第 46 話
「ノッテ、先に行って上空からあの山の
行方不明になっている子供たちは6人。
それだけの数の子供を連れ去って、どこに監禁しているのかが問題だ。
国境線となっている山を越えることは可能とはいえ、子供たちを連れての移動はある程度の時間がかかる。
事件発生から1か月も経っていないということは、あの山からそこまで離れていないはずだ。
計画してこの事件を起こしたというのなら、どこかしらに拠点となるものが存在しているかもしれない。
それを発見してもらうため、エルヴィーノは従魔のノッテに上空から山の麓付近を探ってもらうことにした。
「ホ~!」
主人に頭を撫でられつつ頼まれたノッテは嬉しそうに返事をし、エルヴィーノの腕から飛び立っていった。
「……じゃあ、俺も行くか」
「お気をつけて」
「あぁ」
ノッテを見送り、セラフィーナにオルフェオを預けたエルヴィーノは、軽い準備運動をしたのちに呟く。
そのエルヴィーノに、セラフィーナは見送りの言葉をかけた。
それを受けたエルヴィーノは、対岸に目を向ける。
そして、身体強化の一種である視力強化を行い、対岸に生えている1本の樹に目をつけた。
「フッ!」
短く息を吐くとともに、エルヴィーノは先ほど目を付けた樹の影に影移動を発動する。
影の中に溶け込むように入ると、次の瞬間エルヴィーノは対岸の樹の影と出現した。
「気づかれては……いないな」
対岸までの距離は約3kmといったところ。
魔力の消費を考えるなら、身体強化をして走り幅跳びで飛び越えるという方法もできるが、対岸のチョディア王国側が監視している可能性もある。
見つかって面倒なことにならないよう、エルヴィーノは影転移を使用したのだ。
チョディア側から一番近い町の防壁には、目立った動きは見受けられない。
そのことを確認したエルヴィーノは、アルーオ王国との国境となっている山に向かって移動を開始した。
「…………」
国境を超えるため、エルヴィーノは山登りを開始する。
山登りと言っても、移動速度はかなりのもの。
周辺に意識を向け続けながら、エルヴィーノはその速度を維持する。
「っっっ!!」
探知をしながらの高速移動。
その状態でいたエルヴィーノは、咄嗟に急ブレーキをかけた。
そして、停止したエルヴィーノの前を、右から左に何かが飛来した。
通り過ぎて行った飛来物は、樹に衝突して止まった。
飛んできていたのは矢だった。
「……躱しやがったか」
「反応のいいやつだ……」
足を止めたエルヴィーノの前に、武装した男たちがどこからともかく現れる。
「なんだ? お前ら」
周囲を取り囲んだ5人の男たち。
こんな山の中に潜んでいるなんて、どう考えても怪しいことこの上ない。
そんな奴らがまともに返答するとは思っていないが、エルヴィーノはとりあえず聞いてみる。
「それはこちらの台詞だ」
「ここから先はアルーオ王国だぞ」
やはりというか、男たちは返答するどころか質問し返してきた。
「だからなんだ? 関所があるわけでもない」
「そりゃそうだが、ここいらを好き勝手に移動されるのは俺達には迷惑なんでな」
問い返されたエルヴィーノは、平然とした様子で返答する。
チョディアとアルーオの話し合いで、この山を国境にすると合意されている。
平民が山を越えて入国したとしても特に問題はないが、身分証がなければ町には入るときに聴取されて発覚する。
身分証を作るのに、色々と手続きが必要になったりするだけだ。
しかし、この男たちの口ぶりからすると、別の意味に聞こえる。
『……どうやら正解かもしれないな』
山越え寸前での襲撃なんて、明らかに待ち構えていたといった様子だ。
何か隠していることは明白。
自分の予想が合っている可能性が高くなり、エルヴィーノは内心笑みを浮かべていた。
「子供たちはどこだ? 答えるなら痛い思いはしないで済むぞ」
「「「「「っっっ!?」」」」」
エルヴィーノが問いかけると、男たちの体が一瞬強張る。
その僅かな反応を、エルヴィーノは見逃さなかった。
その反応から、自分の考えが正解なのだと、かなり高い確率で合っているという思いに変わっていた。
「……ハッ! 何のことだか……」
「この数相手に勝てるとでも思っているのか?」
男たちの1人がとぼけるが、他の1人が戦う気満々の台詞を吐く。
その時点で、この者たちの考えがズレ始めているのがうかがえる。
エルヴィーノにまだバレていないと思っている人間と、バレているから始末してしまおうと考える者にだ。
「お前ら程度なら、特になんとも思わないな」
エルヴィーノとしては、戦う気になっている人間の方が誘導しやすいと考えた。
そのため、挑発じみた発言に対し、挑発じみた発言で返してやった。
「舐めるなよ!」
自分の発言を受け、5人はエルヴィーノの予想通りの反応を示す。
全員が、自分の実力を侮られたと、一気に殺気立ったからだ。
「殺るぞ!」
「「「「おうっ!」」」」
殺気立った男たちは、各々エルヴィーノに向けて武器を構える。
槍使いが1人、剣使いが2人、弓使いが1人、魔法使いが1人といった組み合わせになっている。
槍使いの男が一声かけると、他の4人が声を揃えて返事をした。
「シッ!」
エルヴィーノに向けて、まず動いたのは槍を構えていた男だ。
ノーモーションともいえる動きから距離を詰めると、エルヴィーノに向けて突きを放つ。
エルヴィーノは、その攻撃をバックステップで回避する。
「セイッ!」
「ハッ!」
躱したところを狙って、矢と火球が飛んでくる。
弓使いと魔法使いによる攻撃だ。
その攻撃を、エルヴィーノは右へステップすることで避ける。
「もらった!」「死ね!」
回避したエルヴィーノに対し、剣使いの2人が前後から挟み込むように接近し、左右から攻撃を放て来た。
これで前後左右に逃げることはできない。
その思いからか、剣使いの2人は勝利を確信しているような表情だ。
“フッ!!”
「「なっ!?」」
自分たちの攻撃により、エルヴィーノを斬り裂くイメージしかなかった。
しかし、その攻撃が当たると思われた瞬間、エルヴィーノの姿が消えた。
予想外のことに、剣使いの2人が驚きの声を上げて剣を止めた。
「良い連携だ。組織がかっているな」
「「「「「っっっ!?」」」」」
エルヴィーノの姿を見失ったのは、剣使い2人だけではない。
他の3人も、エルヴィーノがどこに行ったのかを周囲を見渡して探す。
そんな5人対し、近くの樹の枝の上に立ったエルヴィーノが声をかける。
攻撃が迫る瞬間、何をしたのか分からず、5人の男たちは驚愕の表情で樹の上にいるエルヴィーノに目を向けたのだった。
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