第四十話 ダンジョンに潜む闇。ダンジョン犯罪者
サイド
今日は短時間だけどダンジョン配信をする事にした。先日流した菅笠侍に助けられた配信が最後だし、深淵学院の生徒会としてもあんな不甲斐ない内容のまま放置できないからね。
この高難易度ダンジョンは地下二階からオーガなどの強い魔物が出るし、大きくて迫力があるから配信でも映えがいいんだよね~。
「
「りょうか~い♪ 必殺桜吹雪!!」
わたしが降りぬいた剣の先から桜の花びらが舞い、 周りにいたオーガ三体を包み込む。
クラス姫騎士スキル五の必殺技桜吹雪。覚える為にはスキルポイントを四十も必要とするけど、それ以上の価値がある技なのよね。
「相変わらずすごい威力よね。これで魔力の消費が五なのは反則よ!!」
「おんなじ威力の魔法を使うと消費魔力は百近いからね。コスパ最高っ!!」
正式名称は生徒会パーティなのに、なぜか配信でも虎姫パーティって言われてるのよね。
調子にノッた
コメント一覧
――――流石虎姫!! 上位クラスっていうか、レアクラスの強みだね
――――アリスちゃんファイト
――――安定の展開 今日はこの前みたいなことはなさそう
――――あの湧きは異常過ぎ
配信確認用のタブレットにもコメントが大量についている。
そうだよね、ほんと、
「最近なんだかおかしくない? その前私たちが魔物に囲まれたのもそうだけど、最近有名な配信者がダンジョン内で事故に遭う事が増えてると思うの」
「確かにそうですね。ここ数ヶ月の短期間ですが、レベル三十台の冒険者パーティの壊滅って事件が多くなっています」
「またダンジョン犯罪者たちの仕業? ホント懲りない連中だよね」
アリスの言う通りだ。わたしたちも過去にダンジョン犯罪者たちの摘発に協力した事があるけど、異常者の集団っていうか理解できない思考をした人ばかりだった。
トレイン専門の列車男もそうだけど、魔物をティムして冒険者を襲わせる奴や、冒険者を彫刻に変えて集めるダンジョン犯罪者の存在を知った時は本当に寒気がした。
この辺りにあの手のダンジョン犯罪者が居なくてホントによかったよ。
「結構法整備は進んでるけどまだまだ穴が多いからな。トレイン実行犯に対するダンジョン内での制裁が認められただけでも十分だ」
「それでも人殺しはちょっとね……。でも捕まえるだけじゃ罰金刑位で、無罪放免されて終わりだし」
「証拠があれば冒険者の資格は取り消せるんだけど、そのあたりは巧妙に細工してる事が多いし」
自分も巻き込まれましたという体でトレインを仕掛けてくるダンジョン犯罪者もいる。そうなるともうその犯罪を立証するのは難しくなる。
罰金にしても本当に微々たる額で、ダンジョン内で魔物を押し付けられた人の多くが死んでいる事を考えればありえない量刑だ。
ダンジョン内の制裁も有力者の子供が巻き込まれていなければ通らなかっただろうと言われている。
「ダンジョンの六階ですのでそろそろ警戒していきましょう。流石にここでダンジョン犯罪者はいないと思いますが」
「そうね……、前回魔物が異常湧きしたのは五階でした」
「……ポーター狩りはしたくないし、少し進んだところで魔物を狩ろう」
ポーター狩り。
ダンジョンのポーター近くで魔物を狩る行為の事で、トレインの原因にもなるしあまり歓迎される狩り方じゃないのよね。
正々堂々というか、ダンジョンは広いし最低でもポーターから数十メートル離れた場所で狩るのがマナーだからね。
深淵学院の生徒会としてポーター狩りなんてレッテルを張られるわけにはいかない。
◇◇◇
「……やはり少しおかしくないか? この階にはギガントミノタウルスが多いとはいえ、ここまで連戦する事は稀だぞ」
「私もおかしいと感じます。配信の方でも異常だってコメントで溢れていますし」
――――これって前回の配信と展開同じじゃない?
――――高難易度ダンジョンの六階ってこんなにギガントミノタウルス多いの? ミノタウルスの上位種でしょ?
――――あのダンジョンの名物というか、牛系の魔物が多いんだよ
――――かかったな。我が同胞が鉄槌を下すだろう
「え? なにこのコメント?」
「同胞? もしかしてダンジョン犯罪者?」
「今回のこれは仕組まれてたって事? 高難易度ダンジョンの六階まで潜入できるダンジョン犯罪者がいるなんて……」
ありえない。
何人パーティで来てるのか知らないけど、この高難易度ダンジョンのここまで来るには最低でも三色持ちでもレベル三十後半は必要なのよ。
まさか四色持ちがダンジョン犯罪者に加担しているの? そういえばかなり高レベルな冒険者の中には裏バイトと称してダンジョン犯罪に手を染める人もいるって……。
「撤退するわよ!!」
「五階に戻るポーター方面からも魔物が!!」
「逃がすと思うかな? 勇敢な虎姫諸君」
「だれ?」
怪しい男がそこに立っていた。シルクハットを被り右目に
かなりの長身で細身。声だけだと歳は分からないけどかなり高齢? 最低でも五十歳より若いって事は無いわね。
他に仲間は見当たらないけど、まさかこいつひとりでここまで来たの?
「わたくしの事は魔物使いのティムとでも呼んでいただけますか? と言いましても、皆様がこの名を呼べるのも残り僅かな時間ですが」
「適当な名前のくせに大口をたたくわね。この程度の数の魔物、切り抜けられないとでも思っているの?」
「まさか。ここに居る魔物はほんの露払い。本命はこの魔石から生まれる魔物でございますよ」
その魔石を一目見ただけで背筋が凍りつくような寒気に襲われた。
あの魔石から生まれる魔物はまずい。
わたしの勘が全力でその危険性を警告してきている。アレは世に放っていい魔物じゃ無いわ。
「あんなレベルの魔物をティムできるっていうの?」
「おそらくあれは魔物を封じてあるだけ。使役できるかどうかは別問題」
「そこの可愛らしいお嬢さんの予想通りです。この中に封じられているのは大邪竜ファフニール。おそらくここは立ち入り禁止となるでしょうな」
冗談じゃないわ!! 立ち入り禁止で済むと思っているの?
大邪竜ファフニールなんてダンジョンから生まれた大厄災の一種じゃない!!
このダンジョンに大邪竜ファフニールを満足させるだけの魔素があるとでも?
そんな魔物を放たれたらすぐにこのダンジョンの魔素が枯渇してこのダンジョン事態が崩壊するに決まっているわ。
そうすれば大邪竜ファフニールが地上に解き放たれてしまう。
日本壊滅? いえ、そのまま世界が終わってもおかしくないわ。
「冗談……だよな? で、その中にいる本物の魔物はなんだ?」
「この魔石が崩壊すればわかる話です。ではこれはこう致しましょう」
「ば……馬鹿な!! あんな遠くに投げ捨てやがった!!」
「さて、貴重な大邪竜ファフニールを使ったのです。あなた方とはここでお別れですな」
「まって……っ!! ダンジョン内でテレポートですって!! 銀レベル八以上で、しかもこの高難易度ダンジョンの構造を完全に把握しているの!!」
テレポートの魔法をダンジョン内で使うには、現在地と転送先の正確な座標が分からなければいけない。
もし数メートルでもズレれば、岩の中や木の中にめり込んで死んでしまうからだ。
転移する場所を記憶させる方法もあるんだけど、何故かダンジョン内では記憶させられないのよね。
「血路を開いて逃げるわよ!!」
「五階に繋がるポーター周辺には魔物の群れが……」
「ギガントミノタウルスが二十体はいるわね。いける?」
「魔力はギリギリ。メキドを使えば何とかなるかも」
赤スキル最高化力を誇るメキド。使用魔力は五百もするんだけど、アリスは赤レベルを十まで上げているから使用する魔力は五十で済む。
ただ、こんな場所で使えば私たちも無事じゃすまないわよね。
「全員に炎無効のバフをかけて、メキドを一回使うのが限界。それで逃げられなかった時は……」
「大邪竜ファフニールと戦わないといけないって事ね。勝算なんて無いわよ」
「あんな魔物に勝てる冒険者がいる訳ないだろう。封印した時だって、レベルカンストした四色持ちが十パーティ必要だったって言われてるんだ」
「うちの親戚もあの討伐に参加して命を落としてるしね。結局封印したのは勇者パーティの人たちだったでしょ?」
「という事は、運が良ければこの辺りの壊滅は避けられる訳か。勇者パーティがもう一度封印してくれればの話だが」
それは可能かもしれないけど、あの当時と同じだけの犠牲が出るって事よね?
レベル五十の四色持ちなんて本当にすっごく強いのに、封印し終わった時に生き残った冒険者の数は数名だったって話だったし……。
「……全員に炎無効バフをかけた。これでしばらく炎系の魔法や火炎系の攻撃は無効化出来る」
「メキドに耐えたらバフが切れる気がするけど……」
「それは仕方ないわ。メキドで焼け死なないだけ助かるんだから」
アリスが使うメキドの火力だったら周りにいるギガントミノタウルスは残らず倒せるはず。
これだけ倒せればレベルが上がりそうだから生命力と魔力は回復する。
問題は生命力と魔力が全快しても大邪竜ファフニールに勝てっこないって事実。
――――救援依頼、速く!!
――――大邪竜ファフニールなんて無理ゲー。あのダンジョン周辺は終わりだな
――――虎姫たち逃げて!!
――――ミノタウルスを何とかしないと退路も無い現実。流石にあの数のミノタウルスを倒す手段は……
メキドにかけるしかないけど、もし万が一レベルが上がらなかった時は、残った僅かな魔力を頼りにダンジョンから出ないといけないのよね。
ここが高難易度ダンジョンでなければなんとかなったんだけど……。
「覚悟はできた? バフがきれる前に行くよ……」
「お願い。これで倒しきれて……」
「せめてあのポーターまでの道を……」
「メキド!!」
私たちと五階に上がるポーターのちょうど中間でメキドが発動し、噴き荒れる高温の炎がわたしたちの身体を包み込んだ。
後ろにいたギガントミノタウルスの群れも含め、周りにいた魔物はすべて焼き尽くされた。
「レベルは上がらなかったけど、とりあえず助かった」
「急いで上の階に……っ!!」
「この咆哮は!!」
「向こう。うそでしょ……」
高難易度ダンジョン地下六階の天井に迫る巨躯。
漆黒の炎を口の端から漏らし、全身から禍々しい魔素を撒き散らす破壊の権化。
封印されていた大邪竜ファフニールが復活し、その邪悪な目で私たちを見つめていた。
――――メキドの炎は大邪竜ファフニールの復活を助けるだろう
――――アリスちゃんのメキドを読まれてた!!
――――これであの辺りは終わりだ
――――誰か!! 虎姫を助けろ!!
――――無茶言うな!! 大邪竜と言われているけど、推定レベル二百を超える古龍種だぞ
推定レベル二百!!
そんな魔物をどうやって倒すのよ!!
逃げる? ここから転移ポーターまで百メートルほど駆け抜ける事が出来ればわたしたちは助かるわ。
でも、おそらくこの辺りは壊滅し、最悪どのあたりまで被害が及ぶか想像もできない。
「どうにかして逃げる!! 私た……」
「
「今の……、この岩を飛ばしてきたの? 何のモーションも無しに?」
「まだ来るわ!! 前足の先で岩を弾いてるのよ!!」
一方的な虐殺。
それ以前に、あの大邪竜ファフニールはわたしたちを敵だとすら思っていない。
その証拠に周りにいるギガントミノタウルス達を岩で次々に殺しているけど、こっちには視線すら向けていないんだから。
こっちに向かって飛ばしている岩は狙いも付けずに適当に指先で弾いてるだけ、私たちの存在なんてその程度だって事?
「逃げられそう?」
「
「魔力が持たない?」
「私は白スキルにだけ振ってないから……」
レベル九にあげればその色の魔法を全部使えるからレベル十まで上げきる冒険者は少ない。
確かに消費魔力十分の一は大きいんだけど、その為にスキルポイントを三十二も使うのはためらっちゃうんだよね。
それだけあれば他の色のスキルをかなりあげられるから……。
「また飛んできた!! まずいわね」
「そろそろ炎無効化のバフも切れる。炎のブレスが来たら一巻の終わり」
「参ったわね……」
詰んだ。完全に詰んじゃった。
流石にこの言葉は口に出せないけど、私たちは確実に今日ここで命を落とすに違いない。
あんな竜のブレスなんて喰らったら私たちは骨すら残らず焼き尽くされる。そうなると奇跡の復活を使って貰えても生き返る事なんて不可能だ。
わたしたちを嘲笑うように大邪竜ファフニールは一瞥し、そして何故か動きを止めた。
怯えてる? あのクラスの竜が?
「えっと、横殴りはマナー違反だから聞いてみるけど、あのトカゲっぽいの俺が倒してもいいかな?」
「あなたは……」
いつの間にか私たちの近くに一人の冒険者が立っていた。
特徴のある菅笠。
確か真ちゃんの同級生の……。名前は何だったかな?
って、そんな事より倒す? あの竜を?
「無理。逃げた方がいい」
「生徒会長さんの返事が無いけど肯定って事で。それじゃ、少しは歯ごたえがあるかな?」
凄い刀が鞘から引き抜かれ、そして一瞬で私の目の前から姿を消した。
逃げた?
え? 急に血の匂いが……、それにまるでダンジョンが崩壊するような物凄い地響きが発生した……、いったい何が起きたの?
「あの一瞬で、首を落としたのか?」
「嘘。絶対に無理」
「でも間違いなく大邪竜ファフニールは倒された。それも僅か一太刀で……」
――――ちょ!! マジか!!
――――菅笠侍強すぎだろ!! え? こいつの過去の配信ってネットであがってるこれしかないの?
――――以前このダンジョンで配信した時のしかないね。それより、大邪竜ファフニールを一太刀? この人侍なのに魔法ばかり使ってたけど、ちゃんと刀でも強かったんだな
――――強いとかってレベル越えてるだろ!!
――――大邪竜ファフニールの防御力は推定四千。それ突破して首切り落とすなんて無理
コメント欄も大混乱みたいね。
それより、誰も不思議がってないけど大邪竜ファフニールの首を切り落とすには三十メートルくらいジャンプしないといけないんだよ。
どうやってあそこまで飛んだの? それにそこから着地して無傷なの?
「多少手応えがあったけど、雑魚っぽかった。ドロップアイテムもまずかったし」
「あきれた。大邪竜ファフニールを雑魚呼ばわりしてる奴が居る件について」
「多分石ぶつけても死んだと思うよ。……上に戻れそう?」
「何とか戻れそうよ。心配してくれてありがとう」
本当はギリギリだけど、まさかこのままダンジョンの出口まで護衛してくれって頼むのは間違ってる。
あの大邪竜ファフニールを倒してくれただけで十分だわ。
「それじゃあこれは置き土産。神域展開」
「これ……、まさか金スキルまで持っているの?」
「凄い速さで生命力と魔力が回復していく。ありがとう、これでダンジョンから戻れる」
「それじゃね。数分で全快出来ると思うから、それからダンジョンを出てね」
いったい何者なの?
っていうか、正体は知ってるけどそういう意味じゃなくて、どんな能力値してるのかしら?
もしかして家の情報にあった覚醒者? ステータスの限界、二百五十六を超えた先のいる冒険者。
相当に運のいい冒険者でないと辿り着けないって聞いたけど、あの強さはそうでなければ説明がつかないわ。
「凄い奴だったな」
「そうね。今度生徒会に招待して正式にお礼を言いましょう」
「え? あいつうちの学校の生徒なのか? いたか? あんなに強い奴?」
「該当する生徒が記憶にない。全生徒の情報は覚えてるのに」
わたしも今日まで知らなかったけどね~。
というか、あのファミレスであってるのに気づいて無いの?
まあいいわ。ライバルは少ない方がいいし、他の子が彼の魅力と力に気付く前に私に興味を持って貰わないとね。
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