第二十話 過疎ダンジョンの新たなボス




 相変わらず魔物は逃げるし、向かってくる奴は一匹もいやしない。


 何とか後姿をスマホで撮れたが、アレはたぶん半人半豚のオークだな。魔物が全力で逃げていく姿ってのは割と滑稽だけどさ。


「悪い子はいねぇか? じゃないけど、相手が魔物だからって言って悪い存在って訳じゃないしな」


 元々ダンジョンは奴らの住処というか生まれ故郷だしね。


 魔素溜から湧いて出て来る魔物を生まれたというのは何か違う気もするけど。


「隠密を使って姿をスマホで撮った後で何匹か倒したけど、こいつらは割と普通のオークだな」


 さっきの部屋にいた死霊があまりにも強かったからこいつらも強化種か何かかと思ったんだけど、初心者ダンジョンの三階くらいで見かけるただのオークなんだよね。


 すっごい違和感というか、部屋にいるボス級の魔物と普通に歩いてる魔物の強さに差がありすぎるのさ。


 普通の冒険者がこの辺りの魔物を基準にして、こいつらと同じか少し強い位の魔物がいるだろうとか考えて部屋に突入したら死ぬぞ。


 というか、部屋の外を歩いてる魔物のレベル帯や強さも本当にばらばらだ。魔物同士で争った跡もあるし、変化したてで混沌とした状況なのかもしれない。


 後考えられるとしたら……。


「……もしかして、意図的にそんな配置になってるのか? 上の階のレッサーゴブリンも含めて」


 油断させて初心者冒険者を確実に減らすダンジョン。


 元々その傾向にあったけど、レッサーゴブリンが人気が無くて冒険者が去った後で今の形に進化した。


 本来はこの形が正しいとか?


「ダンジョン協会に調べて貰うしかないな。しかし、ここが過疎でよかった」


 ここがにぎわってたら死人が出るぞ。それも大量に。


 この状態にいつからなってたのかは知らないけど、十年くらい過疎ってるらしいしな……。


「とりあえずボスを倒して報告。もしかしたら高レベルの冒険者が狩り場にするかもしれないぞ」


 ノーマルオークはそこまで経験値が美味しくないし、数少ない部屋のリポップ率次第?


 たまに強化型のリザードマンもいるし、向こうには狼系の魔物もいた。


 最初に入った部屋は当然のように空だったし、復活するまでどの位かかるか次第だな。


 一時間くらいで復活してくれたらいいんだけど、それ以上かかると旨味は無い。


 魔物の強さがバラバラなのが結構問題なんだよね~。


「ここがボス部屋。元はゴブリンがいた筈だけど、今はたぶん別の魔物がいるだろうね」


 これでゴブリンが居たら一番威力強い魔法で消し炭にしてやる。


 さぞかし派手なエフェクトが現実で観れるだろう。


「それじゃあ行ってみようか。この後は~焼肉だぁぁぁぁぁぁっ!! って、よりにもよってコイツらかよ!!」


 部屋にいたのは牛さんたちでした~。


 頭が牛で体が人間というか多分オーガか何かの鬼。黒光りする馬鹿でかい斧を持ったミノタウルス系のボスだ!! 鎧を着ていないしサイズもそこまで大きくないから高難易度ダンジョン名物のギガントミノタウルスって訳じゃなさそうだね。


 取り巻きはごつそうな鎧を着たオークジェネラル、他のオーク系取り巻きは無し。


 そして極めつけは割とレアで見かけない植物系魔物ベジタブルプラント。動くキャベツと考えたらいいかもしれない……。


「えっと、塩ダレでもかけて焼けばいいのかな? 焼肉の先取は無しだよ」


 こいつらもそれなりに強いんだろうけど、動きはコマ送りだし本気で隙だらけだ。


 というか、既にステータスに差がありすぎてこのクラスの魔物だと戦闘にすらなりゃしねぇ。


「いちおうスマホのカメラで撮って、それから焼くとしますかね。その前に炎無効の魔法でバックファイヤー対策だ」


 これをしないと自爆しかねないしな。


 素の状態でも魔法防御が馬鹿みたいに高いから、魔法の余波程度だとダメージなんて受けないけどさ。


「という訳で行ってみましょう、炎系最強魔法メキド!!」


 本来半径百メートルを超高熱の爆焔で包み込む火炎魔法メキド。


 地獄の釜か終焉の炎か……。目が眩むような超高温の炎が狭いボス部屋の中を綺麗に嘗め回す。俺は炎無効だからダメージゼロだけど、正直あまりいい気分じゃない。


 メキドが収まった後、そこにはミノタウルスたちの魔石とデカい宝石箱が一つ残っているだけだった。流石にボス部屋とはいえ、その半分以下の広さしかない部屋でこんな範囲魔法を使えばそりゃこうなるよな……。


「他の範囲系魔法使う時も気を付けないと。ついうっかりで周りにいた冒険者を巻き込みそうだ……」


 習得に必要な知力が確か百二十だったか。


 流石に馬鹿にこんな魔法は覚えさせてもらえない。といっても、知力が上がっても賢くなるわけじゃないけどな。そっちは賢力の方だし。


【レベルが上がりました】


 ま、当然レベルも上がるよな。


 とりあえず、ポイントの確認はあとだ。


「あの三匹の魔石もデカいな。後は宝箱の方だけど」


 宝箱もデカいんだよ。俺が余裕で入れそうな大きさだ。


 こんなに大きいのは三匹分だから? それとも、ダンジョンボスの宝箱だからなのか?


 開ける前からな~んか期待させてくれるよね。


「頼むから変なパンとかプロマイドは出て来るなよ……。出来ればそろそろ武器が欲しい」


 ミノの斧とか出ても処遇に困るけどな。 


 人間サイズにされても使いこなせる気がしない。


「宝箱オープン!! 赤い……魔石? まさか、例の赤色魔石か?」


 もしマジだったら数億の値が付く。


 成功するかどうかは運だし赤なんて増やす奴が居るか分からないけど。


 って、マジでお宝が出て来た!! 


 他にもいろいろある。装飾品系は後で普通の換金アイテムかどうか調べるとして、後は……。


 なにかデカい箱があるぞ。


「えっと、高級バーベキューセット。最高の焼き具合を保証?」


 出ましたよ焼肉セット、って、これだけ貰っても意味ね~。なに? ダンジョンの中でバーベキューでもしろってか?


 肉は? 野菜は? 下拵えも後片付けも大変だし、バーベキューはひとりでやるもんじゃねぇんだよ!!


 ダンジョン内部で料理をすると料理スキルが増えるらしい、そのうちこれを使う機会もあるかもしれないけどね。


 ……一人焼肉はギリギリセーフだ、うん。この後行く予定だし。


「さっきからなんなんだろうな? この不思議なアイテムシリーズ」


 たまにゴミアイテムとか出て来るらしいし、ハズレの中の当たり枠?


 こんなネタドロップするのも、そのうち笑い話になるか。


 とりあえず特殊インベントリに収納だ。


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