第 15 話

「犯人がそのデッスロだとして、どうやって犯行に及んだのですか? 兵ならばこの町から離れるのは簡単ではないと思うのですが?」


 ヒアーサの町でボルグーゼ男爵に関することを調査した時、確かに女将さんが言っ言っていたことと似たような情報を話す人間はいた。

 そのことが気になったから、エルヴィーノはこのモニシートの町に来ることを選んだのだろう。

 それ自体は理解できるが、そのデッスロという者が犯人だとすると、色々と気になることがある。

 それは、セラフィーナが言ったようなことだ。

 問題を起こして爵位を剥奪されはしても、実力があることからデッスロは兵として雇ってもらえることになった。

 そのため、兵の場合はそう簡単に他の町に行き来できるとは思えないためだ。


「そのことはこれから調べるつもりだ。兵にも休日はあるとはいえ、そう何日も休めるわけがないからな」


 セラフィーナが言うように、兵として雇われているデッスロが犯行に及んだとすると、休日を利用したと考えられる。

 しかし、兵が休暇を取れたとしても、2、3日程度のはず。

 それだけあれば、このモニシートの町とヒアーサの町を行き来することはできるかもしれないが、時間的にはギリギリ。

 犯行に及ぶ時間があるかは微妙なところだ。


「それに、金と指示だけ出して依頼したという可能性もあるからな」


 可能性として、デッスロが実行犯とは限らない。

 この世の中には、金次第ではどんなことでも請け負うというような人間もいる。

 そういった裏の人間に依頼すれは、デッスロ本人でなくても犯行に及ぶことはできる。

 エルヴィーノとしては、それを調べ、デッスロが犯人であることが濃厚ならば、接触して直接して子供の行方を問いただすつもりだ。


「では、今から町へ出て調べに向かいましょう!」


「それなんだが……」


 デッスロが犯人だとするならば、何かしらの情報が出てくるはずだ。

 そう考えたセラフィーナは、ヒアーサの町の時と同様、町に出て調査することを勧める。

 それに対し、エルヴィーノは待ったをかける。


「調べるのは俺1人で行う。セラにはオルフェオを見ていてもらいたい」


「えっ!? しかし……」


 ここまで一緒に来ていてなんだが、ここから先は自分1人で調査を行うつもりだ。

 そのため、エルヴィーノとしてはセラフィーナにオルフェオの面倒を見ていてもらいたいと頭を下げて頼んだ。

 そのことを伝えると、やはりというか、セラフィーナは不満げに声を上げた。


「子連れで調査していたら、裏の人間にすぐに気づかれる。そうなったら、情報が得られなくなるかもしれない」


 子連れの人間がデッスロのことを嗅ぎまわっている。

 そんな風に裏の人間に気づかれれば、もしかしたら情報源を潰される可能性がある。


「それを回避するために、セラたちに別行動をしてもらいたいんだ」


 それだけ、子連れでは目立ちすぎる。

 それに、セラフィーナには言わないが、彼女は容姿が良いためさらに目立ってしまうため、エルヴィーノは彼女たちに別行動を求めた。


「……仕方ないですね。エル様の頼みですから受け入れますよ」


 エルヴィーノに頭を下げられては、セラフィーナとしては断りづらい。

 そのため、セラフィーナはエルヴィーノの頼みを受け入れることにした。


「すまんな。何なら、観光でもしていてくれ」


「そうですね。分かりました」


 オルフェオの面倒を見ていてもらいたいとは言ったが、別にここにこもっている必要はない。

 そのため、エルヴィーノはセラフィーナにこの町の観光を勧めた。

 セラフィーナも転移の魔法が使える。

 なので、シカーボの町に帰っていてくれなんて言われていたら、腹を立てていただろう。

 しかし、そうは言われなかったため、セラフィーナは内心嬉しそうに返事をした。


「オル君! セラママと町中を見て回ろうか?」


「あう~」


 ベビーベッドで横になっているオルフェオに、セラフィーナは母親気取りで話しかける。

 その意味を理解しているのかどうか分からないが、オルフェオは返事をした。


「そうだ! オル君の服を見に行こう」


「あ~い」


 セラフィーナが笑顔で話しかけているからか、オルフェオも笑顔で返事をする。

 そんなオルフェオを見て、セラフィーナがさらにテンションが上がる。


「……ノッテたちは、セラを見張っていてくれるか?」


 セラフィーナとオルフェオのやり取りを見ていると、観光ついでに余計なものを大量に買ってしまいそうで不安になってきた。

 そのため、エルヴィーノは従魔たちに、セラフィーナが暴走しないように見張ってくれるように頼んだ。


「……ホ~」「……ガウッ」「……ニャ~」


 主人であるエルヴィーノに言われたので返事をするが、あのテンションのセラフィーナを止めるのはかなり難しい。

 そのため、ノッテたちは渋々といったように返事をした。

 セラフィーナの従魔であるリベルタも同じような思いから、返事に力がなかった。


「じゃあ、行ってくる」


「は~い!」


「……まあ、いいか」


 エルヴィーノが出かけようと声をかけると、もうオルフェオとの観光に意識が向いているのか、セラフィーナからは軽い感じで返事が来た。

 いつもなら、もっとごねる感じなのだが、オルフェオのお陰かあっさりしている。

 それが何となく拍子抜けした感が否めないが、ごねられたらごねられたで面倒なため、エルヴィーノは気持ちを切り替えて調査に向かうことにしたのだった。






「ただいま……って、なんだこれ?」


「あぁ、お帰りなさいエル様!」


 今日1日使い、エルヴィーノは町中でデッスロに関することを調査した。

 そして、日が暮れたころに宿屋に帰ると、部屋の中の散らかりようを見て思わず問いかけた。

 従魔たちもセラフィーナの相手に疲れたのか、なんとなくぐたりしているように見える。

 問いかけられたセラフィーナは、質問に答えるより先にエルヴィーノの帰りを嬉しそうに迎える。


「どうですか? オル君の洋服です!」


「買いすぎだろ……」


 どうやら、別行動を取る前に言っていたことを実行したのだろう。

 オルフェオの服は確かに必要だが、いくら何でも買いすぎだ。

 セラフィーナのベッドの上に、オルフェオの服がいくつも並べられている。

 ちょっと前に使い切ってしまった魔力ポーションを買うために、資金を貯めているのではなかったのだろうか。

 せっかく魔物を倒して得た資金を、ほとんど使ってしまったのではないかと思える服の数だ。

 そのため、エルヴィーノは小さい声でツッコミを入れた。


「それで? どうでした?」


「……あぁ」


 あきれ顔で自分のベッドに腰かけたエルヴィーノに対し、セラフィーナが問いかける。

 一瞬オルフェオの服の感想を聞いてきたのかと思ったが、真面目な表情をしているところから調査の進展具合を聞いてきたのだと理解したエルヴィーノは、


「何となくだが見えてきたよ」


 笑みを浮かべ、こう返事をしたのだった。


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