パチンコ・スロット依存症 中編

 主任の言葉を思い出した俺は、海老名駅から遊歩道続きのパチ屋へと足を運んだ。

 午前中返ってきた7000円と、友達とのお昼代で減りはしたが、余った6000円合わせて13000円が財布に入っていた。交通ICカードには十分な金額が入っているため、使い切っても問題はない。

 

 これも人生経験だ、そう思ってふらふらと本日二度目のパチ屋へと入店、朝入った店と同じように店内を観察した後、何をしようか考える。


 またジャグラーを回そうか? いや、目押しはもう出来たし、大した演出もないジャグラーは少し面白みに欠ける。とはいえ、AT機(揃えるアシストが存在するスロット機、大抵のアニメ台はこれになる)を回すには知識が足りない。AT機は設定を上手く見抜き、どのタイミングで何を狙わないといけないなどの技術が多少必要になって来る。

 そう考えると、たいして知識を必要としないパチンコがちょうどいいだろう。しかし正直なところ、俺はパチンコが好きじゃない。その理由はただ一つ、無駄球が存在することだ。パチンコは台の下中央にあるへそと言われる穴に球が入ることで、抽選が始まる。つまり、運が悪ければいくら入れても抽選すら始まらない可能性すらある。その点、スロットはメダルを入れてレバーさえ叩けば抽選を始めてくれる。


 とまあご託を並べてごねたが、結局今まで一切触ったことのなかったパチンコに座ることにした。これも経験だ、そう自分に言って、前から気になっていたアズールレーンのパチンコ台を選んだ。

 一度大当たりを引いて、ボーナス(ラッシュボーナス)チャレンジの演出が見たいなと思ってアズレンに座った。アズレンは、ラッシュを突破する40%が渋いということは聞いていたので、まあ抜けることはないと覚悟していた。チャレンジに失敗して「あ~やっぱ当たらんか~まあこんなもんだよな~」そう言って終わらせる……はずだ。


 気づけば1時間ちょっと、財布からは13000円が消えていた。


 演出はリーチ止まり。ボーナスを突破するどころか、一度も当たりを引くことすらできなかった。

 俺は唖然とした、13000円入れて128回転。スロットなら、最低200は回っただろう金額で128回転。そして一切のボーナス演出なし。


 軽くなった財布、暗くなった外の景色。俺の背筋は凍り付いた。


 泣きそうだった。勝てるだなんて思ってはいなかった。だが、演出すら見れずに終わるとは思わなかった。やりきれないこの感情は、翌日まで続いた。


 翌日の授業中、頭の中はアズレンの台のことで一杯だった、リーチの時の演出、台のギミック、その光景が頭から離れない。あの状況で後1000円入ってたら? もしものことばかり考えてしまう。

 分かっている、そんな都合よくいかないことぐらい。しかしそれでも、低く見積もった目的すら達成できずに金が消えたことが、我慢ならなかった。


 ここで俺は最悪のタイミングで、性格『負けず嫌い』を発動してしまった。


 金を失ったことに対してではない、それだけは明言する。あくまでも、当たり演出が見れなかったことが悔しかった。


 そしてその気持ちを払うべく、俺は2万を捨てる覚悟を一日かけて決めた。


 翌日、人生経験として打ってみたいという友達と共に、自転車を漕いでパチ屋へ向かった。二人で背中合わせに台へ座った。俺は勿論アズレン、友達はルパンの台だった。


 結果、当たりの演出は2回みることができた。しかし、二回ともラッシュには突入せず、ストレート2万負け。分かってはいたが、たかだか2時間程度でこの一瞬を見るためだけに俺は2万を捨てた事実に、吐き気を覚えた。

 確かに、抽選している時、リーチした時、先バレ演出が発動した時、俺の心は躍った。ドキドキした。興奮した。その快感は普通に生きていればなかなかお目にかかれない快感だった。ソシャゲのガチャに似ているが、それよりも何倍も脳がバグるような興奮。これが、脳汁が出るということなのだと身をもって知った。


 ひとまず、見たかった演出は見れたので、どこか空しさを覚えつつも俺は家に帰り、もうしばらくはパチンコを打たないだろうなと、友達と話した。


 その翌日のことだった。いつも通りバイトに向かい、給料分の仕事はしようとこなしていた時、ホールを回していた主任に「お菓子のクズ落ちてるから、軽く掃いてくれる?」と頼まれた。

 何気なくそれを了承し、外から塵取りと箒を持ってパチンコのレーンへと入った。主任が行っていた菓子くずを見つけ、片づけようと腰をかがめた瞬間。俺の左側の台が激しく点滅し、大きな音を立てた。

 光方、音、流れ出る音楽、聞こえて来るキャラクターの声。間違いなかった。


 俺が前を通り過ぎた瞬間、アズレンの台が、俺が二日間で3万飲まれたアズレンの台が、ラッシュボーナスへと突入した。


 そこから怒涛の勢いで当たって行った。ラッシュボーナスを越え、ラッキートリガーまで引き当てた。怒涛の勢いで出玉のカウントが刻まれて行き、演出が続く。

 俺は目を背けた。聞こえないふりをし、お菓子のクズをある程度片付いたら、結果を見ずにその台の前を離れた。


 vanitas vanitatum, et omnia vanitas.なんと空しい、全て空しい。


 分かっている。外れる人がいれば、当たる人もいるのだ。でもまさか、翌日、俺の目の前で、そんなことがあっていいのか? 真剣に俺は神に嫌われているのかと錯覚した。別に宗教を信仰している訳でもないが、天に見放された気がした。

 

 翌日パチンコとは全く関係のない嫌なことがあった。ネットの知り合いと、少しギスギスしてしまった。完全に自分の落ち度だ。いい関係を築けていると思っていた相手に、高圧的な態度で接してしまい、自己嫌悪に陥った。


 そしたらあら不思議、頭の中に『パチ屋に行く』という選択肢が浮かんできた。浮かんできてしまった。

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