第ニ十九話 高難易度ダンジョン最下層のボス



 最下層。ダンジョンの最下層には二種類ある。


 この前の過疎ダンジョンみたいに普通にダンジョンが形成されていて、その何処かにボス部屋があるパターン。流石に過疎ダンジョンみたいに浅いとボス部屋の周りに転移ポーターなんて無いけど、地下十階を超えるダンジョンだと地上へ戻る為のポーターが設置されている場合も多い。


 そしてもうひとつがここの様に最下層自体がボス部屋と化していて、だだっ広い部屋にボスが冒険者を待ち構えているパターン。この場合、上の九階層に順番待ちをする為の待機部屋というか準備部屋みたいな場所が用意されていて、そこには一階に直行する為の転移用ポーターが用意されていたりする。


 この辺りはホントに親切設計というか、安全に引き返せる選択肢を用意してくれているのはありがたいけど、ここまで下りてきた冒険者に引き返す事も出来るんだぞって誘惑するのも意外に意地が悪いっていう人も結構いる。


 確かに、倒せるだけの実力があればいいけど、そうじゃないケースもあるからね。


 それでこの最下層のボスだけど、どっちがたちが悪いかと言えば、圧倒的に今回のケースの方がボスが強いし凶悪だ。


 何せこのケースの場合、最下層全体がボスが最大に力を発揮できる空間と化してるんだから。


「天井が異常に高い。という事は飛行種だな。龍系か鳥系……」


 俺は飛べるから問題ないけど、普通は飛行型の魔物は強敵なんだよね。


 割と弱い分類に属するハーピィ辺りでも命を落とす冒険者が多いし、頭を抑えられる不利に気付く冒険者が少ないのも問題だ。攻撃が届きにくいってのも大きい。


 ほとんどのダンジョンの階層は天井低いし、そこまで飛行型の魔物が多い訳じゃないのも問題かな?


 このクラスのダンジョンでハーピィタイプってのは無いだろうね。最低でもグリフォンクラスか竜種が濃厚だ。


「で、今回のダンジョンの目玉。ラスボスさんは……、はい、予想通りのドラゴンさんですね~。多分古龍とまではいかない感じ?」


 竜種は何種類か格があって、通常種、強化種、古龍、神龍と格が上がるごとに馬鹿みたいに強さが変わる。


 今まで倒されている竜種で一番強いのは通常種のドラゴンで、強化種以上のドラゴンを倒した冒険者は存在しないって話だ。古龍種クラスのドラゴンを特殊な方法で封印したって話は聞いた事があるけどね。それは本当にレアケースらしい。


 竜種は総じて財宝を貯め込む習性があるらしく、ダンジョンもその習性に合わせて巣に宝物を生み出したりする。


 またその肉は絶品と言われ、ドラゴン肉のステーキは部位に関わらず、最低でもグラム十万円以上するという話だ。


 冒険者をしてると、一度は食べたいドラゴンステーキ。それが俺の目の前を飛んでたりするんだよな……。


「まだ遠くを飛んでこっちを窺っています。飛行型の魔物のいやらしい所ですが、飛べるというアドバンテージを最大限に利用するのは当然の事ですね」


 ドラゴンは優雅に空を飛び、まるで俺をあざ笑うかのようにゆっくりと向かって来る。


 ……いや、流石に舐めすぎだろ。


 十分近く空に浮かんでるのは凄いと思うけどさ、もしかしてこっちに攻撃手段が無いと思ってる?


 ドラゴンとの距離は二百メートルほど。


 普通は届かないんだけど、俺の場合は十分に射程範囲なんだよな。


「は~い。空に浮かんだままの間抜けな標的に石でも当ててみようかと思いま~す」


 黄スキルレベル二のロックバレット。


 知力で威力と射程距離なんかが増すので、ここからでも十分に届く。


 二百メートル近く離れてるから、流石にこれだけだと倒せない気がするけど。どうだろ?


「ロックバレット!!」


 音速を超えてドラゴンに向かってぶっ飛ぶ拳大の石。


 ドラゴンの首元に命中し、そのまま勢い余って木っ端みじんに吹き飛ばした。


 え? 仮にも竜種があの程度の防御力しかない訳?


 ダンジョンボスだよ? 拍子抜けするよね……。


【レベルが上がりました】


 え? あの馬鹿みいたいな経験値が入ったの?


 いや、違う。十階層以上あるダンジョン最下層で魔物レベル五十以上のダンジョンボスを倒すと残り経験値に関係なくレベルが上がるって現象だ。


 でなけりゃ、普通にレベル五十まで上がってる人なんていないだろうしね。


 ちなみに、魔物のレベルマックスは五十じゃなくて二百五十六らしい。


 噂だと神龍系が二百五十くらいだったかな?


「拍子抜けしましたが、これでダンジョンの攻略完了です。こんな格好なのに最後の戦闘があんな結末で申し訳ない。次回の配信でもう少しマシな戦闘が出来るように頑張ります」


 という訳で配信停止っと。


 今確認したら視聴者数一万超えてんじゃん!!


 え? 今回の配信って殆ど見せ場なかったよね?


 まともな戦闘なんて皆無だし、ラスボスのドラゴン戦はあんなだったしさ。


 お、ドラゴンのドロップというか魔石でかっ!! アレは確定だし問題は他の宝物だ。


 倒した場所に馬鹿でかい宝箱が出てるけど、色々期待しちまうよな。


 というかこの大きさ、箱っていうより倉庫だろ? 上開きじゃなくて前面に扉があるし……。


 宝物庫落とすダンジョンボスもいるのか……。向こうには別の宝物庫もあるし。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ドラゴン肉キター!! しかもサーロインとヒレの両方だぞ!! こっちには少し落ちるけど肩ロースもある……。そこそこ処理済の内臓肉も結構あるけど」


 ダンジョンで宝箱から入手できる肉の謎。魔物の死体を解体する時は自分で全部しないといけないのに、宝箱から手に入る時はそこそこ処理された状態で特殊な箱に収められてるんだよな。しかも、肉の状態とかは最高の状態だ!! すぐに食べられるようにある程度熟成までされてる。


 だけど宝箱からの入手は良い事だけじゃなくて、倒した個体に対して手に入る肉の量が極端に少なかったりする事も多い。


 内臓にしたって心臓とか肝臓の大きさもあの大きさのドラゴンに比べてかなり小さいのが入ってるし、腸の長さも何百分の一程度なんだろうか?


 お、ドラゴンの舌もある。これは食べるとなるとちょっと手間って話だね。


 意外に柔らかいらしいけど、焼いて食べるにはかなり薄切りにしないと駄目って聞いてる。


「こうして鑑定すると部位が分かるのがいいな。傷む前に特殊インベントリに収納しておこう」


 なぜわかるかだって? 鍛冶スキルレベルを五にすると、ある程度の鑑定能力が手に入るからだ。


 ただこの鑑定能力、出来た剣とか物を鑑定する事は出来るけど、人とかの能力とかを鑑定したりはできないんだよね。


 鍛冶系の鑑定能力だから仕方ないんだろう。でも、これでどこの肉か分かったのはデカい!!


 ドラゴンのサーロインステーキだぞ!! 最低でもグラム百万を超える超高級肉だ!!


 肩ロースが安いといってもグラム十万近い値が付くけどね。ドラゴン肉なんてどこも希少だし……。


 それもそれぞれ百キロは超えてる塊、あの巨体から採れたと計算したらこれでもかなり少ない方だと思うけど……。


 それと、宝箱の中には神白金のインゴットまであった。これ、最強クラスの剣を造れる材料の一つだよ?


 そのほかにも鱗や牙、尻尾は食材として扱うか悩むところだな……。ってこれは武器用? 宝箱から手に入る食材は基本的に箱入りだし。


「ここにある宝物の外に、向こうの宝物庫内で山積みになってる宝石類か……」


 映画とかで見た事がある宝物庫みたいな光景でそこには金貨や銀貨、それに宝石類が山の様に積み上げられている。


 いや、現実味が無い光景だよな。此処を攻略した冒険者は今まで誰もいないらしいし、何年分もたまってたんだろうね。


 それを独り占め。もう十分すぎる位稼いだ気がするぞ。


「特殊インベントリの収納能力が無限でなけりゃきつかったぜ。ダンジョンリングの方にも入れるけど、俺専用の特殊インベントリの方にも保管するしな」


 もうダンジョンに潜るのをやめてもいいくらいだけど、冒険者生活わずか三日っていうのもさみしいしね。


 最低でも学校を卒業するまでは冒険者を続けよう。




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