第 25 話
「さて、とりあえず探知を……」
シカーボの町から出たエルヴィーノは、東へ向かう街道へと向かう。
そして、小さく独り言を呟き、探知魔法を発動した。
「……おっと、ノッテを南に飛ばす必要なさそうだ」
東の街道を沿うように魔力を伸ばしていると、エルヴィーノはフィオレンツォから聞いていたカミッロたちと思わしき容貌の者たちを発見することができた。
「行くぞ」
「ホ~!」「ガウッ!」
ノッテを南に飛ばす必要が亡くなったエルヴィーノは、そのままカミッロたちと思わしい者たちへと向かって走り始めた。
魔力を全身に纏わせることでできる身体強化。
それを駆使し、エルヴィーノと従魔たちは高速でカミッロたちとの距離を一気に詰めて行った。
「それにしても、あっさりと上手くいったな?」
「あぁ、やっぱり貴族のボンボンは扱いやすいな」
フィオレンツォが生きているとは知らず、カミッロたちは東へ向かう街道をのんびりと歩いていた。
狙い通りに策がなり、貴族の子息らしきフィオレンツォから荷物を奪い取ることに成功した。
奪ったリュックサックの中身を見ると、平民では簡単に手を出せなさそうな貴金属が入っていた。
そのことから、彼らはフィオレンツォが貴族の子息だと理解した。
荷物奪取に成功し、中身を売ればしばらくは左団扇で暮らすことができると考えるカミッロとプリーニオは、笑みを浮かべて軽口を交わしていた。
「でもよ。何も別の町に行かなくても良かったんじゃないか?」
狼に囲まれては、新人冒険者のフィオレンツォはもう死んでいるはず。
目撃者もいないため、荷物を奪うために罠に嵌めたなんて知る者はいない。
それならば、別に他の町に移動する必要などなく、またシカーボの町でカモとなる人間を見つけた方が良いのではないか。
そう考えたカミッロは、アンネッタとブリジッタに問いかける。
「駄目よ。一緒に依頼を受けたことは受付も見ていたでしょ?」
「もしもフィオレンツォだけが死んで私たちが生きているってなったら、なんで報告しないのかって聞かれることになるわよ」
上手いことフィオレンツォに代表してもらい、臨時パーティーとして一角兎の討伐依頼を受けたが、その時に受付の女性は自分たちのことを見ている。
フィオレンツォの死体が見つかったときに自分たちが生き残っていた場合、報告をしなかった理由を聞かれることになることは明白だ。
そうなるとギルドで仕事を請け負っている場合ではない。
そのため、アンネッタとブリジッタはシカーボの町に戻ることを否定した。
「奴だけ死んだことにすれば……」
「それこそ疑われることになるわ」
「そうだな……」
女子2人の言いたいことは分かる。
しかし、町を移動するとなると、今回のように上手く自分たちに被害が及ばないように策に嵌めるための下準備をまたしなければならなくなる。
その手間を省きたいため、プリーニオはたまたま狼に遭遇して、フィオレンツォだけやられてしまったことにすれば良いのではないかと考えた。
しかし、アンネッタの言うように、それこそ置き去りにしたのではないかと疑われることになりかねない。
そうならないためにも、策を成功させたらすぐに別の町に移るのが得策だ。
アンネッタの言葉を受けて、カミッロは納得の言葉を呟いた。
「カミッロたちってのはお前らだろ?」
「「「「っっっ!?」」」」
カミッロたち4人は、背後からの声掛けに驚きと共に振り返る。
いつの間に近づいてきたのか分からないまま、そこには赤子を抱き、2頭の従魔を引き連れた男が立っていた。
「な、何者だ?」
「エルヴィーノという」
明らかに自分たちを探しにきた男に、カミッロが問いかける。
すると、男ことエルヴィーノは名を名乗った。
「……たしか、子連れ冒険者……」
「めちゃめちゃ剣技の高いっていう……」
エルヴィーノの名を聞いて、アンネッタとブリジッタが顔を合わせて意見を交わす。
シカーボの町で情報を仕入れる中、二つ名で呼ばれるほど有名な冒険者のことだと分かった。
「そのリュック……、正解のようだな?」
「くっ!」「チッ!」
自分の質問に答えない男女4人組。
フィオレンツォから聞いた見た目の特徴は合っている。
そのため、彼らが持つ荷物を一通り眺めると、フィオレンツォから聞いた特徴と一致するリュックサックを持っているのを発見する。
そのことから、エルヴィーノはこの4人がカミッロたちだと判断した。
どうにかしてとぼけるつもりでいたが、あっさりとバレてしまったため、カミッロとプリーニオは表情を曇らせた。
「フィオレンツォは俺が助けた。お前たちはもうお尋ね者だ」
「「「「なっ!?」」」」
このリュックサックで気付いたということは、フィオレンツォの死体が思ったよりも早く見つかってしまい、一緒にいた自分たちを探しに来たのだろう。
そう思っていた4人の考えは外れ、まさかフィオレンツォが生きているとは思いもしなかった。
そのため、4人は声をそろえて驚いた。
「……どうするよ?」
「仕方ないわ。この人を葬って、他国へ逃れましょう」
「「「了解!」」」
フィオレンツォが生きていたのでは、確かにこの国で同じように稼ぐことはできない。
そのため、アンネッタはこの国から出ていくことを提案する。
指名手配も、他国にまで届くことはないだろうからだ。
「……やる気か?」
「もちろん」
言葉を交わすとともに、4人は武器に手をかけた。
おとなしく捕まる気がない様子の4人に、エルヴィーノは面倒そうに問いかける。
すると、アンネッタが頷きで返してきた。
「ってか、赤ん坊もそうだが、なんだよその従魔たちは」
「グーフォにジャックオランタン」
「しかも
エルヴィーノを殺して、この国から脱出することを決めたカミッロたち。
子連れの冒険者は、剣の達人として噂されていたが、所詮子連れ。
赤ん坊が戦闘の邪魔にならないわけがない。
それに、エルヴィーノが連れている従魔を見てもツッコミどころがある。
グーフォと呼ばれる魔物のノッテと、ジャックオランタンのジャン。
その2頭は、普通のグーフォとジャックオランタンとは違い、体が小さい劣等種と呼ばれる存在だ。
そんな魔物が脅威になることはないため、実質4対1の戦いになる。
そう考えたカミッロたちは、エルヴィーノに対して武器を構えた。
「お前たちの言うとおりだが、こいつらはお前らより強いぞ」
カミッロたちが言うように、ノッテとジャンは劣等種だ。
しかし、殺気を向けてきた4人に対し、エルヴィーノは平然としたまま返答したのだった。
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