第三十四話 ファミレスでの話し合い



 放課後。俺は先日潜った高難易度ダンジョンの近くにあるファミレスに来ている。


 あの後今まで散々俺を馬鹿にしてた奴らがパーティに誘ってきたが、流石に俺とのレベル差がありすぎて話にならないので全部断ってきた。


 現時点でレベル四十まで上げてる奴は俺くらいだろうしな。


「で、なんでお前までここに居るんだ?」


「ごめんなさい。後をつけられたの」


「俺は確認したい事があっただけだ。それが終わったら帰るさ」


 ファミレスのテーブルには桜輝さくらぎさんの外に虎宮とらみやまでいたりする。


 確認したい事ってなんだ?


「それじゃあ、そっちを先に済ませるか」


「お前がここに来た時点で大体理解してるけどな。何日か前、お前あのダンジョンで支援ヒールしなかったか?」


「支援ヒール? ああ、したけど。何で知ってるんだ?」


「やっぱり。お前が助けたのは俺の姉でな、珍しくいろいろあって割とピンチだったらしいんだよ」


「いろいろあった?」


「なんでも、あの日は異様に魔物の数が多かったとか。別の方向から迫ってきたとかいってたな」


 ……それ、俺から逃げたミノたちじゃない?


 同じ階に俺が居たら、そういう被害も発生するのか。


「すまん。多分それも俺のせいなんだ」


「どういうことだ?」


「同じ階に居たら俺から逃げる魔物と遭遇する可能性が上がるから、もしかしたらその逃げた魔物が……」


「お前がわざと追い立てていない限りその理屈は成立しないんだ。ダンジョンの中はそういう世界だしな」


 トレインと呼ばれるわざと引き連れた魔物を他人に擦り付ける行為がある。今では割と問題になっているダンジョン犯罪の一つだ。


 いろいろ厳しくなっているし、もしやっていることが発覚したらダンジョン内で殺されてもおかしくない。 


「この高難易度ダンジョンの魔物が、神崎かんざき君から逃げる?」


「このダンジョンに限らず、俺が近くに居たら魔物は大体逃げると思う。というか、近くじゃなくても逃げるだろうけどさ」


 その階に足を踏み入れた瞬間、魔物は一斉に全力ダッシュだろうしな。


 いや、どんなに鈍感な魔物でも、流石にこんなに能力差があればわかるって。


「つまり、それだけ能力差があるって事だろう。高難易度ダンジョンの魔物が逃げるレベルか……」


 普通にレベルアップしても、このダンジョンにいる魔物が逃げる事なんてないしな。


 大体カラクリに気が付いてるだろう。


「お詫びに情報をひとつ。青と黄を共にレベル八まで上げると緑って色が増える。特殊な魔石を使うまでも無くね」


「っ!! いいのか? そんな貴重な情報を……」


虎宮とらみやがもう一色増えたら四色になるだろ? ああ、これで増やした場合のレベルリセットは任意で出来るぞ。それと、色を増やしてもレベルアップに必要経験値は増えない」


「ありがたい。これで俺も四色になれる」


 三色と四色だとホント全然違うからな。ステータスのサイコロの数が倍ってのは本当に凄まじい差が出る。


 レベルアップ時のステータスポイントが最大二十四から四十八に増えるんだからね。


「その情報。私にもありがたいわ」


「元がどの色かは運だしな。俺みたいな灰色とかね」


「お返しに俺からも。魔物からドロップする高純度の赤魔石ふたつと黄魔石ひとつを融合させると【緋】って魔石になる。魔宝石でも可能なんだが、精錬する人間の能力次第だな」


「……っ!! いいのか?」


 それが最後の色か!!


 緋。緋色か。


「ああ。ただし、この緋の魔石は使う条件が厳しいらしくて、過去に一度たりとも使っても色が増えたって報告はない。鑑定結果では間違いなく色を増やす魔石なんだがな……」


「サンキュー。機会があれば試してみるよ」


「今、何色なんだ?」


「緋でフルカラーさ」


「っ!! なるほどな。あの噂の方が本物だった訳だ。初めから怪しいと思っていたが」


 どういうことだ?


「俺が二色じゃないと思ったのは何時だ?」


「ステイタスカードを作った時さ。実はあのカードを作る時に光る色。アレで大体の色数は分かるんだ。灰色であれだけ光るのはおかしい」


「なるほど。俺もあの時おかしいとは思ったんだよな」


「それと、土曜に俺が試しただろ? あの攻撃、あんなに簡単に躱せる訳が無いんだ」


 ああ、あの裏拳か。


 あまりにスローだったけど、周りの奴らは驚いてたしな。


「流石にステータスはばらせないけど、大体予想通りだろうよ」


「想像以上なんだろうな。俺はこれ以上追求しない。もしパーティを組む機会があればよろしくな」


「ああ。その時はよろしく」


 それだけ言うと虎宮とらみやはファミレスを後にした。


 ちゃんと自分が食った分の金をテーブルに置いていくところが憎いよな。っていうか、少し多いぞ!!


「真面目よね、虎宮とらみや君」


「そうだね。さて、次は桜輝さくらぎさんの件だけど」


「パワーレベリングをするって話なんでしょ? このダンジョンだと私じゃ魔物を倒せないわよ」


「そうでもないよ。魔物が逃げていくから倒すのは難しいけど、俺が全力でバフをかけるから」


「それで何とかなるの?」


「俺が祝福と覚醒を掛ければ、最低でも全ステータスがプラス百されるしね」


「……なるほど。呆れるほどパワーレベリングね。それだけステータスが上がればどんな駆け出し冒険者でも何とかなるわ」


 更に攻撃前にファイナルアタックを掛ければ攻撃力が十倍だ。此処の魔物でも一発当てればレベル十位にはすぐ上がる筈。


 というか、魔物とのレベル差があるから一気に二十くらいまでは上がりそうだ。


 ただ、パーティを組んでもお互いに経験値が行き来する事は無い。今回のこれは桜輝さくらぎさんが再生の魔法を覚えるのを手伝うだけの話だしな。


「それじゃあ行こうか。多分すぐに帰れると思うけど」


「そうね。それじゃあ、あのダンジョンに潜る前にパーティを組みましょう」


「了解」


 パーティを組んだだけじゃお互いのステータスは分からないし、情報が洩れる事もない。


 もしそんな仕様だったら、気軽にパーティなんて組めないしな。


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