第三十七話 ファミレスでの話し合いその二



 橘内たちばなさんの足を治した俺達は本日二度目のファミレスとしゃれこんでいた。


 晩飯に少し早いけど店内は割と込み合ってる。今からダンジョンに潜る冒険者は早めに晩飯にしてるのかな?


 俺達が頼んでるのは軽食とドリンクバーだけだけどね。


 ……今日の晩飯は何にするかな? って、その前に話し合いだ!!


「怪我から復帰した橘内たちばなさんも大変だろうけど、他のみんなとレベル差が開いた桜輝さくらぎさんも結構大変だよ。レベル差があるとパーティ経験値が入らないからね」


「そうね。眩耀げんようはいくつなの? 後、私の事は留美るみって呼んでほしいかな」


桜輝さくらぎさん、レベルに関しては教えるつもりはないよ。経験値が入らないくらい離れてるのは確かだし」


 ギリギリだけどな。


 レベル差は十。ホントにギリギリなんだ。


 でも、それがバレると桜輝さくらぎさんはこのままパーティを続けたいって言って来る。


 これから俺がレベルを上げる事を考えた場合、彼女に狩り場を合わせてると多分俺のレベルはあがらない。


 レベル差というより、ステータスに差がありすぎて話にならないからね。 


留美るみ。他人行儀なのはよくないんじゃない?」


「今日知り合ったばかりの他人でしょ? 俺は事情を察して力を貸しただけだよ」


 厳密にいえば友達ですらない。


 本気で今日知り合っただけの赤の他人だ。


 桜輝さくらぎさんは美人だと思うけど、ダンジョンから引き上げる時の表情とかで色々察するにいわゆる地雷系の女の子に違いない。


 手を貸した事は間違いだとは思わないけど、迂闊だってと言わざるを得ない位に……。


「それじゃあ今から付き合いましょ。私は眩耀げんようのこと好きよ」


「吊り橋効果じゃない? そこまで危険はなかったけどさ」


「そうだね~。レベル五の私がギガントミノタウルスを倒すのに危険が無かったってのがびっくりだよ~」


「「「っ!!」」」


 周りの反応が酷い。


 店内にはいくつか冒険者らしき人がいたけどさ、一斉に俺達の方を向いたよ。


 まあそりゃそうだろう、レベル五の冒険者がギガントミノタウルスを倒すなんて普通は不可能だからな。


 あれ? 誰か近付いてくる。


「……もし違ってたらごめなさい。あなたはあの時の菅笠侍さんじゃないかな?」


「人違いです」


「これでも人を見る目には自信があるんだけどね~。あの時は助かっちゃった。それで、その礼を言いたかっただけなんだけど……」


 そういえばこの人虎宮とらみやの姉さんだったっけ?


 今正体がバレなくてもたぶん今日家に帰ったらバレるだろう。


 もう会わなけりゃ済む話……。


虎宮とらみや生徒会長!! お会いできて光栄です!!」


「生徒会長?」


「わたしは深淵学院で生徒会長をしてるの。こうしてダンジョンで探索が出来るのは優秀な生徒会の仲間がいるからだね」


 はい。これで二度と会わないなんて完璧に無理になりました~。


 うちの学校、生徒会主催のイベントは多いし、何よりダンジョンの探索なんかも生徒会が仕切ってるからな。


 先生たちも冒険者登録してるけど、そこまで優秀でレベルの高い人はいないって話だし。


「えっと、一年の神崎かんざき眩耀げんようです。弟さんとは割と仲良くさせて貰っています」


「えぇ!! 真ちゃんの友達だったの!! あの人見知りするあの子に友達なんて……」


 虎宮とらみやのフルネームは虎宮とらみや真治しんじ


 あいつ、家では真ちゃんとか呼ばれてんのか?


 あの周りに壁作ってツンツンしてる態度って、もしかして家で溺愛されてる反動なの?


「で、本当に友達なの?」


「俺はそう思ってますよ。あいつは自分が認めた奴しか友達とはおもわないんでしょうけど」


「これは間違いなく友達だね。あの子の性格をよく知ってるわ」


「難儀な性格ですよね。いい奴なんですけど」


 言いにくい事をズバズバと口にするけど悪い奴じゃないんだよな。


 あのやめるなら発言も俺を気遣ってなんだろうけど、多分あのまま辞めようとしたときは自分のパーティに誘うつもりだったんだろう。


 俺が灰色でも多数色って最初から感付いてたみたいだし。


「今度あのダンジョンの最下層にチャレンジしようと思うんだけど、一緒にレイドパーティ組まない?」


「やめといたほうがいいですよ。あのドラゴンは冒険者の手に余る程度にはそこそこ強いです。それにレイドパーティを組むメリットもないですし」


「そういえばあのドラゴンを一人で倒してたわね。で、アレはどんなカラクリなの?」


 遠慮なくグイグイ来るなこの人!!


 多分配信で俺の実力を知ってるんだろうけど、まともに考えたらステータスカンストさせても俺の強さには辿り着けないからな。


「秘密です。ステータスや能力をばらす冒険者なんていませんし」


「そりゃそうだよね。ここでベラベラ話してたら逆に軽蔑してた所だよ」


「お~い姫。そろそろ戻って来い。これ食ったらダンジョンに潜るんだろ?」


 虎宮とらみや姉のテーブルにいた三人がちょっとご立腹気味だった。


 というか、今からあのダンジョンに潜るの?


 あの規模のダンジョンは当然多くのダンジョン協会職員が派遣されて二十四時間営業だし、何日も泊りがけで攻略する冒険者もいるらしいけどさ。


 そういえば全部って訳じゃないけど、いくつかのダンジョン内に昼と夜があるらしい。というか、ダンジョン内を照らしてるあの謎の光が陰る時間があるそうだ。


 あの高難易度ダンジョンは違ったかな? 一日中ずっと同じくらいの明るさの筈。


「あっ、ごっめ~ん。それじゃあ、またね」


「はい。生徒会長も頑張ってください」


「あははっ、そんな事言われたの久しぶりだ」


 ……虎宮とらみや姉はテーブルに戻っていったか。


 レベル幾つか知らないけど、多分桜輝さくらぎさんと同じくらいのレベルだろうしね。


 ステータスに関しては知らないけど、あんな場所で戦えてた時点で低いって事は無いだろう。


 ……桜輝さくらぎさんがあそこのパーティには入れればいろいろ問題解決なんだけど、あそこの四人は欠ける可能性が無いから多分無理だ。


 回復役の人が戦闘不能に陥った場合の保険も用意してるだろうし、多分最悪の事態になる前に撤退する筈。


「流石は生徒会長。すっごい人気なんだよ」


「俺は名前も知らなかったよ。生徒会に興味なんてなかったしな」


眩耀げんようってすごいのに色々知らないんだ~。私で分かる事だったら教えてあげるから何でも聞いてね」


「何故そうなるのかな?」


 桜輝さくらぎさんを説得してソロ活動を続けるのは難しい気がする。


 配信する時にはいてくれれば華やかになっていいだろうけど、本気でレベリングしてる時には邪魔でしかないしな。


 俺の本気を見たらドン引きだろうし、最低でも桜輝さくらぎさんに全属性無効程度のバフをかけてなけりゃ、近くで攻撃魔法も撃てやしない。


「だってパーティ仲間じゃないですか」


「マジレベリングする時に連れて行かなくてもいいんだったら考えるけど、その条件でも大丈夫?」


「マジレベリングですか?」


「ダンジョン最深部にいるレイドボスクラスとタイマンする時かな。此処の近くにある高難易度ダンジョンのドラゴンとか」


 菅笠侍の配信動画のあるページを出してっと……。嘘!! 一億再生越えてるの? こんな地味で見どころの無い動画が?


 とりあえずこの動画を見せれば、桜輝さくらぎさんも諦めてくれるんじゃないかな?


「あのダンジョンの最下層にいるドラゴンって古龍じゃなかったですか?」


「強化種じゃないかなとは思うけど、古龍だったのかな? 何度も戦ってる訳じゃないから、違いが分からないし」


「えっと、その動画は何ですか?」


「後で観てくれるといろいろ分かると思うよ。それでもパーティを組めると思うんだったら、その時は相談に乗る。それじゃあ今日のところはこれで解散でいいかな?」


 あの動画を見て桜輝さくらぎさんが俺とパーティを組めるかどうか判断してくれると信じよう。


 組むって時はマジレベリング以外の時は連れて行ってもいい。


 俺だけで配信するよりは、マシだろうしな。


 視聴者にしたってむさい菅笠侍が淡々と魔物を狩る姿より、桜輝さくらぎさんみたいな人が戦ってる姿を見る方がいいに決まってるしね。



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