第 49 話

「ホ~!!」


「おっ?」


 襲撃者たちから聞き出したことで、今回の子供の行方不明事件がアルーオ側の犯行だと判明した。

 子供たちの行方を捜すためにアルーオ側の麓付近まで山を下りてきたところで、上空からフクロウの鳴き声が聞こえる。

 それに心当たりのあるエルヴィーノは、その鳴き声が聞こえた方向に目を向ける。

 

「ノッテ! なんか見つかったか?」


 主人に呼ばれたノッテは、音はしないがふわりとした飛空からエルヴィーノが差し出した腕に留まる。

 そのノッテに、エルヴィーノは拠点らしきものの捜索を頼んでいた成果を問いかける。

 

「ホ~!」


「よくやった!」


 エルヴィーノに問いかけに対し、ノッテは頷きと共に返事をする。

 どうやら、麓付近に何かを見つけたようだ。

 誘拐事件がアルーオ側だという確定しかできていなかったため、エルヴィーノは手がかりを見つけてきたノッテを褒めるとともに、頭や体を撫でてあげた。


「早速案内してくれるか?」


「ホ~!」


 何かしらの被害が及ぶ前に、誘拐された子供たちを救出したい。

 そう考えたエルヴィーノは、ノッテに発見した拠点らしきもののところまで案内を頼んだ。






「……あそこか?」


“コクッ!”


 ノッテの案内を受け、エルヴィーノは山の麓の森の中を突き進む。

 そして、少しの間走ると、ノッテが樹の枝に留まった。

 どうやら、ここから先に何かあるようだ。

 誘拐犯のアジトと思わしき場所があるのだろうと樹に身を潜ませて見回すと、いくつかの建物が存在する場所があった。


「どう考えても村じゃないよな……」


 建物は3つ。

 急ごしらえといったような大きさの建物だ。

 その中の1つには、馬たちが繋がれている。

 数が少ないうえに、こんな森の中に住んでいるとは思えない。

 そのため、エルヴィーノはあそこが誘拐犯のアジトなのだろうと考えた。


「子供たちは……」


 馬小屋以外の建物。

 2つのうちのどちらかに、子供たちが捕らえられているのだろう。

 そう考えたエルヴィーノは魔力を薄く延ばし、魔法で建物内部を探知することにした。


「右か……」


 左右の建物のうち、誘拐された子供たちがいるのは右の建物だと分かる。

 そして、同時に敵の数も把握できた。


「子供たちと転移してしまうか? それとも全員始末するか……」


 敵の数は6人。

 左の建物に4人、子供たちの側に2人いる。

 恐らく、交代しながら子供たちを見張っているのだろう。


「問題はあっちだな」


 探知で見た限りだと、6人は山の中で遭遇した男たちと同程度の実力の持ち主に思える。

 そのため、普通に戦うだけならそれほど問題ではない。

 しかし、問題なのは子供たちの側にいる2人の方だ。

 もしも自分の接近に気付いて子供を盾に取るようなことになったら、全員無事に連れ戻すということはできなくなってしまうかもしれない。


「……眠らせるか」


 魔力食いと呼ばれているように、闇魔法は戦闘に使用するのには適していない。

 しかし、エルヴィーノほど魔力が豊富なら色々と利用できる。

 敵にダメージを与えるような魔法ではないが、状態異常にさせることができるのが闇魔法の良いところだ。

 状態異常にさせる魔法の中の1つである睡眠魔法を使い、エルヴィーノは敵を眠らせてしまうことにした。


「ノッテはセラのところに戻って、この手紙を渡してくれ」


“コクッ!”


 これから敵を倒し、子供たちを救出して転移する。

 ノッテには先にイガータの町にいるセラフィーナのところに戻ってもらい、救出した子供たちを受け入れてもらう態勢を取ってもらいたい。

 小さい紙にそのことを示した文章を書くと、エルヴィーノは小さい金属筒に入れてノッテの足に装着する。

 その手紙を読めば、セラフィーナが動いてくれるはずだ。


「頼んだぞ!」


「ホ~!」


 手紙を受け取ったノッテは、エルヴィーノの指示を受けて空へと飛びあがる。

 そして、イガータの町に向かって一気に加速して飛んで行った。


「……さてと、始めるか……」


 ノッテが本気を出して飛べば、数十分でセラフィーナのところに到着するだろう。

 子供たちの受け入れができるころに合わせるために、エルヴィーノは今から準備を始めることにした。


「…………」


 子供たちを見張っている敵を眠らせるためには、魔法発動をするまで気づかれてはならない。

 そのためには、気づかれない程度の魔力を張り巡らせることが重要だ。

 そのことに注意しつつ、集中したエルヴィーノは地面に手を付き、ゆっくりと子供たちがいる建物に向けて魔力を伸ばしていった。


『……子供たちにも寝てもらう』


 敵を眠らせることに成功しても、子供たちが逃げ出したり声を出したりしたらせっかくの救出の機会を逃すかもしれない。

 そうならないためにも、エルヴィーノは子供たちも一緒に眠ってもらうことに決めた。


『そろそろ良いか……』


 探知魔法も併用して、敵と子供たちの動きを把握しながら、ゆっくり時間をかけて睡眠魔法の準備を進めるエルヴィーノ。

 子供たちがいる建物の周囲には準備ができた。

 ノッテに任せた手紙を読んだセラフィーナも、受け入れ態勢を整えられた頃合いだろう。

 そろそろ行動を開始するべく、エルヴィーノは建物に設置した魔法陣に一気に魔力を放出した。


「…………よしっ!」


 建物を覆うように設置された睡眠魔法の魔法陣が発動させ、エルヴィーノは少し間を開ける。

 そして、犯人と子供たちが眠りについたかを探知魔法を使用して確認する。

 すると、全員横になっているところを見ると、魔法は成功したようだ。


「あっちは……、大丈夫そうだな」


 睡眠魔法を使用した時、僅かに魔法陣が光を放った。

 そのため、もしかしたら左の建物にいる4人が、それに気付いたかもしれない。

 そうなると、すぐにでも子供たちと共に転移するか、4人を始末することを優先するか選ばなければならないが、探知魔法を使用した結果、4人は気づいていない様子。

 なので、エルヴィーノは足音を立てないように、子供たちが眠っている建物に向かって行った。


「チッ!」


 建物に到着したエルヴィーノは、中に入ろうと扉に手をかける。

 すると、扉には鍵がかかっていた。

 余計な手間を取らされることに、エルヴィーノは思わず舌打ちが出る。

 チマチマと鍵を開けている暇はないので、エルヴィーノは強硬策として扉を破壊することにした。


「1、2、3……、全員いる!」


 扉を破壊して建物内に入ったエルヴィーノは、敵が寝ているのを確認してすぐに子供たちの数を数える。

 そして、6人全員いることが確認できて安堵した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る