第 26 話

「この劣等種たちが俺たちより強いだと……」


「ふざけんなよ」


「調子に乗りすぎね」


「冗談が過ぎるわ」


 エルヴィーノの台詞に、カミッロたち4人は表情をこわばらせる。

 剣の技術が高いと噂のエルヴィーノのことは脅威に感じているが、その従魔たちはその体躯から明らかに劣等種。

 脅威どころか、戦闘の役に立つはずがない。

 そんなエルヴィーノの従魔たちが、自分たちに勝てるはずがない。

 あまりにも舐めた発言に、全員不快に感じたようだ。


「……その様子だと、お前らEランクじゃないな?」


「「「「っ!?」」」」


 エルヴィーノの言葉に、カミッロたちは目を見開く。

 自分たちがEランクではないと見抜かれたからだ。


「魔物を利用して荷物を奪うのは、Eランクがやるにはリスクがある。それを苦も無く成功させたことだけでも怪しかったが、その構えを見て確信したよ」


 4人の表情が、「何故分かった?」と聞いているように見えたため、エルヴィーノはその理由を説明してあげる。

 標的を罠に嵌めるにしても、魔物を使用するのはカミッロたちにとっても危険でもある。

 策を思いついても、そんなことをEランク冒険者がやるだろうか。

 もしかしたら、フィオレンツォに言っていたランクは嘘なのではないか。

 そう思っていたが、武器を構える姿を見て、エルヴィーノはEランクではないことを見抜いたのだ。


「よく見抜いたな。あんたが言ったように、俺たちはEランクじゃない」


「フィオレンツォの奴に見せたギルドカードは死んだ人間のを利用しただけだ」


 Eランクではないことを見抜かれ、カミッロとプリーニオは種明かしをする。

 冒険者に登録する時、ギルドカードを拾ったらギルドに届けることになっている。

 しかし、それはあくまでも努力義務。

 必ずそうしなければならないというわけではない。

 ギルドカードは本人以外使用できないため、他人のギルドカードを拾ったとしてもなんの得にもならない。

 せいぜい、拾ってもらった人間から一食分おごってもらうくらいだろう。

 その程度のことのために、わざわざ拾うのも面倒だと思う人間は少なからずいる。

 だが、カミッロたちは拾ったギルドカードで儲ける策を思いつき、実行してきたいたようだ。

 命がけで魔物と闘うよりも、他人から掠め取る方が楽だからだろう。


「たしか、あんたBランクだったよな?」


「……そうだが?」


 オルフェオを連れていることもあってか、エルヴィーノの噂は広まっている。

 その噂から、エルヴィーノがBランクだということを知ったのだろう。

 カミッロの問いに、エルヴィーノは返答する。


「私たちのランクはあんたと同じBランクよ」


「残念だが、ここで死んでもらうわ」


 同じランクならば、自分たちが負けるわけがない。

 アンネッタとブリジッタは、暗にそう言うように笑みを浮かべる。


「……やれやれ」


 確かに、Bランク同士なら数が多い方が勝つ確率は高いだろう。

 しかし、それはBランクの実力の者同士の場合だ。

 そうなると、エルヴィーノにはその理論は通用しない。

 何故なら、エルヴィーノは上のランクに上がれる実力があるのに、わざと上がらないようにしているだけなのだから。

 Bランクにもかかわらず、相手の実力を正確に見抜けないなんて、彼らは戦闘実践からしばらく離れているのではないだろうか。

 エルヴィーノは本当にBランクなのかも疑わしく思えてきたため、思わず嘆息した。


「ノッテ、ジャン。殺さない程度に痛めつけてやれ」


「ホ~!」「ガウッ!」


 彼らは自分たちの犯行を認めた。

 その時点で、もうこれ以上聞くことはないため、あとは捕まえて帰るだけだ。

 そう考えたエルヴィーノは、従魔たちに彼らの捕縛を指示する。

 それを受け、ノッテとジャンは主人の役に立てると思い、嬉しそうに返事をした。


「そんな雑魚に相手させるって言うのか?」


「ふざけんな!」


「劣等種が私たちの相手になるわけないでしょ?」


「舐めすぎよ!」


 ノッテとジャンに指示を出したエルヴィーノは、近くの樹に近づいてもたれかかる。

 言葉通り、従魔たちに自分たちの相手をさせるつもりのようだ。

 その態度を見た4人は声を荒げる。


「ギャウ!」


「っ!?」


 ノッテとジャンは確かに劣等種だ。

 しかし、彼らの方こそ舐めずだ。

 無警戒に近づいたカミッロに対し、ジャンが動く。

 一瞬にして距離を詰めたジャンは、右手を開いてカミッロの腹に向ける。


“ボムッ!!”


「うがっ!!」


 カミッロの腹が爆発する。

 ジャンの魔法による爆発だ。

 それが直撃したカミッロは、爆発の勢いによって吹き飛んだ。


「なっ!?」


「ちょっと!」


「嘘っ!?」


 ジャンの攻撃により、カミッロが吹き飛んだ。

 その一連のジャンの動きの速さに、他の3人は信じられないという表情で声を上げる。


「ぐっ、ぐうぅ……」


 爆発を受けて吹き飛んだカミッロは、何とか立ち上がろうとする。

 しかし、腹に火傷を負い、その痛みで苦悶の表情を浮かべる。


「くっ!」


「この!!」


 タンク役のプリーニオが盾を構えてジャンに向かって行く。

 それに連携するように、槍使いのアンネッタも追随する。


“シャ!!”


「ギャッ!!」


 プリーニオのシールドバッシュを避けるジャン。

 そこを狙って、アンネッタが槍で攻撃をするつもりだったのだろう。

 しかし、ジャンは1体で戦っているのではない。

 ジャンに攻撃をしようとしたアンネッタに向かって、ノッテが上空から高速で飛来した。

 落下速度を利用しての蹴り。

 それを背に受け、アンネッタは悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 無警戒だったのか、吹き飛んだアンネッタはそのまま気を失った。


「このっ!!」


 アンネッタが倒され、ブリジッタがノッテに杖を向ける。

 どうやら彼女は魔法使いのようだ。


“フッ!!”


 ブリジッタはソフトボール大の火球を連射する。

 その攻撃を、ノッテは音もなく羽ばたき、上空へ上がることで回避する。


「このっ!!」


「ガウッ!」


 アンネッタが倒れたため、プリーニオは自分でジャンを攻撃しようとする。

 盾を前に接近し、片手剣で攻撃しようという考えだろう。

 しかし、距離を詰められたところで、ジャンはプリーニオの足元に左手を向けた。


「っ!?」


“ボンッ!!”


「がっ!?」


 プリーニオの足元が光り輝く。

 それに気づいても時すでに遅く、地面が爆発して吹き飛んだプリーニオは、背中を地面にしたたかに打ち付けた。


「プリーニオ!!」


“シャッ!!”


「キャッ!」


 吹き飛んだプリーニオを心配し、ブリジッタが声をかける。

 そんな気を取られているブリジッタに対し、上空から空気の球が飛来する。

 その直撃を受けたブリジッタは、吹き飛んで体を樹に打ち付け、その痛みで気を失った。


「ぐっ!」


「くそっ!」


 ダメージを受けたカミッロとプリーニオは、痛みに耐えて何とか立ち上がる。

 しかし、立っているだけでもやっとなのだろう。

 足が震えている。


「ホ~!」「ギャウ!」


「「っっっ!!」」


 立っているだけでやっとの2人に対し、ノッテとジャンが接近する。

 そして、ノッテがプリーニオの腹に蹴りを、ジャンがカミッロの顎に拳を打ち、彼らの気を失わせた。


「ホ~!」「ギャウ!」


「ご苦労さん」


 4人を倒したノッテとジャンは、「褒めて!」と言わんばかりにエルヴィーノに向かう。

 それを理解したのか、エルヴィーノは従魔たちのことを褒めつつ撫でてあげた。


「……劣等種だからって強くなれないわけじゃないんだよ」


 従魔たちを褒めたエルヴィーノは、影収納から紐を取り出し、カミッロたちをまとめるように縛り付ける。

 そして、気を失っていると分かっていても、4人に向かってこの結果になった理由を教えてあげる。

 気が付いて暴れられると面倒なため、エルヴィーノは全員を連れてシカーボの町へと影転移した。


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