えだと、まだ生きている可能性はあるということだ。
しかし、アルーオ側が関わっていると判断された場合、もしかしたら始末する命令が下されるかもしれない。
自分が近づけば、それだけ子供たちに危険が及ぶかもしれない。
そうなると、今ここで引き、ゲルボーゼ辺境伯に帆報告して判断を仰いだ方がいいかもしれない。
それよりも、アルーオ側の関与を示す証拠を手に入れなくても、自分が迅速に動いて子供たちだけでも助けることさえできれば良いのではないか。
そのどちらを選択すれば良いかと、エルヴィーノとしては悩むところだ。
「考える間でもないか……」
国同士のことなんて、エルヴィーノからすればはっきり言ってどうでもいいこと。
それならば、子供たちを救うことを最優先にするべきだ。
そう結論付けたエルヴィーノは、奴隷化した男に
「この2人は、お前以上のことを知っているか?」
「……いや。俺と同じことしか知らない」
まだ気を失っている2人。
その2人を指さし、エルヴィーノは問いかける。
それに対し、男は首を左右に振って返答する。
「そうか……」
目を覚まさない2人が他に知っていることがあったなら、起こして奴隷化して質問しているところだが、知らないというのならもうこれ以上聞くことはない。
「シッ!」
「っっっ!!」
““ビクンッ!!””
聞きたいことは聞き終えた。
それならば、もうこの3人に用はない。
エルヴィーノは剣を抜き、3人に向かって振りぬく。
その3振りによって、奴隷化した男と気を失っていた2人の命は尽きた。
「……とりあえず、山を下りるか……」
アルーオ王国が関わっていることは分かったが、こんな下っ端を捕まえたところで証拠になるとは思えない。
それよりも子供たちの救出を優先することにしたエルヴィーノは、まず山を下りることにした。
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