第2話
翌日、俺は有休をとって会社を休んだ、冴子には内緒で。
妻が不倫していると知った翌日に、仕事など手につくはずもない。
朝は普段通りに朝食を摂り、会社に出かけるフリをして家を出た。そうして自宅のマンション近くの物陰に身を潜めた。
冴子が毎日あの男と会っているのかは分からない。今日がダメなら明日、明日がダメなら明後日だ。不倫の現場を押さえるまで、会社は休むつもりだった。
俺のやる気を神様が見ていてくれたのか、見張りを始めてから三時間後、午前十時過ぎに、冴子がエントランスから出てきた。白のワンピースにお気に入りのネックレス、麦わら帽子を被っている。余所行きのお洒落な格好である。家でのだらしない服装とは大違いだ。
イライラを募らせながら、俺は冴子の後を追った。
冴子はまっすぐ駅に向かい、電車に乗った。俺は冴子に気づかれないように同じ電車の隣の車両に乗り込んだ。車両の連結部分の窓から隣の車両の様子を窺う。冴子は座席に座ってスマホに目を落としている。
三駅離れた隣町の駅で、冴子は電車を降りた。俺も後に続いた。
冴子は駅の改札を出ると、近くの柱を背に立った。
平日ということもあってか、人通りは少ない。
男を待っているのか?
俺の予想は的中した。五分としないうちに、昨夜見た霧島という男が姿を現したのだ。霧島は冴子に何事か話しかけ、二人は並んで歩き始めた。
やはり冴子と霧島は繋がっていたのだ。
憎悪の炎が胸の内で燃え上がる。今すぐ追いついて二人の顔面を殴ってやりたい気持ちに駆られた。
「落ち着け。まだ不倫だと決まったわけじゃない。……そうだ、単なる昔の友達かもしれないじゃないか」
自分にそう言い聞かせながら、俺は二人の後を追った。
二人は駅前の商店街を抜けて、とあるビル群が立ち並ぶ一画へと入っていく。
「……クソが!」
思わず汚い言葉が口から漏れた。通りがかった女が何事かという目で俺を見る。俺がじろりと睨むと、女はそそくさとその場を後にした。
俺は冴子たちに視線を戻す。
二人が歩いているのは、地元でも有名なラブホテル街だった。
案の定、二人はラブホテルの一棟へと入っていこうとしていた。それも最高級と呼ばれるラブホテルだ。俺の給料では到底手が届かないようなホテルである。働いていない冴子が金を持っているとは思えないから、霧島の金で入室するのだろう。霧島はよほどの金持ちらしい。妬みや恨み、色んな感情が胸の中でごちゃ混ぜになる。
俺はポケットからスマホを取り出して、ラブホテルに入っていく二人の写真を撮った。
カシャリというシャッター音がやけに虚しく聞こえた。
二人がラブホテルに入ったのを見届けると、俺は踵を返し、とある人物に電話をかけた。今の俺の心の痛みを癒してくれるのは彼女しかいない。
「もしもし。今から会いに来い。場所は――」
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