第 18 話
「クレシェンツィオ!!」
「あうー!!」
馬車から降りたボルグーゼ男爵夫人のクラリッサは、大粒の涙を流しつつ駆け寄ってくる。
さすがにこの状況で品がないとは言えない。
手を差し出してきた夫人に対し、セラフィーナは抱えていたクレシェンツィオを渡す。
母親だと理解しているのか、クレシェンツィオは嬉しそうに声を上げた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「私からも礼を言わせてくれ。本当にありがとう!」
「いえ、助けられてよかったです」
行方不明事件が起きてから1週間が経っている。
考えたくはないが、最悪な可能性もあり得た。
そのため、クレシェンツィオが自分の手に戻ってきたことに、クラリッサは涙を流しながらエルヴィーノとセラフィーナに頭を下げるとともに何度も感謝の言葉をかけてきた。
そして、妻と同じく息子が帰ってきたことを嬉しく思っているボルグーゼ男爵のデルフィーノからも感謝された。
そんな夫妻に対し、エルヴィーノは本心から返答した。
「私からも礼を言う。他にも捕まえられていた人間もいたからな」
デッスロのことを捕縛したエルヴィーノたちは、モニシートの町に戻り、すぐさま詰所へと向い、兵にデッスロを突き出し、ボルグーゼ男爵の子供を救出したことを告げた。
それにより、詰所にいた兵たちは深夜にもかかわらずてんやわんやの大騒ぎになった。
デッスロは牢屋に入れられ、クレシェンツィオの面倒も兵たちに任せようとしたのだが、兵たちに渡そうとすると大泣きするため、そのままエルヴィーノたちが面倒を見ることになってしまった。
そして翌朝、ドンボー男爵であるレミージョはデッスロのいたアジトに兵を送った。
証拠や犯行に加担した者たちが他にもいた場合、捕縛をするためだ。
すると、エルヴィーノたちが左に曲がった丁字路の反対側に向かうと、牢屋のようなものが存在しており、そこには数人の男女が閉じ込められていた。
どうやら、デッスロたちは街道を通る者を捕まえ、奴隷商に売り飛ばして金を得ようと考えていたようだ。
モニシートの町の住人ばかりだったため、ボルグーゼ男爵夫妻とのやり取りを見ていたレミージョも、エルヴィーノたちに感謝の言葉をかけてきた。
「あう~!」
「あ~い!」
抱っこ紐でエルヴィーノに抱っこされているオルフェオも、クレシェンツィオに向かって「よかったね」と言わんばかりに笑顔で声をかける。
赤ん坊同士で会話が成立しているのか、クレシェンツィオも返答した。
「後日、君たちには充分な報奨を用意しよう。それ以外にも何か求めるものがあるのなら言ってくれ。できる限り善処しよう」
息子を救い出してくれた恩人。
そのためか、デルフィーノはエルヴィーノに報奨を奮発してくれるそうだ。
しかも、金だけでなく、それ以外にも言えば用意してくれるようだ。
「私からも報奨を出そう」
レミージョも、自領の市民を救出する機会を作ってくれたことから、エルヴィーノたちに報奨をくれるそうだ。
クレシェンツィオの救出は、確かに報奨金目当てでもあったため、エルヴィーノは内心でガッツポーズしていた。
「それでしたら、この子の親の捜索に関してご協力いただけるとありがたいです」
「……君たちの子供ではないのか?」
「えぇ」
胸に抱いているオルフェオのことを指さし、エルヴィーノはもう一つの目的である親探しの協力を求めた。
耳パッドを付けて普通の人族に見えるためか、デルフィーノはオルフェオのことをエルヴィーノたちの子供だと思っていたようだ。
そのことを問いかけてきたデルフィーノに、エルヴィーノは頷きと共に返答した。
隣ではセラフィーナが「残念ながら」と小声で呟いているが、エルヴィーノはそれを完全にスルーした。
「そうか。それなら協力させてもらおう。きっとその子の親も必死に探しているだろうからな」
エルヴィーノは、デルフィーノにオルフェオのことを説明する。
何者かの手によって、自分の家の前に置かれたということをだ。
すると、自分たちも行方不明になったクレシェンツィオを必死になって探していたこともあり、オルフェオの親もきっと同じ思いをしているのだろうと考えた。
そして、デルフィーノはオルフェオの親の捜索の協力を約束してくれた。
「そういう話なら、私も協力しよう」
「ありがとうございます」
ドンボー男爵であるレミージョも、貴族としての力を使ってオルフェオの親の捜索を協力してくれるようだ。
そのため、エルヴィーノはデルフィーノとレミージョに感謝の言葉を述べた。
「さて、子供の救出も済んだことだし、帰るとするか……」
ボルグーゼ男爵夫妻に子供を返すことができ、オルフェオの親の捜索の協力を得ることができたたエルヴィーノたちは、ドンボー男爵邸を後にした。
そして、用も済んだことだしシカーボの町へと帰ることにした。
「ちょっと待ってください。帰る前にヒアーサの町のダンジョン行きましょうよ」
シカーボの町に帰ることを伝えると、セラフィーナが待ったをかけてきた。
確かにヒアーサの町に行くことを決めたとき、ダンジョンに行くことも話していた。
そのことを思い出したのだろう。
セラフィーナはダンジョンに行くことを提言してきた。
「金なら報奨金が出るだろ」
ダンジョンに行くことは話していたが、それは魔物を大量に倒して資金を得ることが目的だった。
しかし、クレシェンツィオを救い出したことで、ボルグーゼ男爵とドンボー男爵から報奨金がもらえることになった。
そのため、エルヴィーノはダンジョンに行くことを断ろうとした。
「お金というより憂さ晴らしです」
「……確かにそうだな」
セラフィーナにこう言われて、エルヴィーノは納得する。
というのも、デッスロのアジトに潜入した時、エルヴィーノたち速度重視で敵を始末した。
しかし、後になって奴隷売買にも手を出そうとしてたことが分かり、やつらのことが許せなかった。
もっと苦しめてから始末すればよかったと。
そのもやもやした部分が晴れていない。
代わりに魔物を始末して、それを発散させようというわけだ。
「それじゃあ行くか」
「はい!」
エルヴィーノとしても同じ思いのため、それを発散させてから帰った方が良いと考えた。
そのため、セラフィーナの提言に乗り、ヒアーサの町のダンジョンに向かうことにしたのだった。
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