第 11 話

「まあ座ってくれ」


「了解」


「は~い」


 ボルグーゼ男爵の子供の行方不明事件。

 もしかしたらオルフェオのことかもしれないと考えたエルヴィーノは、ヒアーサの町に来た。

 そして、その町のギルドへと向かい、所長へと面会することになった。

 エルヴィーノたちが所長室に入ると、所長らしき男性がソファーへと促す。

 それを、エルヴィーノたちは素直に受け入れ、ソファーへと腰かけた。


「ちょっと待っていてくれ」


「あぁ」


 エルヴィーノたちが腰かけると、先ほどの受付男性が紅茶と茶菓子をもってきてくれた。

 それらを置いている間、その男性の目は何度もエルヴィーノへと向かう。

 エルヴィーノというより、胸に抱かれているオルフェオのことの方が気になっているようだ。

 彼がいなくなると、茶を勧めたヒアーサの町のギルド所長は、エルヴィーノたちが住むシカーボの町のギルド所長であるトリスターノからの紹介状に目を通し始めた。


「なるほど……」


 エルヴィーノたちが勧められた茶と菓子を飲み食いして待っていると、少しして所長が呟いた。


「あぁ、悪い。ヒアーサの町のギルド所長のヴァルフレードだ」


「エルヴィーノだ」


「セラフィーナよ」


 部屋に招いたのに自己紹介がまだだったと気づき、所長のヴァルフレードが名前を言う。

 それに返すように、エルヴィーノとセラフィーナは自分たちの名前を言った。


「あう~」


「あぁ、この子はオルフェオだ」


 エルヴィーノの自己紹介に続き、「自分も」というかのようにオルフェオが声を上げる。

 それに気づいたエルヴィーノは、ヴァルフレードにオルフェオの名前を教えた。

 

「シカーボの町のトリスターノからの手紙だと、その子供の親を探しているということだが……?」


「あぁ、それでボルグーゼ男爵の子が行方不明になったと聞いてな」


 読み終わったトリスターノからの手紙に、何が書いてあるのかを見せてもらう。

 すると、その手紙にはエルヴィーノたちがダークエルフであるということを伏せ、この町に来た理由が書かれていた。

 そのため、エルヴィーノはヴァルフレードの問いに頷いた後、手紙通りだと返答した。


「ギルドランクは……Bか」


「その通りだ」


 ギルド会員のランクを示すギルドカード。

 登録したばかりだと一番下のFから始まり、そのランクは依頼の難易度と達成度によってE・D・C・B・Aと上がっていく。

 エルヴィーノとセラフィーナのギルドカードのランクを見て、ヴァルフレードは2人のことを見つめる。

 呟きと共に値踏みするようなヴァルフレードの視線に対し、セラフィーナは少し不機嫌そうな表情になったが、エルヴィーノは平然とした様子で答えた。


「しかし、実力はSでもいいくらいだと……」


 一般的に、ギルドランクはAが最高とされている。

 しかし、Aランクの中で突出した実力と実績を示した者を、Aの上のランクということでSランクとされることがある。

 そのランクに至ったものは、上位貴族と同等の扱いを受けることができるようになる。

 国としても、それだけの実力者を他国に手放すようなことをしたくないためだ。

 トリスターノの手紙には、エルヴィーノたちがそのSランクレベルの実力者だと記されていた。

 そんなレベルの冒険者が今自分の目の前にいるということが信じられないのだろう。

 ヴァルフレードは疑いの声を漏らした。


「Aより上だと、好き勝手に他国に移動したりできなくなる。だからB以上に上げないようにしている」


「……なるほど」


 国としては、Sランクは当然のこと、Aランクも他国に流れてしまっては困る。

 もしものことを考えて、戦力は少しでも多い方がいいからだ。

 そのため、Aランク以上になると待遇が良くなるのと共に、国外への移動には申請制限を求められるようになる。

 そう言った煩わしさがあるからこそ、エルヴィーノたちはB以上に上げないようにしている。

 そのことをエルヴィーノが告げると、ヴァルフレードは納得の声を上げた。

 というのも、さっきの値踏みで、2人がトリスターノの手紙に書かれているように、Sランクとは言わないまでも相当な実力を有していることがうかがえたからだ。


「先に言わせてもらうが、その子は残念だがボルグーゼ男爵の子ではない。なぜなら、誘拐された子供は男爵と同じ茶髪茶眼をしているという話だからだ」


「そうか……」


「なんだ……」


 転移であっという間に来たとはいえ、せっかく遠出をしたのにあっさりと結論が出てしまった。

 急いで調べたのと貴族の子供の情報ということもあり、トリスターノは髪や目の色までは調べられなかったと言っていた。

 こんなことなら、トリスターノにもう少しじっくり調べてもらってからでもよかったかもしれない。

 徒労に終わってしまったため、エルヴィーノとセラフィーナは残念そうにソファーから立ち上がろうとした。


「ちょっと待ってくれ!」


「んっ?」「えっ?」


 オルフェオのことではないとわかったのなら、これ以上ここにいる必要はない。

 そのため、エルヴィーノたちは部屋から出て行こうと立ち上がろうとした。

 そんな2人を、ヴァルフレードは呼び止めた。

 まだ何かあるのかと、エルヴィーノたちはとりあえずソファーに座りなおした。


「俺も一応ギルドの所長だ。お前たちが実力があることは見れば何となくだが分かる。だからこそこそ頼みたいことがある」


 2人がソファーに座りなおしたのを見て、若干安堵したような表情をしたヴァルフレードだが、そのあとすぐ、見方によっては切羽詰まったような真剣な表情で話す。


「男爵の子の捜索か?」


「その通り」


 協力と言われて、エルヴィーノが思いつくのはボルグーゼ男爵の件だ。

 どうやら、彼もボルグーゼ男爵の子が行方不明なことに心を痛んでいるらしい。

 だからこそ、実力があると思われるエルヴィーノたちにも協力を求めたようだ。


「協力してくれるなら相応の報酬は出す。それと、当然だがその子の親の捜索にも協力する」


「……どうします?」


「……う~ん」


 オルフェオのことではないというのなら、自分たちがボルグーゼ男爵の件にかかわることではないと考える。

 そのため、セラフィーナはエルヴィーノの考えに従うことにした。

 それを受け、エルヴィーノは顎に手を当て、思考を巡らせた。


「分かった。受けよう」


 オルフェオの親を探すにも協力者は多い方がいい。

 もしかしたら、ヴァルフレードだけでなくボルグーゼ男爵の協力も得られるかもしれない。

 そのため、エルヴィーノはボルグーゼ男爵の件に協力をすることにした。


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