第 6 話

「オル君。高い高ーい!」


「キャッキャ!」


 オルフェオのことを受け入れたセラフィーナは、頻繁に遊び相手をするようになった。

 セラフィーナのことを母親と受け入れているかどうかわからないが、オルフェオは遊んでもらえてご満悦のようだ。


「お前の主人は相変わらずだな? リベルタ」


「ニャ~オ!」


 セラフィーナは朝からずっとテンションが高い。

 いつも元気なのは長所だが、マイペースなエルヴィーノからするともう少し抑えてもらいたいところだ。

 そんな思いを、リビングのソファーで横になりまったりしている黒猫に話しかける。

 この黒猫はオンブロガットという種類の魔物で、セラフィーナの従魔だ。

 名前をリベルタという。

 魔物とはいってもネコだからなのか、エルヴィーノと同じくマイペースだ。

 そのため、似た性格とセラフィーナに苦労をかけられている者同士ということもあり、エルヴィーノとは仲がいい。

 今もエルヴィーノの言葉に、「まったくだね」と同意するような鳴き声で返した。


「まったく! なんて両親なの! こんなかわいいのに捨てるなんて……」


「……そういうなよ。まだ分かんないんだから」


 エルヴィーノとリベルタのやり取りは聞こえていなかったらしく、セラフィーナはオルフェオに夢中だ。

 しかし、オルフェオを見ていたら段々と怒りが沸き上がってきたのか、文句を言い始めた。

 それに対し、エルヴィーノはなだめるように語り掛ける。

 そもそも、まだ完全に捨てられたとは限らない。

 もしかしたら間違いだったかもしれないし、何かしらの理由があってのことかもしれないのだから。


「それに、俺たちの時よりマシだろ?」


「そう…ですね……」


 もしも、オルフェオが捨てられたのだとしても、はっきり言って自分たちよりもましだ。

 エルヴィーノとセラフィーナ。

 彼らの場合は、完全に親に捨てられた口だからだ。

 しかも、すぐに見つけてもらえるように町中に置かれたオルフェオと違い、魔物のいる森の中に捨てられたのだから、そう言いたくなるのも当然だ。


「エル様に拾っていただかなければ、私は魔物の餌になっていました」


「アンばあに拾われなければ俺もだよ」


 セラフィーナがエルヴィーノを様付けで呼ぶ理由。

 それは、自分の命の恩人だからだ。

 そこまで恩に感じなくていいのだが、セラフィーナが言っても聞かないため、エルヴィーノは放置している。

 エルヴィーノの場合、アンばあことアンジェラに拾われたことで命が救われたのだから、自分よりもアンジェラの方に恩義を感じてほしいところだ。


「髪と目が黒いだけで捨てるなんて、エルフって狂ってますよね!」


「まあな」


 この世界ではエルフという種族が存在している。

 東西南北に分かれている大陸のうち、西大陸の一部の森に住んでおり、容姿端麗、金・銀の髪色で碧眼をしている。

 そのエルフたちは、黒髪黒目のエルフのことをダークエルフと呼んでおり、一族に災いをもたらすものと言い伝えられている。

 そのため、生まれたばかりの赤ん坊が黒髪黒目の場合、忌子として排除するために魔物の生息地に放置する風習になっている。

 その風習にのっとり、エルヴィーノとセラフィーナは捨てられたのだ。

 エルヴィーノの場合はアンジェラ、セラフィーナの場合はエルヴィーノが救い出したことで、恐らく世界に2人だけのダークエルフが存在しているということだ。

 セラフィーナが言うように、ダークエルフだろうと何だろうと、髪と目が違うだけで捨てるなんて馬鹿げた風習だ。


「ふぇっ……」


「えっ? ど、どうしたの?」


「たぶんミルクだろ」


 少し前までご機嫌だったオルフェオだったが、急にぐずりだした。

 それに気づくが、原因が分からないため、セラフィーナは戸惑いの声を上げる。

 子育て経験(セラフィーナのこと)があるため、エルヴィーノは慌てることなく動く。

 哺乳瓶と粉ミルクを用意し、ミルクを作り始めた。


「あぁ、急いで帰ってきたから私もお腹空いた! エル様なんか作って!」


 朝帰ってきて色々とあり、いつの間にか昼になっていた。

 そもそも、今日の夕方に帰る予定だったが、セラフィーナは食事もそこそこにして急いで帰ってきたため、家について気持ちが緩んだのか、お腹が鳴り始めた。

 そのため、ミルクを作るためにキッチンに立ったエルヴィーノに対し、セラフィーナは昼食を求めた。


「腹空いてるなら自分で……」


 昼とはいっても、昼食を食べるにはまだ少し早い。

 昨日好きなだけ飲み食いしたこともあり、はっきり言ってエルヴィーノはまだお腹は空いていない。

 そのため、自分で作れと言おうとしたエルヴィーノだったが、その途中でやめた。


「……わかったよ」


 否定するつもりでいたエルヴィーノだが、仕方なさげにセラフィーナの頼みを受け入れる。

 セラフィーナに任せると、キッチンがとんでもないことになると考えたからだ。

 一緒に住んでいるので、エルヴィーノとセラフィーナは家事を分担するようにしている。

 しかし、セラフィーナは家事の中で料理だけがだめだ。

 余計な味付けをするのか、出来上がる料理はどれもおかしな味に仕上がる。

 それに、料理中はそれに頭が一杯になるのか、掃除はできるのにキッチンが鍋や食材で散乱状態になるのだ。

 そのあとの掃除を考えると自分がやるしかないと考えたため、エルヴィーノはミルクのついでに昼食の準備を始めた。






「聞かなくても分かってるが、頼んだ件はどうだった?」


「ハズレでした」


 結局、いつもより早い昼食になった。

 ミルクを飲んだオルフェオが眠り、昼食を終えたところでエルヴィーノが問いかける。

 セラフィーナが出かけていたのは、エルヴィーノが頼んだことだったからだ。


「アンジェラ様直伝の占いですからね……」


「7割の方だったか……」


 赤ん坊のエルヴィーノを、どうしてアンジェラが救うことができたのか。

 それはアンジェラの占いの結果によるものだった。

 そして、エルヴィーノが言う7割とは何かというと、アンジェラの占いは3割しか当たらないというものだからだ。

 その占い法を習ったエルヴィーノも、同じく3割しか当たらない。

 そのため、今回は7割のハズレを引いたのだと判断した。

 エルヴィーノとしては、今回の場合はハズレの方が良かったため、7割であったことに安堵していた。


「私は仲間が増えるかもしれなかったから、どっちでもよかったけど……」


 エルヴィーノの占いで出たのは、セラフィーナの時と同じものだった。

 つまり、新たにダークエルフが生まれ、捨てられるのではないかと考えた。

 もしも3割を引きダークエルフの赤ん坊が捨てられるのだとしたらと、エルヴィーノはセラフィーナに赤ん坊を救うように頼んだ。

 自分で行くことも考えたが、一角兎の大繁殖の方は調査して確実だったので、そちらを優先することにしたのだ。

 セラフィーナとしては、ダークエルフが増える可能性があったため、あたりでもよかった。

 しかし、結果として親に捨てられる子供が生まれなくて良かったとも思っていた。


「……あれ?」


「んっ?」


 捨てられた赤ん坊がいなくて良かったと考えたとき、セラフィーナの中でふとある可能性が頭をよぎった。

 その反応に、エルヴィーノは首をかしげる


「その占いって、オル君のことなんじゃないですか?」


「…………あっ!」


 エルヴィーノの占いは、カードを使ったもの。

 その占いでセラフィーナの時と同じものが出たため、ダークエルフの赤ん坊が捨てられると思ったのだが、正確には赤ん坊が捨てられるというものだった。

 そのことから、セラフィーナは占いは3割の方、つまりは当たりだったのではと思ったのだ。

 そういわれたら確かにそうだと、占いはオルフェオのことだったのだと今更になって気づいたエルヴィーノだった。


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