第四十一話 大邪竜ファフニール




 高難易度ダンジョンの七階。八階・九階を焼き尽くして完全に別世界に変えた俺は流石に反省していた。


 このダンジョンでしか採れない薬草とか食材は無いからあの状態から回復する数日間は採集を諦めて貰うとして、あんな状態だと魔物が次に出現し始めるのがいつになるか分からない。


 ダンジョン内の魔素とかを使って元の状態に戻すって話を聞いた事があるし、最下層周辺をあの規模で破壊しつくした冒険者の話なんて聞かないからね。


 正直、ダンジョン内で核を使ってもあんな状態にはならないと思うし……。というか、魔素で満ちたダンジョン内で核なんて使えないか。


「魔素が濃いと重火器や核兵器なんかの威力が著しく低下するんだったかな?」


 魔素が何なのか分からないけど、そのあたりはかなり研究されている。


 だからダンジョン内で使用するバーベキューセットなんかも特別製だ。


 普通のバーベキューコンロだと火力が足りないって話だし。


「おおっ!! 転移ポーター周辺だともう地面が元に戻って草が生え始めてる。ダンジョンマジパネェな」


 このペースで元に戻るんだったら、今日中には元に戻りそうだね。


 俺以外にもメキドとか使う冒険者もいるんだろうし、一度誰かがメキド使う度にしばらくその周辺が使用不可能ってんじゃ話にならないしな。


「再生力がホント凄いよな。魔石入りの建材で建てないと小屋なんかもすぐにダンジョンに吸収されはじめるって言うし」


 生きてるうちはダンジョンに寝転んでいても平気だけど、死体は結構短時間でダンジョンに吸収分解されるって話だ。


 だからダンジョンで死んだ仲間は絶対に連れて帰らないといけないし、もし見捨てたりすると本気で一生後悔する事になる。


「魔法とか魔物の攻撃で身体を石とか宝石なんか変えられた時はダンジョンに吸収されたりしないんだけどね。その辺りも七不思議だ」


 石とかに変えられても生きてるって話だし、石化解除の魔法もあるからね。


 人を魔導具で宝石に変えてそれを持ち帰るダンジョン犯罪者もいるって話は聞いた。


 ダンジョン犯罪者も迷惑系の軽犯罪から、トレインなんかの殺人犯まで幅広くいるからな。


 そのうちダンジョン警察とか出来るんじゃなかろうか……。


「そうなるとダンジョン内専用の警察組織とかが出来るのか? 派出所とかダンジョン支所が出来るだけかもしれないけど」


 少なくとも高レベルの冒険者だけで組織しないとダンジョン犯罪者たちは捕まえられないだろうね。


 無駄にレベルの高い犯罪者もいるらしいし、そいつらに援助してる奴らもいるらしい。


 らしいばかりで仕方がないが、全部他愛ない噂話だしな……。


「実在が確認されてるのはトレイン野郎位? あれも故意にやってる奴らは少数って話だけど」


 ダンジョン内で逃げてるうちに魔物を引き連れる状況になる事は珍しくない。


 最初に過疎ダンジョンで俺がそうなってたし、異常に魔物が湧く時があるんだよ。


 魔物ホイホイとか魔物の巣とかいろいろ言われてるほかに、運悪く周りに沸きまくる事もあるって話だ。


 運のステータスが異様に低いと遭遇しやすいって聞いた事はある。


「そろそろ帰るかな。六階から上は魔物も俺の事を避けるだろうし、軽いジョギングみたいなもんだよね」


 魔物からは俺がどんな姿に見えるんだろうか?


 生命力と魔力は五千億。これが見える場合は魔王か何かか?


 弱肉強食というかダンジョン内でも生態系とかある訳で、相手の強さが分からないとすぐに死んじゃうんだろうし魔物も大変だよな……。


◇◇◇


 高難易度ダンジョンの地下六階。なんだかここだけいつもと様子が違っていた。


 はっきり言えばここと反対側、つまり地下五階に繋がる転移用ポーターの前に異様な数の魔物が密集してるというか、そこで戦闘が行われているのはすぐに理解できる。


「ん~、別に今回のこれは俺のせいじゃないよね? 他の冒険者がいる以上、ここで魔法を使う訳にはいかないな」


 知力四十二億のファイアバレットなんて撃ち込んだら地下七階で撃った時より酷い事になりそうだし、この階に俺以外は何も存在しなくなるだろうね。


 あまりダンジョン内を破壊しまくって通報されても嫌だし、他の冒険者が居る時は出来るだけ通常攻撃で済ませよう。


「……あれ? この気配には覚えがあるぞ。確か虎宮とらみやのお姉さんたちか」


 今の俺だったらこの距離でも簡単に相手のステータスが見れるんだけど、この状況結構ヤバくない?


 って!! いきなりメキド使った!! ここに俺がいるよね?


 ……ああ、普通の人のメキドだとあの程度の威力なのか。


 俺のファイアバレットの何万分の一の威力だ?


「おっ!! なんだかおもしろそうなトカゲっぽいのが……。ちぇっ、あっちのパーティをロックオンしてるのか? これ、横殴りで倒したら顰蹙物かな?」


 こいつ倒せば多分一発でレベルがカンストしそうなんだよな。


 そうするともうレベル上げは考えずに冒険者として活動できる。


 またここに来てちまちま魔物を倒さないで済むのは大きいぞ。


「そこのトカゲ、俺に気が付いてるんだろ? 気付かないフリはいただけないな~」


 一瞬だけど、あのトカゲは俺の方を見た。


 そして俺の力に気が付いたのか、全力で視線を逸らして俺の方を向こうともしない。


 流石にこれだけステータスが上がると、あんなでかぶつでも俺には勝てないだろうしな。


「知らない人じゃないし、一応俺が倒してもいいか聞いてみるか? あの生命力と魔力だとこいつ倒すの無理っぽいし」


 というか、あの四人でこのトカゲ倒すの無理だと思うよ。


 このトカゲが強いとまではいわないけど、多分絹ごしより木綿に近い豆腐なんじゃないかな?


 若干硬そうだし。


「あのトカゲも俺の事に気が付いたみたいだし、本格的に戦闘が始まる前だったらこれで俺にも戦闘をする権利が発生した筈」


 この辺りがややこしいんだよね。


 魔物と言っても野生動物みたいなものだし、他の冒険者と戦っていた魔物がより強い敵を先に倒そうとして近くを通りかかった冒険者に攻撃したりといろんな行動をとる事がある。


 結局、最終的に経験値は倒した冒険者が得る事が多いし、後で文句を言われても経験値の受け渡しなんてできないしな。


 ドロップアイテムが誰に権利があるかは割ともめるけど。


 という訳で、その辺りで文句を言われない為にあの虎宮とらみやのお姉さんと話をしてくるか。パーティリーダーは生徒会長さんだっけ?


 ここから一キロ以上は離れているけど、今の俺だったら本当に一瞬だ。


 加速して生徒会長の横に到着したけど、もしかしてこの人って俺の事に気が付いて無い?


 ま、そんな事よりも許可を取らないとね。


「えっと、横殴りはマナー違反だから聞いてみるけど、あのトカゲっぽいの俺が倒してもいいかな?」


「あなたは……」


 うん、ようやく気が付いてくれたみたいだ。


 周りの人も戦闘態勢に入ってないし、もしかしてあのでかぶつを見て驚いたのかな? 割と聞く話だけどさ。


 というか、向こうでのんきに治療してるし、戦う気が無いっぽい? ラッキー♪


「無理。逃げた方がいい」


 えっと、ちみっこい魔法使いっぽい子がそんな事を口にした。


 いや、冗談キツイって。馬鹿でかいとはいえたかがトカゲ相手に……。


 返事が無いけどこの状況だと俺が倒しても文句は言われない筈。


「生徒会長さんの返事が無いけど肯定って事で。それじゃ、少しは歯ごたえがあるかな?」


 自作の刀を鞘から抜き、首筋に狙いを定める。


 ……隙だらけかよ、あのトカゲもやる気ゼロなの?


 とりあえず挨拶代わりにその首に一太刀くれてやるよ!!


「一の太刀、飛頭斬ひとうざん


 これは剣術スキルレベル一の技の一つ。


 飛頭蛮ひとうばんって妖怪をもじってつけられた技で、切った首が宙を舞うからこう呼んでるらしい。


 俺が使うと筋力と氣力分の補正が付くから生み出される刀氣とうきが凄まじいレベルだけどさ。


 刀氣とうきってのは氣で出来た実体を持たないよく切れる何かで、俺が降りぬくとダンジョンの天井にもかなりデカイ斬撃痕が残る。


「って、こいつも一太刀かよ!! 見掛け倒しにもほどがある!! もうちょっと、何かあるだろ? な?」


 斬撃無効とかあったら困ったけど、それも無しかよ。


 まあ、斬撃が効かなかったらロックバレットで撃ち殺してたけどな。


 俺を見たら逃げていくミノタウルス達よりはマシだったか。


【レベルが上がりました】


【レベルが上限に達しました。現状ではこれ以上レベルリセットを行えません】


 やっぱり経験値だけは美味しかったな。


 カンストしたのはホントにありがたい。ステータスはこれ以上あがらないけどさ。

 

「多少手応えがあったけど、雑魚っぽかった。ドロップアイテムもまずかったし」


「あきれた。大邪竜ファフニールを雑魚呼ばわりしてる奴が居る件について」


 この人は重騎士さんかな?


 いかにも防御力が高そうな鎧を身に着けてるけど、このタイプの鎧を選ぶ人なんていたんだな。


 実際には金属じゃなくて、魔物の素材で出来てるんだろうけどさ。


「多分石ぶつけても死んだと思うよ。……上に戻れそう?」


「何とか戻れそうよ。心配してくれてありがとう」


 ホントに戻れるの?


 残った生命力から考えると、ほんとにギリギリだろう?


 上まで護衛とか言ったらこの人たちのプライドがボロボロだろうし、ここは支援だけして実力で戻って貰おう。


「それじゃあこれは置き土産。神域展開」


「これ……、まさか金スキルまで持っているの?」


「凄い速さで生命力と魔力が回復していく。ありがとう、これでダンジョンから戻れる」


「それじゃあね。数分で全快出来ると思うから、それからダンジョンを出てね」


 神域展開は生命力と魔力の回復速度を上げる貴重なスキルで、使用魔力は僅か百。


 結構高めの知力が要求されるから、覚える事が出来ても使う事は難しい魔法の一つ。


 使える様になったらホントにパーティで重宝される存在に化けるだろうけどさ。何せ発動に必要な最低限の知力しかなくても三十分は神域が持続するし、俺みたいなのが使うとたぶん半日くらいここは神域化する。


 神域化してるとその中に魔物は入ってこないし、その中に居ると一分で生命力と魔力が最低一割ずつ回復するからね。


「いいことした後は気分がいいな」


 ポーターを使って地下五階に上がった時、奇妙な格好の冒険者が立っていた。


 俺の菅笠侍も凄いとは思うんだけど、ここまでなりきり系の格好で冒険者してる人がいたんだ。


「まさか大邪竜ファフニールを倒す冒険者がいるとは思いませんでしたよ」


「ん? あのトカゲの飼い主? 躾の悪いペットをダンジョンで遊ばせるのは感心しないぞ」


「ほほう、大邪竜ファフニールをトカゲ扱いですか。魔物使いがわたしの得意技ではありますが、闇魔法も得意でしてな……。貴方にはここで死んでいただきますよ。タナトスの抱擁」


「……あんたもいい歳してるんだろうし、こけおどしは恥ずかしいから止めといたほうがいいよ」


「ば……馬鹿な!! 即死魔法が効かないだと!!」


 即死魔法ね……。ああ、こいつダンジョン犯罪者か。


 こいつのステータスがいくつか知らないけど、俺に効く訳ないじゃん。


 冒険者同士で戦った場合、ステータスの差が数十倍あるとまず何も効かなくなる。


 二百五十六超えて覚醒する奴もいるとは思うけど、神域まで上げきってカンストする人間なんていないだろうしな。


 元々俺には闇魔法は効かないけどさ。


「一応警告。このまま大人しくお縄について裁きを受けるんだったら助けるけど、そうじゃない場合はこっちも考えがあるよ」


「ほほう。面白い事を言われますな。わたしはこれでも知力五百を超える覚醒者ですよ」


 うわぁ、知力五百程度であんなドヤ顔が出来るもんなんだな。は~ずかし~。


 聞きましたか奥さん、知力五百ですって。普通の冒険者が二百五十六まで上げられるのに、人間って五百であそこまで天狗になれるんだ~。


 というか、こいつもしかして人じゃないんじゃない? なんとなくだけど、こいつから感じる気配は魔物に近い。


 一番近い気配なのはあの死霊、太古の孤王ロストキングって奴か……。


「それっぽっちで威張るな。俺の知力はその一万倍を軽く超える。もっとも、知力だけじゃないけどさ」


「い……一万倍!! 一万じゃ無くてか!!」


「一万倍だ。俺がある程度魔法を制御できる状態でよかったよな。グラビティブラスト」


「おぶっ!!」


 グラビティブラストは任意の場所に超重力空間を発生させて超重力で対象を押し潰す魔法だ。


 今の俺だったらかなり重力を掛けられるからとりあえず怪しい男の直径十メートル以内の重力を一万倍にしてみた。その周りの地面が踏み固められたみたいに真っ平になったけど、その中心部に赤黒い染みが残されている……。


 アレが何なのかは分かるけどさ、ホントあっけない最期だよな。


「ダンジョン犯罪者にはふさわしい最期だ。配信中じゃなくて助かったぜ」


 配信中にこんな真似なんてできないからね。


 雑魚犯罪者とはいえ、流石に即死魔法なんて使ってきたら反撃するしかない。


 あいつがあの魔法を他の人に使ったら大変だしな。


「さて、今日の晩飯は何にするか……」


 ドラゴン肉肩ロースの野菜炒め?


 高難易度ダンジョン地下二階で作って帰ってもいいんだけど、携帯型魔導コンロをまだ買ってないんだよな。


 あのバーベキューセットは大袈裟だし、今日は我慢してどこかの牛丼屋で食って帰るか?


 最近は稼ぎもいいし、牛丼特盛に卵とサラダを付けてもいいかも♪



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る