第 47 話
「お前らはどこに雇われてるんだ?」
「……何のことだ」
敵に前後を挟まれ、左右からの攻撃。
逃げ場はどこにもないように思えるが、上下は開いている。
その開いている上の部分を利用して、先ほどの攻撃を躱したに過ぎない。
理屈は分かるが、あの一瞬にその判断をしたエルヴィーノのことを、男たちは脅威に満ちた視線で見つめる。
そんな男たちに対し、エルヴィーノはどこに雇われてこの周辺を警戒していたのかを問いかける。
しかし、聞かれたからと言って正直に答えるわけもなく、槍を持つ男は惚けるように返事をした。
「隠したければ隠せばいいさ、どうせ捕まえて吐かせるだけだ」
聞いたエルヴィーノとしても、最初から正直に答えるとは思っていない。
ただ、自分との実力差に気付き、降参してくれないかという僅かな期待から聞いてみただけだ。
答えないのなら、無理やり答えさせるだけの方法は心得ている。
子供たちを少しでも早く救出するために、面倒な手間を省きたいのだが、やはりそう上手くいかないようだ。
「俺たちに勝てると思っているのか?」
「簡単だな」
余裕の表情で相手をするエルヴィーノに、男たちは怒気を強める。
5人とも武に覚えのある者たち。
それが連携して戦うのだから、負ける気など毛頭ないようだ。
しかし、そんな男たちを前に、エルヴィーノは笑みを浮かべて返答した。
「……武器も持たずにやるつもりか?」
「舐めているのか?」
「その通りだ」
態度で理解してくれたようだ。
男たちが言うように、エルヴィーノは彼らを舐めている。
実力差から、負ける気がさらさらないからだ。
それに、武器を使わないのではなく、使えないの方が近いかもしれない。
というのも、彼ら程度を相手にするとなると手加減が難しからだ。
勢いあまって皆殺しにしては、子供たちの居場所を吐かせることができない。
そうしないための配慮だ。
「さっきの攻撃を躱しただけで調子に乗るなよ!」
あまりにも舐めた態度に我慢ができなかったのだろう。
槍使いの男が、こめかみに青筋を立ててエルヴィーノへと襲い掛かってきた。
「シッ!!」
自分の間合いに入ったエルヴィーノに対し、槍使いは突きを放ってくる。
しかし、味方の方へ誘導するための突きなどではなく、エルヴィーノを仕留めるための攻撃だ。
しかも、1撃ではなく連撃だ。
「良い突きだ。だが……」
「っ!?」
急所目掛けて繰り出される槍による攻撃。
先程よりも鋭いその攻撃を、エルヴィーノは僅かに体を動かすだけで回避する。
そして、タイミングを見計らい、槍を突き出した瞬間に男の懐にステップインした。
「がっ!?」
「接近された時の対応がいまいちだな」
槍を武器とする場合、その間合いの有利性を利用して戦うものだ。
しかし、攻撃を躱され、接近されてしまうと、武器の長さが邪魔になる。
当然そのことは分かっているが、なまじ突きの技術が高いせいで、この男はその対処法をしっかり訓練できていないようだ。
接近され、男は槍の柄の部分で攻撃をしようとしてきたが、突きによる攻撃と比べると拙い。
その攻撃が届く前に、エルヴィーノの肘打ちが腹に突き刺さり、男はたたらを踏んで後退した。
「おっ!?」
槍使いに一撃入れたところで、エルヴィーノに向けて右から矢、左から火球が飛んできた。
弓使いと魔法使いが、仲間の槍使いが離れたところを狙っていたようだ。
“パシッ!!”“パンッ!!”
「「っっっ!?」」
矢と魔法、そのどちらかがエルヴィーノに当たると思われた瞬間、矢はキャッチされ、火球は魔力の壁によって阻まれた。
あまりにもあっさりと自分たちの攻撃が防がれ、弓使いと魔法使いは驚きで固まった。
「この程度の威力じゃ話にならない……なっ!」
「ぐえっ!!」
言葉の語尾と共に、エルヴィーノは弓使いに矢を投げ返してやる。
その矢は高速で飛んでいき、弓使いの腹を貫いた。
それによって前のめりに倒れた弓使いの男は、大量の血を流して動かなくなった。
「貴様!!」
「なんだ? 殺されないとでも思ったのか?」
仲間を殺られたからか、魔法使いの男が怒りの声を上げる。
確かに先ほど捕まえて吐かせるとは言ったが、何も全員捕まえる必要はない。
2、3人生かして捕まえれば、誰かしら知っているはずなので、多少人数が減っても問題ない。
そのため、魔法使いの反応に対し、エルヴィーノは平然と答えた。
「「このっ!!」」
魔法使いの男とやり取りをしているエルヴィーノに対し、剣を持つ2人の男たちは左右から攻めかかる。
「それはさっきも見た」
「そうかな?」「フッ!」
前後をふさいで左右からの攻撃だった先ほどとは違い、左右をふさいでからの前後からの攻撃。
その多少の違いを指摘したエルヴィーノに対し、2人は笑みを浮かべる。
その理由は、剣を持つ右手の反対の左手にあった。
剣使いの男たちは、今度は躱す隙をなくすため、左手に持った短剣で上下も塞いできたのだ。
「無意味だ」
「うぐっ!!」「ぐおっ!!」
前後左右に上下を塞がれて逃げ道はないが、自分には通用しない。
何故なら、その不安定な体勢で放たれた攻撃が当たる前に、2人に対して手のひら大の魔力の球を放てば良いだけだからだ。
その魔力球が腹に当たり、攻撃を中断せざるを得なくなった男たちは、呻き声をあげてその場に蹲った。
「このっ!!」
「フッ!」
エルヴィーノに対し、またも火球が飛んでくる。
先程よりも威力と勢いがある。
その理由は、魔法使いの男がエルヴィーノとの距離を縮めたからだ。
距離が近い方が威力も勢いも違うとはいえ、距離を取って戦うのが基本の魔法使いがやることではない。
意外性ある攻撃ともとれるが、この程度の魔法で自分を傷つけることなんて不可能。
それを示すように、エルヴィーノは鼻で笑って魔力球を放った。
“パンッ!!”
「なっ!? うごっ!!」
エルヴィーノの魔力球と、魔法使いの火球が衝突する。
同じ大きさの魔法の球ならば、属性を付与している自分の魔法の方が威力がある。
そう思っていた魔法使いだったが、結果は逆。
エルヴィーノの魔力球が火球を消し飛ばし、そのまま魔法使いの顔面にぶつかった。
その強力な攻撃をくらい、魔法使いの男はその一撃で気を失った。
「て、てめえ……」
エルヴィーノが他を相手しているうちに、槍使いの男は少しダメージが抜けたようだ。
そして、腹の痛みに耐えながらエルヴィーノに向けて槍を構えた。
「しつこい!」
「がっ!!」
攻撃を受けた剣使いの2人が落とした短剣。
足元に落ちているそれを拾い、エルヴィーノは槍使いの男に向けて投擲する。
あまりの速さに反応できず、槍使いの男の胸に短剣が突き刺さった。
「ふんっ!」
「「っっっ!!」」
残っているのは腹を抑えている剣使いの2人組。
その2人の背中に向けて、エルヴィーノは魔力球を放つ。
背中に強力な衝撃を受け、2人は声も出せずに気を失った。
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