第二十八話 初配信。菅笠侍参上!!



 有名魔道家電量販店でダンジョン配信用のドローンを購入し、目線用に菅笠に着けるカメラも購入した。


 配信前にカメラの位置や映り具合を確認し、音声も変声機の声をマイクで拾う様に調整する。この辺りをミスると即身バレの危機だ。


 有名配信者の中には身バレ上等で素顔で配信してる人もいるけど、流石にあの精神は見習いたくない。


 炎上した時が面倒というか、超大変だしね。


「はい、という訳でやってきました。高難易度ダンジョン!! ライブ配信だけど、流石に見てる人なんていないですね~」


 菅笠被った侍のダンジョン探索配信。


 この辺りのタイトルのセンスも問われるところなんだろうけど、最初だし終わるまでに百人くらい見てくれればいいさ。


 今日攻略するのは初心者用ダンジョンじゃなくて、近場にあるダンジョンの中で一番高難易度のダンジョン。


 地下十階。オーガとかトロールといった系統の魔物がゴロゴロ出る、割と期待できそうなダンジョンだ。


 地下十階のボスはまだ攻略されてないって話だね。


「やっぱり高難易度ダンジョンでも浅い階は魔物が少ないですね。冒険者の姿はそこそこ見かけるんですけど、こんな場所だと稼げないんじゃないかな?」


 俺が視界に入るより早く全力で遠ざかるオーガ。


 鬼ごっこしてんじゃないぞ、こら!! 魔物が全速力で冒険者から逃げてんじゃな~い!!


 逆の立場だったら俺でも逃げるけどさ。


「暇なのでこのまま下の階に降りようと思います。地下五階あたりまで降りたらそこそこ戦闘が出来ると思いますし」


 確認してみたけど、視聴者はまだゼロ。


 というか、何も盛り上がる要素が無いのは流石に俺でも理解できるぜ。


 多分あの逃げるオーガを追いかけて倒しても、ほぼ反応なさそうだしな。


「魔物の虐待もよくないし、とっとと下の階に行くか」


 相変わらず接続者はゼロ。


 設定とか確認したけど、ちゃんと配信されてるはずなんだけどな。


◇◇◇


 地下五階に来てようやく戦闘が出来るようになった。


 どうやらこの辺りから魔物があまり逃げなくなってくるみたいだね。


 とはいえ、見せ場なんてホント無い。近付いてくる奴は刀で一閃するだけで終わるし、遠くから魔法撃って来る魔物も近付いて斬り殺すだけ。


 どの魔物も遅いというか、流石にここまでステータスの差があるとレッサーゴブリンとホントに何も変わらないんだよな。


 魔法は魔物が撃つ前に防いでるけど、あれまともに食らっても多分ダメージはいらないよな……。


 もう一階下りてみるか。


「はい。という訳で高難易度ダンジョン六階です。上の階から多少戦闘をしていますが、相変わらずですね」


 どの魔物も絹ごし豆腐でも斬ってんのかってくらい手応えが無い。


 ドロップは結構おいしいけど、この前の過疎ダンジョンの時よりは劣るんだよね。


 お、上半身を金属製っぽい鎧で武装したちょっと大きめのミノタウルスが出て来た。


 手にしている武器も多少は強そうな斧だ。


「見慣れた牛くんですね。硬そうな鎧を着てご機嫌そうです。同じウシ型の魔物ですと、レッドチャージブル辺りがいてくれたらいいんですが」


 レッドチャージブルは高級肉をドロップする超がつくほど人気の魔物だ。残念ながらこのダンジョンで見たという話は聞かない。


 さて、目の前にいる牛さんは強化種なので通常種に比べて装備が段違いだね、でも動きは相変わらず遅い。


 どれだけあげても覚醒しない限りステータスは二百五十六までしか上がらないから、その二十倍の数値がある俺から見たらどれだけ強かろうがホントに何も変わらないんだよね。


 防御力もほぼ筋力で決まる訳で、あの鎧が堅そうに見えても大して強くはならない。


「はい。多少は手ごたえがあるかと思いましたが、今回も一太刀でした~。ドロップは魔石と魔銀のインゴット。それにギガントミノタウルスの角です」


 そんな名前だったのか。


 いや、豆腐の名前が変わっても手ごたえが変わらないからアナライズすらしてないからな。


 魔物の特殊能力で毒や麻痺なんかを仕掛けてくる奴もいるけど、この程度の魔物の持つ毒なんかが今の俺に効く筈もない。


 ステータスの恩恵がデカすぎる……。


「雑魚いんだよな。群れで出てきても変わらないし……」


 さっき別の冒険者パーティと出会ったけど、強化型のサイクロプス一匹相手に派手な魔法とか使って戦ってたんだよね。


 あんな戦いが出来たら盛り上がるんだろうけどさ。今の俺の場合、一番弱いファイアバレットですら範囲魔法化してるんだよな……。近くに冒険者がいると迂闊に使えやしない。


 知力五千は伊達じゃないぜ。


「そこの冒険者さ~ん、ごめんなさい!! もし使えれば支援ヒールをお願いできますか?」


 ん? 向こうで戦闘しているパーティが支援ヒールを要求してきた。


 女性四人のパーティで、後ろに下がってる二人は結構きつそうだけど生命力がヤバいのか?


 普通は魔力が貴重だからダンジョン内で他の冒険者に支援要請とかあまりしない行為なんだけど、パーティで回復係の人の魔力が尽きかけてるのかな?


 ちなみに俺の場合は白スキルレベルを十まで上げてるから、もう二段階上の範囲回復魔法のエリア・ヒールでも消費魔力は二だ。


 ということで、誰にヒールをかけたらいいのか分からないからエリアヒールで支援っと。


「はいな。エリア・ヒール!!」


「ちょ……、って、なにこれ? エリア・ヒールで出る光の量じゃないよね?」


「まさか。生命力が全快した!! エリア・ヒールなのに」


 エリア・ヒールの威力は基本回復値二十と術者のレベル。それに追加で白スキルレベルと賢力分の生命力を回復させてくれる。しかもエリア・ヒールはその名の通りに範囲魔法で、結構な範囲を纏めて回復させてくれるんだよね~。この辺りもステータス次第なんだけど、結構範囲が広がったりもする。


 基本的に賢力分の回復があるから、俺が使うと最低でも五千は回復するんだよね。


 しかも消費魔力二で。


「それじゃあ、頑張ってくださいね~。あ、お礼とかは良いですので」


「これだけして貰っておいて、なにも無しとかは……」


「とりあえずこいつを倒すぞ!!」


「そうだった!! ん~、お礼はそのうちに、ね」


 まだ戦闘中だからね。油断は禁物だよ。


 能力値を一時的に上げるバフもかけてあげたいところだけど、スキルレベルと自分のレベル分なんで増えた数値で俺のレベルを割り出せるんだ。


 白スキルで一番威力の低い祝福でも全ステータスが最低四十は上がる。たったそれっぽっちと思うかもしれないけど、全能力が一時的に四十あがると生命力と魔力も百二十増えるのさ。


 普通の冒険者にとってみれば馬鹿みたいにステータスが伸びる事になる。


「という訳で七階まで降りてきました~。支援ヒールもしましたが、助け合いは大事ですよね」


 おっ、視聴者が十五人もいる。


 ここまで特に大きな戦闘も無かったのにありがたい事だ。


「ちょっと強いサイクロプスが名物な七階。ドロップする魔石が割と大き目なんで助かります」


 四体のサイクロプスが迫ってきたけど、周りに他の冒険者がいない事を確認してファイアバレットで一気に焼き尽くす。


 何をどうやってもこれで一撃なんだよな……。


 お、魔石以外にも色々落ちてる。


「サイクロプスの魔眼が手に入りました!! 滅多にドロップしないレアアイテムですね」


 なんでも高性能なドローンの材料になるらしく、これひとつで百万はくだらない。


 でもドロップ率が悪いから毎回オークションでトンデモナイあがり方してるんだよね。


 高性能ドローンは軍事用だしな……。


「それとサイクロプスの皮膚ですね。いや、今日は運がいいです」


 あれだけ運に振ってれば毎回こうなんだけどね。


 さてと、最下層を目指して頑張りますか。



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