第十六話 脅威の過疎ダンジョン二日目
放課後。今日は昼までだったから軽く飯を食って、必要な物をスーパーで買って昨日と同じ低レベル過疎ダンジョンに来ていた。
バナナとかは昨日の晩飯と一緒に買ってるけど、特売だったからも幾つか追加で買ってあるぞ。
流石にソロでもここだとレベルは上がらないけど、せっかくなんで三階にいるボスゴブリンでも倒してこようかなと思ったのさ。
それと、いくつか確認したい事もあるしな。
「人目を避ける為もあるけど、いろいろ試すにはここが最高だ」
試したいと思っているのは広範囲に影響する魔法を幾つかと、今のステータスでどんな動きが出来るのかって事だな。
ダンジョンの外だと流石に全力で動けないし、少しでも本気で動くとバレそうだった。
今日は午前中の授業だけだったけど、
だから俺が今日ここに来た事は理解できないだろうな。
「さてと。まずはこいつの換金からだ」
と言っても、持っているのはレッサーゴブリンの魔石四十ほど。レベルアップ時にまだ消えてなかった魔石を少しは回収したから何とかその位の数になった。
後はダンジョンヨモギ千本くらいだ。こっちは半分くらい納品すればいいだろう。
昨日と同じ超過疎ダンジョンの一階にいくと受付には昨日と同じバイトの
ちょっと、このひと昨日より驚いてるんだけど……。
「今日も来たんだけど、その顔は何かな?」
「……足はついてますよね? あ、グール化もしてません?」
「ちゃんと生きてるよ!! 昨日なかなか戻ってこないから死んだとか思ってやがったな!!」
「このダンジョンに三十分以上いる我慢強い人なんていませんし!! 大昔の話だとこの過疎ダンジョンで死んだ人も極稀にいるって聞いていましたので……」
さりげなく札っぽいアイテムを取り出してるんじゃない。
……俺よりステータスのかなり劣る奴がソロであの群れに囲まれたらやばいかもな。
というか、ほとんどの奴は三十分くらいで見切り付けるのかよ。
「ちょっといろいろあってね。数は少ないけど、レッサーゴブリンの魔石が四十個ほどあるよ」
「あ~、あれ拾ってくる人がいたんですね。それだけあれば納品されたら二百ダンカになります」
「安っ!! レッサーゴブリンの魔石ってそんなに安いの!!」
「ここ以外でレッサーゴブリンが出てくるダンジョンは珍しいんですが、こんなに魔力の少ない魔石は正直利用価値がほとんど無いらしくて……。良くて建材行きですね」
魔石って存在はダンジョン内に満ちてる魔素って力の結晶らしくて、特定の条件下で魔素が溜まるとその場所に合った魔物が生み出されるという話だ。
生み出された魔物の核として魔石が存在するんだけど、当然レッサーゴブリンなんかが生まれるのに必要な魔素はほとんど必要ないらしい。
もっと上位の魔物の魔石の場合は当然内包している魔素も膨大なんで価値があるし、極稀にその魔物が持つ力を秘めた物もあるそうだ。
ただ、レッサーゴブリンをはじめとする下位の雑魚魔物の魔石は当然魔物の力なんて秘めていないし、そもそも魔物の力に価値が無いのでもし仮に宿っていたとしても当然その魔石にも殆ど価値が無い。
「ひとつ五円って……」
「これを聞いて売りに来る冒険者なんてほとんどいませんからね。タダ働きよりはマシっスよ」
口調が昨日と同じ感じに戻ったな。
さっきまではギリギリ丁寧な対応だったのに……。まあいけどさ。
「ダンジョンヨモギもあるんだけどこっちは?」
とりあえずダンジョンヨモギの小さい束を五つ。五十本出してみた。
一本ずつ丁寧に調べてるんだけど、そこまでするか?
「いいダンジョンヨモギですね。このダンジョンには冒険者が来ないからいい感じに育ってるっス」
「他のダンジョン産よりいいの?」
「いいですね。品質は全部特級で間違いないっス」
なるほど他のダンジョンだったら生えた後で割と冒険者が採取するから育ち切るまで放置なんてされないのか。
問題は買取価格なんだけど。
「それでも一本百ダンカなんですけどね」
「流石に特級だといい値になるんだね、五十本で五千ダンカか~。それだけあったらなんとかショートソードが買えるな」
「あれ? 昨日買ったショートソードはどうしたんっスか?」
「岩とか木に切っ先が当たってね。まだ使えなくはないんだろうけど」
割と刃こぼれしたショートソードを取り出して受付の台の上に置いてみた。
バイト君は興味深そうにそのショートソードを調べてたりする。
ん? 何かあるのか?
「凄いっスね。百匹以上レッサーゴブリンを斬ったのは間違い無いっス」
「分かるの?」
「細かい傷で大体は分かるっスよ。このダンジョンにこんなにレッサーゴブリンがいたんっスね」
「一ヶ所にあつまってたみたいでね。おかげでずいぶん経験値は稼げたよ」
ただ、普通はレベル二になった冒険者はこのダンジョンには来ない。
レベル二になると、初心者ダンジョン方が遥かに経験値効率がいいからだ。普通の冒険者はレベル一から初心者用ダンジョンに行く事はこの際置いておく。
「ああ、特殊カラー持ちさんでしたか。お疲れ様っス」
「察してくれて助かる。だからソロなのさ」
白黒混ざりの二色でもそこそこ需要があるんだけど、周りと経験値テーブルが違うと避けられたりすることはある。
そういった事情の冒険者はとりあえずレベル二までソロ活動するから、俺がまだレベル二になる経験値を稼いでいないと誤解した訳だ。
百匹以上倒してるけど、レッサーゴブリンの魔石が四十個しかなかったのが原因だろう。
「剣の状態と魔石から言えばレベルアップまで後二十匹程度っスか? ついでに稼げたらよかったんっスけどね」
「割と遅くまで頑張ったからね。……ここ、昨日閉まってたけど何時まで開いてるの?」
「あ~、僕はバイトなんで基本五時までですね」
はやっ!! 閉店速すぎだろ!!
いくら過疎とはいえ、そんな時間に閉めていいのか?
「怪我した時とかどうするんですか?」
「ダンジョン探索者は自己責任っス。だからここはこんな状態なんっスけどね」
「実入りが少ないからな……。俺もたぶん今日でこのダンジョンは卒業だし」
「……また誰も来ない日々が始まるんっスね。楽でいいんスけど」
誰も来なくても時給は同じだろうし、暇が苦痛じゃないんだったらいい職場なんだろうな。
二十四時間何人も職員が待機している人気のダンジョンとは違うって訳だ。
「せめて三階がもう少しマシだったら人気が出るんだろうけどね」
「三階に出るのもレッサーゴブリンだけっスからね。ただ、最後に三階に下りた人が十年以上前っスから、もしかしたら変わってるかもしれないっス」
「もし何かあったら教えるよ」
と言っても、五時までに戻って来なかったら誰もいなくなるんだろうけどね。
とりあえず予備も含めてショートソードを二本買って、ダンジョンへ潜る事にした。
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