パチンコ・スロット依存症 前編

2024年10月9日、俺は人生で初めて、パチンコ・スロットを打った。


 その日は地元の友達が、横浜へと推しのライブを見に来ると言うことで、久しぶりに会おうと言う話になった。

 

 自分は一日全休だったが、友達は、午前中授業を受けてから来るという。折角横浜まで行くのなら、何か面白い所に行きたいと思い、俺は予定を立てた。午前中に横浜へと到着し、日産本社の展示店で愛車のGTRやスカイラインを拝もうかと思っていた。


 しかし、いざ当日となれば、土砂降り。風も強く、最悪電車が止まるんじゃないかと思うほどの天気。

 ちなみに、その日は自分のバイト先のパチ屋がリニューアルオープンの日で、多くの人に来てもらえるよう宣伝していた。だがこの雨では客も渋りそうだなと思いながら電車に乗った。(実際はそんなこともなく、雨が強い午前中は車勢が、止んだ午後以降は原付や自転車勢も加わり、普通ににぎわっていた。こわ。)


 電車に揺られしばらく経っても、雨は弱まる気配はない。目的地の横浜駅から日産本社まで歩いて10分ちょっと。この土砂降りの中、10分ちょっと。ダル。


 と言うことで、相鉄線の中で俺はスマホを開き、横浜駅近で時間を潰せる場所を探した。その時、徒歩1分の距離にパチ屋を見つけた。これが、全ての始まりだった。


 自分は、パチ屋でバイトをしている以上、スロット・パチンコの事にはある程度理解がある必要がある。それに、御老人が目押しの手伝いをよく頼んでくる。自分でスロットを触ったことが無かった自分は、手伝って揃えさせる自信がなかった。

 だから、練習をしようと思い立った。友達との昼飯、その他諸々に使えるよう財布に入れていた1万、それに加えて新たに軍資金として5000円引き出し、お金は捨てるつもりでパチ屋へと向かった。


 店へ入り、自分のいる店よりかなり大きく豪華な店内に「はへ~」と声を漏らしながら見学し、置いてあるパチ台スロ台や交換できる景品、並びや店員の雰囲気や作業を観察した。

 適当にそれらを済ませた後、俺はスロットコーナーのジャグラーエリアへと向かった。


 ジャグラー、TheスロットのAタイプ機。基本的にボーナスへ突入するにはチャンス時(いわゆるペカッた時)に目押しで7を揃える必要がある。御老人たちの大体はこのジャグラーシリーズを回し、目押しを誰かに頼むことが多い。


 と言うことで、目押しの練習ならこれだろということで、『I’m JUGGLER』に座り、財布から千円札を取り出す。散々バイト先で見ているからやり方はしっかり覚えている。しかし、どうも手元がおぼつかなかった。

 苦労しながら台に札を入れ、サンド(台横に付くメダル貸し機)のメダル貸出ボタンを押した。じゃらじゃらと音を立てて下皿へメダルが流れ出て来る。聞き慣れたはずの音なのに、やけに騒々しく感じた。それと同時に、何とも言えない感覚が襲う。まるで背中に冷風を当てたように、サーッと体温が奪われていく感覚。どこかこそばゆく、羽でなぞられるような感覚。

 1000円、500mlジュースが7本、弁当が二つ買える金額。それが、たかだか46枚のアルミのメダルへと変わってしまった。ジャグラーを回すには基本3枚必要なため、たかだかが15回転しか回せないメダルへと。

 

 その事実を忘れようと、頭を振って台へとメダルを飲ませ、レバーを叩く。ボタンを押す。メダルが無くなればまた震えながら千円札を台へ入れ、メダルを貸し出し、台へ飲ませ、レバーを叩く。

 そうして3000円ほど台へと居れたところ、独特な音と共に、台のリール(回っている所)横のランプが光った。ついに、ペカッたのだ。忘れることはない。146回転目のことだった。


 一回目は失敗した。普通に1リール目をミスり、ため息をついてあと二つを止める。二回目、気を取り直してリールに向き合い、赤い大きな7の文字が過ぎるタイミングを足と指先で測り、ボタンを押した。1リール目の左上に7が止まった。2リール目の中央に7が止まった。3リール目の右下に、また7が止まった。

 その瞬間、台からやかましい音楽が流れ、まばゆい光が放たれる。台上に付くモニターには、BIG BONUSの文字。ジャグラーには二つの当たりがあり、それぞれレギュラーとビッグ、後者の方が排出メダル数は多い。その後者を、俺は引いたのだ。


 明るい音楽、鬱陶しいほどのフラッシュ、適当に押しても役が揃い、揃うたびにじゃらじゃらと台からメダルが吐き出される。さっきまではあんなに頼りなかったメダルが、その時は宝石かのように輝いて見えた。

 役が揃うたびに腹の底からこみあげて来る気持ち悪い笑み。『当たった』それは、思っていた以上に、俺の脳内を反響した。


 その後、排出されたメダルを使って再びジャグラーを回す。今度は155回転目でペカり、再びビッグボーナスへと突入した。


 そろそろ時間だということに気づいた俺は、二回目のボーナスを終えたところで景品と交換し、換金所へと景品を持って行った。

 ただの札を箱に入れたら、現金になって帰って来る。本来認められていないグレーラインのやり取り。背徳感は、俺の情緒をおかしくさせていた。

 

 結果、3000円を入れて7000円が返って来たため、勝ちと言えるだろう。


 受け取った金を財布に入れて、久しぶりの友達としばらく話し込んだ。お昼を食べ、雨が止んだため、目当てのライブが始まるまで結局日産にも行った。そうして適当な時間で分かれた俺は、再び相鉄線に乗り、帰路へとついた。

 小田急へ乗り換えるために海老名で降りた時、俺の頭に、バイト先の主任の言葉がよぎった。

「パチ屋行ってみたいなら、海老名にでも行くといいよ」

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