第 5 話
“バンッ!!”
「たっだいまー!!」
「「「っっっ!?」」」
昨夜は大いに飲み食いし、今日は休みにしていた。
そのため、エルヴィーノはいつもより少し遅めに起きるつもりでいた。
しかし、そんな考えを吹き飛ばすように、大きな音とともに家の扉が開き、一人の女性が元気よく入ってきた。
あまりの音と声に、寝ていたエルヴィーノは目覚めるとともに勢いよく上半身を起こした。
起きていた従魔のノッテとジャンたちも、驚きの表情で進入者を見つめた。
「やあ、ノッテとジャン! 1週間ぶり!」
「ホ、ホ~……」「ガ、ガウッ……」
入ってきた女性は、リビングにいたノッテたちに挨拶をし、頭を撫でる。
主人とは違いちょっと荒い撫で方に困りつつ、いつものことなので2体はされるがまま返事をした。
「おぉ、帰ったか?」
「あっ! エル様ー!」
女性がノッテたちと挨拶を交わしている間に、エルヴィーノは寝室からリビングへと移動する。
そして、思った通りの進入者に、眠そうな顔で頭を掻きながら呟く。
そんなエルヴィーノの姿を見た女性は、嬉しそうな表情で彼に抱き着いた。
「帰るのは今日の夕方じゃなかったのか?
「急いで帰ってきたんです!」
身長160cmほど、スレンダーな体型で、容姿端麗、黒髪黒目の彼女の名前はセラフィーナ。
エルヴィーノは略してセラと呼んでおり、セラフィーナはエルヴィーノのことをエル様と呼んでいる。
やり取りからも分かるように、セラフィーナはエルヴィーノのことを好いている。
しかし、今のところエルヴィーノにその気がないため、妻や恋人というわけではない。
「ったく、今日はもう少し寝ていようと思ったのに……」
「だって、少しでもエル様と一緒にいたいんですもん!」
「……あっそ」
170cmほどの身長のエルヴィーノ。
その彼を見上げ、少し頬を染めながら、セラフィーナはいじらしげに返答する。
若干あざとくもあるが、容姿端麗な彼女がすればたいていの男は落ちてしまうだろうが、エルヴィーノはしれっと受け流した。
「……ん?」
「あっ……」
エルヴィーノに受け流されても気落ちすることはなく、もっと話をしようと思っていたセラフィーナだが、いまさらになってリビングの一角に見慣れない物がおかれていることに気づいた。
セラフィーナの視線が
しかし、そう思ったところで後の祭り。
エルヴィーノが呼び止める間もなく、セラフィーナはスタスタとベビーベッドに近づいて行ってしまった。
「あう?」
「………………」
「………………」
覗き込んだセラフィーナと目が合い、オルフェオは不思議そうな声を上げる。
誰だろうとでも思っているのだろうか。
どうやら、目を覚ましていたようだ。
そんなオルフェオを、セラフィーナは目を見開き、瞬きもせず、ただ無言で見つめる。
能面のように固まったその表情に、エルヴィーノも何も言えずにうつむきつつ頭を掻くしかできなかった。
「……なんですか? この子……」
「いや……、それはだな……」
オルフェオを指さしつつ、セラフィーナはギギギッと古い戸を開く時の音を立てるようにエルヴィーノのほうに顔を向けて問いかける。
その目には言い知れぬ圧力がこもっており、さすがのエルヴィーノも気圧されてしまう。
しかし、そのわずかな間がよくなかった。
「っっっ!!」
「あっ!!」
エルヴィーノがどう説明するか考える僅かな間で、セラフィーナはベビーベッドの側の棚に置いてあったかごに目が行った。
そして、セラフィーナはまたも大きく目を見開く。
そのかごの中に入っていた手紙の文章を読んでしまったからだ。
「………………」
その手紙の方に意識が向いたセラフィーナは、 エルヴィーノの説明を受けるよりもそちらへと手を伸ばした。
そして、その手紙を無言で何度も見て、ワナワナと音がしそうなほど体を小刻みに震わせた。
「エ、エル様!! 私というものがいながら、どういうことですか!?」
「お、落ち着け!! 落ち着け!!」
視線を手紙からエルヴィーノに移したセラフィーナは、少し涙目になりながら迫ってくる。
その勢いに押され、エルヴィーノは若干後退りしつつ、セラフィーナをなだめるように声をかける。
「そ、そういえば、お前に頼んだ方はどうだったんだ?」
「話を逸らさないでください!」
「ぐっ……」
どうにかしないと止まらない。
そう考えたエルヴィーノは、自分でもあからさまとわかりつつも別の話に変えようとした。
戸惑っているといっても普通に頭の回るセラフィーナは、そのエルヴィーノの問いにツッコミを入れる。
正論のため、エルヴィーノはそれ以上言葉が出なかった。
「はぁ~……」
こうなることが分かっていただけに、エルヴィーノは夕方までにセラフィーナへの説明の仕方を考えるつもりでいた。
しかし、こうなっては仕方がないため、エルヴィーノは大きくため息を吐いて気持ちを落ち着かせると、セラフィーナの頭をポンポンと叩き、オルフェオのことを抱き上げた。
「よく見ろ! 俺の子のわけないだろ?」
「……そういえば、そうですね……」
抱っこされてご機嫌のオルフェオを見せ、エルヴィーノはセラフィーナに問いかける。
オルフェオの
「そうですね。エル様の子にしては、
「だろ? 本当に俺の子なら、
冷静になればわかることだった。
パットをしてバレないようにしているが、エルヴィーノとセラフィーナと耳が違うのだ。
言葉の通り、2人はダークエルフなのだから。
「この子の名前はオルフェオ。恐らく間違ったらしく、昨日の朝家の前に置かれていたんだ」
「……捨てられた可能性も?」
「それもある」
エルヴィーノは、ステータスカードをオルフェオに触れさせ、証明するように見せつつ説明する。
捨てられたのではなく、間違いで置いて行った。
エルヴィーノとしては、そうであってほしいと思っている。
なぜなら、エルヴィーノとセラフィーナが
もしかしたら、自分たちと同じように捨てられたのではないかと思い、セラフィーナはオルフェオのことをじっと見つめた。
「オルフェオ……」
「あう?」
自分の名前だとわかっているのだろうか。
オルフェオはセラフィーナのことを見つめた。
その表情を見て、セラフィーナは自然と笑みが浮かんできた。
「よし! オル君ね」
捨てられたのか間違いなのかは、今のところ分からない。
しかし、どちらにしても、赤ん坊はかわいらしい。
そのため、エルヴィーノが面倒を見るというのだから、セラフィーナはそれを受け入れることにした。
そして、オルフェオの名前を略した呼び方をすることにした。
「そうだ! 仮とはいえ、エル様がパパなら、私がママよ!」
「あう?」
面倒を見るということなら、エルヴィーノが父親代わりになる。
父親代わりがいるのなら、母親代わりも必要。
それならばと、セラフィーナは良いことを思いついたとばかりにオルフェオに語り掛けた。
「……ったく、はぁ~……」
結局面倒なことにはなったが、とりあえず納得してくれたことに安堵した。
セラフィーナもオルフェオのことを気に入ってくれたようだし、これで問題はないだろう。
しかし、今度は違う方向に面倒なことを言い出したセラフィーナに、エルヴィーノは思わずため息が出たのだった。
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