第2話

 模擬試験から数日が経ってテストパイロットからパイロットになった。

 その上、企業機関同士で実際に行われる戦場に投入される事にもなった。

 企業がそこまで私に期待しているのなら、それに答えるのが社員の務めであろう。


「おい、新入り!名前は!」

「申し遅れました。私、早河仁と申します」

「そんな人間の名前は捨てろ!

 俺達は社会の歯車だ!」

「はい。申し訳ありません。改めまして、826と申します」

「826!俺達のすべき事はわかっているな!」

「はい。弊社の為にこの身を削り、社会に奉仕する事です」

「わかっているなら良し!

 あとは簡単だ!お前が死ぬまで会社に尽くせ!

 相手企業の社畜を倒し、這い上がれ!

 上司の俺から言えるのはそれだけだ!」


 なんとも部下思いな上司だ。

 私が言うのもなんだが、戦場はアットホームな環境になるかも知れないな。

 そんな事を考えているとハッチが開かれ、下から対空砲火の弾丸の雨が降り注いでいる。


「さあ、仕事だ!行くぞ、野郎共!」


 そう言って上司の操るロボットが飛び降りる。

 私もそれに続いて躊躇う事なく、飛び降りた。

 今回の機体は慣れ親しんだテスト機に操作が近い。

 もしかすると企業で操作方法を統一されているのかも知れない。


 ふと、私は後続が降りて来ないのに疑問を感じ、上を見上げる。

 次の瞬間、私達を乗せていた輸送機が爆散した。

 破片などが降って来る中、私はスラスターを出力させて着地すると眼前に迫る相手企業のクレイウォーカー達を見据え、右腕の固定ライフルを発射しつつ、その場からすぐに離脱する。

 あの上司は眼前に相手企業のクレイウォーカーがいたのもあって集中砲火を食らったらしい。

 過労で死ぬ人間は幾度も見てきた。死と言う概念に今更、何か感じる事はない。


 私の概念的に死=定時退社だろうか。企業同士の戦争だ。

 目に見える死か、そうでないかの違いくらいだろう。

 私を追って来るのは肉眼で3機。装甲は私の乗っているクレイウォーカーよりもしっかりしているように見える。

 多少、此方が反撃しても劣勢だろう。


 ──考える前に即行動。


 社訓を思い出し、私は逃げるように見せて緊急停止すると追い越して行ったクレイウォーカーに固定ライフルを発射する。

 此方のデメリットは装甲が最低限しかなく、コクピットを守る装甲もない為に一撃でも喰らうと致命傷になる事。

 また構造的に燃料に引火し易い事が挙げられる。

 逆にメリットは生産コストにそこまで費用が掛からず、大量生産出来る事と戦場の空気の変化を肌で感じられる事と機体が損傷した際の破棄がスムーズである事だろう。

 私のクレイウォーカーの右腕に固定されたライフルは相手企業のクレイウォーカーの後方を捉え、命中した相手企業のクレイウォーカーの一機が爆散する。

 慌てて振り返ろうとする相手側のクレイウォーカーに対し、私はスラスターを出力させて迫ると左のシールドアームを構えたまま、突進する。

 相手のクレイウォーカーは装甲がへしゃげ、後方へと吹っ飛ぶ。

 その間に私は固定ライフルで此方を視認するもう一機のクレイウォーカーを撃破する。

 それから、そのまま突進で吹っ飛んだクレイウォーカーに固定ライフルを発射した。

 相手が沈黙し、炎上するのを確認すると私は味方陣営のあるであろう場所へと戦線を離脱する。

 職場に来て、早々に上司と同僚が退職してしまったな。


 早く次の上司に新しい指示を貰わなくては・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る