第 27 話

「それじゃあ頼んます」


「はい、ご苦労様でした」


 シカーボの町の側に転移したエルヴィーノは、縛り付けたカミッロたち4人を荷車に乗せてギルドまで運ぶ。

 そして、ギルドの建物に着いたところで所長のトリスターノとフィオレンツォと合流して屯所に向かい、殺人未遂犯として4人を兵に突き出した。

 今回の犯行の説明を、ギルド所長であるトリスターノがメインに話し、犯行に遭ったフィオレンツォと4人を捕縛したエルヴィーノが話の補足をする。

 その説明を終えると、あとは兵たちによって余罪の聴取を頼み、3人は屯所を後にした。






「今回は色々とありがとうございました!」


「まあ、今回のことはいい勉強だと思って、今後は気を付けろよ」


「はい!」


 一旦ギルドに戻り、3人は所長室に入る。

 そして、フィオレンツォはエルヴィーノに向かって、改めて感謝の言葉と共に頭を下げた。

 エルヴィーノは少し照れくさそうにしながらも、その感謝を受け入れた。

 今回のようなことを行うような人間は少ないが、この世には金が手に入るなら犯罪に手を染めるような人間もいなくない。

 特に貴族の子息となると標的になりやすいため、エルヴィーノはフィオレンツォに先輩冒険者として忠告をした。


「それで、その……」


「んっ? なんだ?」


 感謝の言葉を言い終わったフィオレンツォは、何か言いにくそうにしている。

 それが気になったエルヴィーノは、彼に発言するよう求めた。


「……助けてもらった上に、このようなことを言うのは何ですが……」


「あぁ……」


 フィオレンツォは恐縮したように話始めた。

 それに対し、エルヴィーノは続きを待つように頷く。


「私を鍛えてもらえませんか?」


「……えっ?」


 フィオレンツォが何を言うのかと思っていたら、突然の申し出に、エルヴィーノは戸惑いの声を上げた。


「鍛える……って、強くしてくれってことか?」


「はい! せめて自分の身は自分で守れるようになりたいんです!」


 今回のことを教訓にしても、罠に嵌められる可能性はある。

 そうなったとしても凌げる力があれば、命を落とすこだけは回避できるはず。

 そう考え、フィオレンツォは実力をつけたいと思った。

 では、実力をつけるにはどうしたらいいか。

 答えは簡単。

 強い人間に指導を受けえばいい。

 その強い人間といったら、フィオレンツォにはエルヴィーノしか思いつかなかった。

 そのため、フィオレンツォはエルヴィーノに指導を申し出たようだ。


「しかしな……」


 確かに、自分が始動すればフィオレンツォを強くすることはできるだろう。

 ただ、はっきり言って面倒だ。

 そのため、エルヴィーノは申し出を断ろうとした。


「ちょっと待った!」


「……なんだよ?」


 断ろうとしたエルヴィーノに対し、トリスターノが待ったをかける。

 言葉を遮られたエルヴィーノは、不機嫌そうにトリスターノのことを見た。


「交換条件を出せばいいだろ?」


「……なるほど」


 何で待ったをかけたのかと思っていると、トリスターノはエルヴィーノの耳に小声で呟いた。

 一瞬、トリスターノが何を言っているのか分からなかったエルヴィーノだったが、少し考えて理解した。


「指導をしてもいいが、条件があるんだが?」


「はい。私にできることなら……」


 フィオレンツォの頼みに対し、エルヴィーノはトリスターノが言ったように交換条件を出すことにした。

 頼んでいる立場ということもあり、フィオレンツォは可能な限り受け入れるつもりで返事をした。


「オルフェオのことなんだが、フィオレンツォの実家に捜索の協力を頼みたい」


「この子の……? あぁ、親探しですね?」


「そうだ」


 エルヴィーノが出した交換条件というのは、オルフェオ親探しの件だ。

 ギルド所長のトリスターノだけでは、情報を得られる範囲は限られてくる。

 オルフェオの親の情報は、全く当てがない状況だ。

 範囲を広げて情報を得るためには、貴族の力を借りればいい。

 誘拐された赤ん坊を救出したことで、ボルグーゼ男爵とドンボー男爵から協力を得られることになった。

 しかし、少しでも早くオルフェオを親元に返すためには、協力者は多い方が良い。

 その考えから、エルヴィーノはフィオレンツォの実家であるマディノッサ男爵にも協力を求めたのだ。

 エルヴィーノと会った時、オルフェオのことは聞いている。

 そのため、どうしてそのような条件を出してきたのかをフィオレンツォはすぐに理解する。


「……分かりました。父に協力を求める手紙を出しましょう」


「そうか。それなら指導の件を受けよう」


 家から出て大した日数が経っていないと言うのに、もう父に協力を求めなければならなくなってしまった。

 そのことに躊躇いがありつつも、冒険者として生きていくためにはエルヴィーノから指導を受けたい。

 そう考えたフィオレンツォは、出された交換条件を飲むことにした。

 交換条件を飲むというのなら、少し面倒だが受け入れるしかない。

 なので、エルヴィーノは指導の件を了承した。


「とはいっても、オルフェオに関することを優先させてもらうぞ」


「もちろん。それで構いません」


 指導をするにしても、オルフェオのためにも親元に返すことを優先したい。

 そのことを伝えると、フィオレンツォは当然というかのように頷く。

 自分が強くなりたいだけでエルヴィーノの時間を奪い、赤ん坊オルフェオの件が滞ってしまうのは申し訳ないためだ。


「あっ!」


「んっ?」


 指導の件を受けてもらえ、明日またギルドで会うことを約束したフィオレンツォは、所長室から出て行こうとした。

 しかし、扉に手をかけたところであることを思い出す。


「あの……、指導していただける代価の方は?」


 エルヴィーノほどの冒険者が、わざわざ指導してくれるのだ。

 父にオルフェオの親探しの協力を頼むだけでは割に合わないのではないか。

 そう考えたフィオレンツォは、指導をしてもらう代価はいくらかかるのかを問いかけた。


「そんなのいらん。金は稼ごうと思えば稼げる」


「そ、そうですか。分かりました」


 荷物を取り戻してもらえたため、少しは指導の代価を支払うことはできる。

 とはいっても、そこまで大金ではないため、エルヴィーノにどれくらい支払えばいいのか分からない。

 もしもの時に売る用の貴金属を売るしかないと思っていたフィオレンツォだったが、エルヴィーノは興味なさそうに返答する。

 エルヴィーノほどの実力なら、確かにこの町周辺の魔物を倒すだけで充分な金額が得られるだろう。

 無料というのは気が引けるが、自分はまだ冒険者として稼ぐことができていない。

 そのため、フィオレンツォはエルヴィーノの好意に甘えることにした。


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