第4話

 社訓にも幾つかあるが社畜にとって上司の命令は絶対だ。

 それが現在はないので次の行動を考えなくてはならない。

 命令されない身と言うのはなんとも苦痛だ。何よりも仕事がないと不安になって来る。

 この際、贅沢は言わないので早く職場へ帰りたいものだ。

 そこで私はある重大なミスをした事に気付いてしまう。

 先の先方とのやり取りの際に名刺交換をするのを忘れていた。

 いまから戻るのも流石に失礼だろう。何よりも抵抗した後だ。

 アットブル社で挨拶した社畜には申し訳なく思う。


 そんな事を考えながら密林の中を移動する。

 職場がある以上、雪の中だろうが、台風の中だろうが出社するのが社員の務めだ。

 病気だろうと戦争の負傷だろうと仕事に穴を空けて休む訳にはいかない。


 ふと、焦げ臭さを感じて後ろを振り返るとアットブル社のクレイウォーカーが火炎放射器で密林に火を放っていた。

 どうやら、先方の怒りを買ってしまったらしい。


 冷静に考えれば無理もない。わが社のお送りするまだ未発表のモデルのクレイウォーカーを手に入れていたのに私が破壊してしまったからな。


 ──とは言え、密林を火炎放射器で燃やされるのは此方としては宜しくない。

 クレイウォーカーの燃料は引火し易いのだ。

 当然、私の乗るクレイウォーカーも火に弱い。

 なので、先方がお怒りで大変心苦しいが、ご退場頂こう。

 私は大木をシールドアームで掴みながらUターンするとそのまま、火炎放射器で密林を焼き払うアットブル社のクレイウォーカーの燃料タンクに固定ライフルを連射する。

 タンクにライフルを叩き込まれたクレイウォーカーが爆発し、周囲のクレイウォーカーも連鎖的に爆発と炎で混乱する。

 私はそのまま、更にターンしてスラスターの出力を上げながら、その場を離脱する。


───


──



「オーシャン社の社員さんですか・・・このような事をした、おバカさんは?」

「左様で御座います。現在、逃走経路と思われる密林から炙り出す為に重火器型Mx-503を総動員しております」


 猫を撫でながらベンツで社長出勤したアットブル社の少女のような社長は「ほう」と呟くとベンツの外で此方へ頭を下げる部下へと笑う。


「ネズミ一匹に大物取りですね?・・・あなたの目から見て、そのネズミはただのネズミではないので?」

「あくまでも私個人の印象では御座いますが、今回のオーシャン社の社員はなかなかの手練れかと・・・或いはPPPである可能性があるやも知れません」

「トリプル・パーフェクト・・・業務、体力、根性がパーフェクトであり、常に仕事を完遂すると言う都市伝説の・・・」

「失礼ながら予言致します。今回の炙り出し作戦もPPPであったのならば、逃げ延びると」

「あなたがそこまで言うのならば、器の小さいオーシャン社にはもったいないですね」

「ご命令とあらば、私がヘッドハンティングをしにオーシャン社まで伺いますが、如何致しましょう?」

「あなたに一任を致しますわ。仕事の出来ない無能ならば、いざ知らず、現地拡大して企業独占しているアットブル社を前に単身で逃げ延びた逸材ですもの。仮にPPPだとしたら将来的にわが社にさぞや貢献してくれるでしょうからね。任せましたわよ」


 少女社長はそう言うと運転手に「出して」と言ってベンツを発進させる。

 それを見届けてからアットブル社の尖兵であった社員が826を現場から逃がしてしまった事を報告するのだった。

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