第3話

 簡易レーダーを頼りに私は新しい職場へと向かう。

 その間に新規参入契約書をデータバックに入力しつつ、残弾数などを確認する。

 せめて、上司がいれば、やりようは幾らでもあったろうが、早期退職してしまった今となっては仕方がない。

 唯一、心残りは引き継ぎ事項を行う前にいなくなってしまった事だろう。それについてはさぞや無念だったろうと思う。

 自分のクレイウォーカーは歩行モードで燃料を節約しているが、企業支援は期待して良いものだろうか?


 そんな事を考えていると新しい職場が見えて来る。


 ──しかし、何か妙だ。


 私は職場近くの物陰から双眼鏡を使って周囲を確認する。

 どうやら、テスト期間中に私と手合わせしたクレイウォーカーを輸送するらしい。

 しかし、その護衛をするのが相手企業のクレイウォーカーなのは何故だろうか?


 更に観察すると弊社のクレイウォーカーの残骸が見受けられた。推察するに相手企業に取り込まれたのだろうか?


 もう少し情報が欲しいな。

 私は残存する弊社のクレイウォーカーの存在を確認すると再びクレイウォーカーに乗り、企業陣営に突入する。


「失礼致します。此方はオーシャン社より新しく転属を致しました826と申します」

「どうも。初めまして、826様。

 申し訳ありませんが、当社は先日付けでアットブル社の管轄になりました。それと大変申し訳ありませんが、アポイントメントを取得していない826様が弊社にいる事は無断侵入と同意と見なさせて頂きます」

「わざわざ、ご丁寧に有難う御座います。非礼は御詫び致しますが、此方も仕事ですので」


 企業戦争とは言え、受け答えは大事だ。ましてや、社畜同士のやり取りならば、敵であれども相手を敬うのは基本だ。

 我々は企業の犬だが、軍人ではない。故に最低限のマナーと配慮は重要である。


「826様をこのまま、お帰り頂く訳にも行きません。社内の情報漏洩は未然に防ぐ義務がありますので。誠に遺憾ながら排除させて頂きます」

「畏まりました。では、此方も全力で抵抗させて頂きます」


 私はそう言うとクレイウォーカーのブースターをフルスロットルで突撃する。

 そんな私に警備していた相手企業のクレイウォーカー達が一斉に発砲して来る。

 私は最小限の損傷に留め、本来あるべき職場に特攻する。

 そして、職場に自分のクレイウォーカーがぶつかる前に脱出すると他のクレイウォーカーへと乗り換える為に駆け出す。

 狙うは相手企業のクレイウォーカーだ。先程の戦闘で感じたが相手企業の装甲は厚いがやや速度が遅い。コクピットが守られていると言う安心感があるのだろう。

 操縦関連のコントローラーについては違いはほとんどない。

 私は乗り換えた相手企業のクレイウォーカーを起動させ、近くのクレイウォーカーを撃破する。相手企業のクレイウォーカーの武装はショットガンと四連装ミサイルらしい。

 シールドはないのでアームの稼働領域が広い。

 私はクレイウォーカーを奪うと相手企業が輸送しようとしていた弊社のクレイウォーカーをミサイルを発射して破壊する。

 相手側の社畜も言っていたが、情報漏洩は未然に防ぐ必要がある。それが他社に渡ると言うのならば尚更だ。

 私はクレイウォーカーである程度、暴れてから再びクレイウォーカーを弊社のものに乗り換えるとスラスターを出力させて、その場から離脱する。

 失敗した事があるとすれば、新規参入契約書を再度、書き直さなくてはならない事だろう。

 まだまだ、やらなければならない仕事は多そうだ。

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