第三十六話 約束を果たす時




 俺はダンジョンに出た後でパーティを解散するつもりだったけど、どうしてもっていう事で足を失った橘内たちばなさんの所までついていくことになった。


 橘内たちばなさんは病院に入院しているのかと思えば、行先は家だっていう。もう退院したのか?


 病院だといろいろ面倒だし、好都合ではあるけどね。


「ダンジョン内で発生した怪我とかには保険が使えないらしいの。だから、手術が終わったらすぐに家に帰されるらしいわ。酷い事にリハビリも無しよ」


「世知辛いな。自分から危険な場所に行く職業だし、そのあたりは仕方がないのか?」


 この辺りはダンジョンが出来て割と長い間に何度も話し合われて決めれている。まだ日本は優しい方だ。国によっちゃ冒険者は稼いでるだろうとか言って馬鹿みたいに治療費を請求する国も多いって話だし……。


 民間でしている保険もあったらしいけど、採算が取れないから軒並み潰れたって話だね。


 ダンジョン産の回復薬も高いし、回復魔法も有料の場合が多いからな。


「リザードマン相手に大怪我したって聞いたけど、結構な数を同時に相手でもしたの?」


「あの時の事はあまり思い出したくは無いけど……、二匹よ。でも結構魔力を消費してたから一撃与えて逃げるって事だったの。でも、あいつらは橘内たちばなさんが斬りかかった瞬間に逃げて、それに驚いた橘内たちばなさんは……」


 三対二だったらいい勝負になった筈だし、全員無事に逃げ切れることも出来ただろう。


 ただ、三色でレベル五の桜輝さくらぎさんはともかく、他の三人の色数次第じゃリザードマンはちょっとギリギリの相手な気はする。


「聞くのは失礼な事なんだけど、逃げた二人の色数は?」


「揃って赤単。安心して、あいつら相手に失礼な事なんて何もないわ」


 マァァァグナムゥドラァァァァイ!! 氷点下の目で言ってきたよ。


 いやホント、そいつら完全に嫌われてるというか、それだけのことをやらかしてるんだから仕方がないよな。


 そろそろ目的地の橘内たちばなの家に着きそうだ。


◇◇◇


「帰ってくれ!! もう冒険者になんて関わりたくもない」


 橘内たちばなさんの親父さんか?


 そりゃ、自分の娘が片足を失って帰ってきたらそうなるよな。


「まってください!! ひとめだけでも礼菜れいなに合わせて貰えませんか?」


「あってどうする? あんたはあの怪我を治せたみたいだが、娘の足は……」


 桜輝さくらぎさんの怪我の事を知ってるんだったら、合わせてくれてもいいじゃん。


 彼女も痛い目を見た訳だしさ。


 それに、何もなければ怪我をした仲間のところを訪ねたりしないって。


 というより、ほんとに偶然なんだろうけど、その友達の名前も礼菜れいなだったのか。使ってる漢字は違うんだろうけど、俺の幼馴染の玲奈れいなと同じだからちょっと微妙な気分だよ。


 あ、誰か出て来た。


「どうしたのお父さん?」


「あ、礼菜れいな!!」


留美るみ? どうして? あ……あの顔の傷が治ったの? 高かったでしょ?」


「……そういえばそのお礼もまだだったわ。その件に関しては後でね」


「別に大したことじゃないけどさ」


 お礼が欲しくて治した訳じゃないし、今から橘内たちばなさんの足を治すのはタダでしてあげるんでしょ?


 だったら俺もお礼なんて貰う訳にはいかないじゃん。


 使った魔力もわずか十八なんだしさ。


「奇跡の再生!!」


「え? 再生魔法? あ……足が!!」


「あれだけ大きな欠損でも、光の粒子が肉体に変わるのか。奇跡の再生って凄いな」


 桜輝さくらぎさんの傷を治した時は覆ってある不織布の下だったし、治っていく姿は見えなかったからね。


 他にも悪い所が治るっぽいけど、目にも光が集まってたから多分……。


「眼鏡を掛けなくてもはっきり見える!! っていうか、眼鏡があると逆に見えない」


「再生系の魔法って視力も回復するのか。若返りはしないけど、弱ってる状態は治るって事?」


 それってほんとに若返ったりしないの?


 皮膚とかもそうだけど、内臓の悪い部分が治るんだったら効果は同じなんじゃない?


 魔法を使った若返りとかの話を聞かないから、その辺りは何か理由があるのかもしれないけどさ。


「これであの時の約束は果たしたわ。ちゃんと治しに来たでしょ? もちろんお金なんて取らないから」


「ありがとう。……ほんとに治るなんて思ってもいなかった」


「四肢の再生は最低でも数千万円かかる。本当にいいのか?」


「あの日、リザードマンから逃げきった後で、礼菜れいなと約束したの。必ず私が治してあげるって。こんなにすぐ治してあげられるとは思っていなかったけど」


 パワーレベリングであっという間だったからな。


 普通にやってりゃ治してあげられたのは早くて一年の終わりあたりか? 運が悪いともっとだろうけど……。


 奇跡の再生を覚えるまでにそこまで必要じゃないスキルポイントは固定だけど、使えるようになる最低限の賢力をあげるステータスの方が運だから……。


「これで一件落着だね」


「もう冒険者はやめようと思ってたけど、留美るみ達ともう一度頑張ってみようかな?」


「え? 私たちを置いて逃げたあの二人の傷は治さないし、一からパーティを探す事になりそうだけど……」


「そうだね。レベル差があるからおそらく桜輝さくらぎさんと組むのも難しいと思うし、同じレベル帯で良さそうな人を探す事になると思うよ」


 桜輝さくらぎさんはパワーレベリングしてレベル三十だし、俺もこれ以上無用にパワーレベリングしようとは思わない。


 急に実力以上の力を身に着けても困るだけだろうし……。


 俺も急激に強くなって制御しきれてない部分もあるし、この辺りは慣れていくしかなんだよな。


「そんなにレベル差があるの?」


「そうね。礼菜れいなが今の私に追いつくのは大変だと思うわ」


「この短期間で奇跡の再生を使えるようになったんだ。かなりきついレベリングをしたんだろう……」


 橘内たちばなさんの親父さん。それかなり誤解してんぞ。


 レベリングはレベリングでもパワーレベリングだ。桜輝さくらぎさんはギガントミノタウルスをロックパレットで撃っただけだしな。


 普通はレベル一桁の冒険者があのダンジョンのあそこまで行く事なんて無理だし、地下三階に下りた時点で多分死ぬ。


 桜輝さくらぎさんが今から真面目にダンジョン攻略をするんだったら、初心者ダンジョンあたりからだしね。


「私には眩耀げんようがいたから何とかなったの。私ひとりだとこんな短期間で奇跡の再生を使えるようにはならなかったわ」


 いつの間に名前呼び?


 いや確かに名前教えたけどさ、いきなり呼び始めるとか思わないじゃん。


 普通段階を踏むよね?


「そのあたりの話は後でね。冒険者を続ける気があるんだったら、多分復学できるよ」


「ホントに?」


「うちの学校は怪我とかが多いからね。治って復帰するケースがあまりに多すぎて、退学届を出した後でも最低二週間の猶予があるんだ」


 片手を失って冒険者の道を諦めたけど、知り合いに再生魔法持ちがいて運よく治ったから復帰したいとかね。


 勿論、死にかけた恐怖で冒険者から足を洗う人も多いけど、やっぱり冒険者をする事で自分が強くなる快感ってのはたまらないらしい。


 元冒険者は何処でも重宝されるけどさ。


 昔は無理だったらしいけど、今はダンジョンの外でも魔法が使えるってのも大きいよな。


 回復系の魔法はそこまで厳しくないけど、攻撃魔法はかなり制限がキツイ。魔素の濃度か何かの影響でダンジョン内よりは威力が落ちるらしいし、大事件に発展したって話は聞かないな。


 それに、ステータスカードを発行してるとステータスの恩恵もデカいしね。


「それじゃあ、またね」


「本当にありがとう。わたし、もう一度頑張ってみる」


 これでとりあえず桜輝さくらぎさんが抱えていた問題はすべて片付いた。


 さてと、桜輝さくらぎさんにはさっきの名前呼びの件とか、色々と聞く事があるぞ。



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