第十五話 本当の実力は黙っておかなきゃな
何とかセットした時間の三十分後には起きる事が出来た。
残念ながら愛用していた昔ながらの小型卓上デジタル時計は無残な姿で床に転がっている。金が入ったら買い替えるしかないな。
「いったい誰がこんなひどい事を……!! って俺だよな。無意識の時に素手で軽く叩いただけでこんな状態になるのか。今度から気を付けないといけないぜ」
二色持ちが平均八を出した状態でレベル四十八で今の俺とほぼ同じステータスになる。
サイコロ二つを振って八はそこまで高くないけど、その位のレベルの人は今の俺と同じ様な状態なのか……。
「今から急いでシャワーを浴びたら何とか間に合う時間だ。制服は予備があるからそっちに着替えよう」
流石に昨日着ていた制服は洗濯場行きだな。
洗濯物は有料だけどここの管理人さんにお任せコースもある。この洗濯袋一つ出すのに一回二千円かかるけどさ。
今は洗濯の時間が惜しいし、稼げる様になったらお願いしよう。
◇◇◇
いつも通り余裕の時間に教室に着いた。
今日は四月八日で土曜日。昼までの授業しかないから昼から存分にダンジョンに籠れるな。
とりあえず昨日手に入れた魔石類を買い取りに出して、それでショートソードを何本か買っておくか。
昨日のサイトの情報で、『出来る冒険者はいざって時用のサブウエポンは忘れない』とか書かれてたしね。
「おおっ!!
「でっかいお世話だ。なんで冒険者を辞めなきゃいけないんだよ!!」
パーティを組んだ場合ゴブリンだとそこまで経験値は入らないけど効率が段違いだ。一回の戦闘で数倍の差があるしね。
一番デカいのは全員がレベル二を超えた後の安定感だ。
白持ちが複数いればヒールでの回復速度が上がるし、当然火力の面でも何発も攻撃魔法が使えるのは大きい。
ソロだと普通は魔力が足りなくなって数発で終わりだからね。
「お前を昨日初心者用ダンジョンで見かけなかったからな。と、いうことは、昨日はバイトとかして金策か?」
初日から潜らずに日雇いのバイトなんかで資金を稼いで、少しでも装備を整えてからダンジョンに挑む奴も多い。
マトモに買ったらショートソードでも結構するしな。あの丈夫だけが取り柄の十年以上前のショートソードは大当たりな武器だったけどさ。
「ちゃんとダンジョンにはいったさ。そのうち初心者用のダンジョンで会いそうだ」
「初心者用って言われてるけど、学院卒業まであのダンジョンでレベル上げしてる人も多いんだぞ」
「最深部に行けばそれなりに強いって話だよな? たまに
人為的に引き起こせるからこの現象を利用する馬鹿もいるらしい。
自身の欲の為や他人を陥れる方向でね……。
「今年はまだ聞かないが、毎年新人冒険者を狙った
「聞いたことあるな。あの初心者用ダンジョンはうちの学校が管理してるから大丈夫なんじゃないのか?」
「上級生に紛れ込んでダンジョン内に侵入するのさ。いや、上級生の中にテロリストの一味がいる可能性もある」
「ダンジョン犯罪者か。トレイン行為とか色々やらかしてくれるそうだけど……」
入学時に弾かれるって聞いてるけど、その後でテロリストに加わると分からないって話だしな。
なかには面白半分で
捕まるとか思ってなくて、それをライブで流す大馬鹿もいるそうだ。おわってんな。
流石にその時は高確率で報復が来る。
「模倣犯や愉快犯もいるし、テロ目的だけじゃないんだろうけどな」
「やっている事がダンジョン犯罪やテロだったら裁かれるべきなんだ。毎年何百人もその犯罪やテロの犠牲になってるんだぞ!!」
「レベル一桁の時に深層の魔物が出てくりゃ、そりゃ逃げる事すら不可能だよな」
魔物にも冒険者と同じ様なステータスがあるらしくて、速力に倍近い差があるともう絶対に逃げられない。
魔法を使って来る魔物もいるし、出会った時点でほぼ詰みなんだよな。
今の俺でも勝てない魔物は多いし。
「この深淵学院でも毎年何人も犠牲者が出ている。
「六階とか八階にもあるらしいぞ。そこを狩場にしてる冒険者にとっちゃ大問題なんだろうけど……」
「
「あの三単はやらかしただけだ。生きてたのが不思議なくらいだが」
レべル一で初心者ダンジョンの三階とか自殺行為だしな。
確かに三階にもゴブリンもいるけど、大体群れで行動してるからレベル一だと苦戦するとかって状況じゃないし。
俺の行ってた過疎ダンジョンみたいにゴブリンが三階のダンジョンボスだけってパターンだったら三階まで行けそうだけどな。
「運よく助かった割に、あいつら運のステータスは低かったよな?」
「たまたまだろ。運が低くても上手く行く事はある。その逆はあまりないが……」
「最近だと灰色引く位か?」
「まあ、そうだな」
言ってろよお前ら!!
七色の灰色を引けたのはデカい。こいつらは本当の事を知らないから二色だと思ってるんだろうけどね。
俺も話す気は無いし。
だってばらしたらこいつら手のひら返しで俺を仲間に誘うだろ? 利用できるだけ利用しようとしてさ。
最初から一緒に頑張ろうってやってくれてたら俺の力を全力で役に立てたけど、強くなった後ですり寄って来る奴らが一番腹立つしね。
「灰色もそう悪くはないさ。見てろよ、あと数レベルもあげれば便利キャラだ」
「……一日で、二百稼いだのか?」
「例のダンジョンでレッサーゴブリンの群れに追いかけられてね。滅多にない体験だと思うぞ」
「ああ、そりゃ運が良かったな。お前は運がいいからほとんどすべての攻撃がクリティカルだろう」
それであいつらが幾ら弱いといってもあんなに簡単に倒せてたのか。納得納得。
群れに遭遇した件は運がいいというか、悪いとも言えなくはないんだよな。下手したら死んでる可能性もゼロじゃないし。
とはいえ、普通に考えたらレッサーゴブリンの群れなんて経験値の塊にしか過ぎないからな。
はっきり言えば、よっぽど油断しない限り数十匹程度は簡単に狩れる。
昨日のアレは安全策を取っただけだし。
「お前はレベル一の状態だと俺達の中でもステが高い方だろうしな。レッサーゴブリンの群れ程度なんでもないか」
「割と苦労したけどな。で、次は三百だぜ」
「五割割りマシだからそうなるよな。今はまだいいけど、レベル十五辺りで詰みそうだぜ」
は~い。こいつ、俺が目を逸らしてた問題をあっさりといいやがりましたよ!!
赤単とかの元々経験値が十程度の奴でさえ、レベル十五から十六に上がる為に必要な経験値は二千九百十九!!
五割増しで増え続ければ、そりゃそうなるよな。
で、俺の場合はというと同じレベル十五から十六に上がる為に必要な経験値は五万八千三百八十五!!
ほぼ六万ですよ奥さん!! と言っても俺の場合はそこまで上がると流石にステはカンストしてるだろうし、スキルもほぼ揃ってる気がするけど。
ステータスボーナスはレベル六以降は運だけど、スキルの方は確実に百二十八貰える。
レベル十で千二百八十だぞ。普通の冒険者がカンストの五十まで上げてても手に入らない数値だ。
元の経験値が百の四色持ちがレベル四十一に必要な経験値が七億三千七百十五万五千四百八十八だけど、そこまで上げるのも無理ゲーだとか言われてるしな。
「そのレベルだと初心者用ダンジョンだと効率悪そうだな」
「この辺りでそのクラスになると高難易度ダンジョンの深層辺りか? ギガントミノタウルスやオーガロード辺りがゴロゴロ出て来るらしいし」
「あ~。確かにあそこだと何とか稼げそうだな。三色持ちもレベル三十あたりで利用してるらしいし」
初期必要経験値六十の三色持ちがレベル二十から二十一に上がる為に必要な経験値が十三万三千十だしな。
というか、本気で狂ってるよなこの経験値システム。必要経験値が毎回五割増しとか正気の沙汰じゃない。
必要経験値が下がるスキルとかアイテムとか色々あるらしいし、それが無いと無理ゲーとか言われてるけどさ。
「お前は俺達の中で一番早く経験値の沼にハマりそうだが、そこまでソロでやるつもりか?」
「上がりにくくなったら誰かと組むのはありかもしれないさ」
ありえないけどな。
この時点でもステータス差がありすぎる。っと、急に
というか、こいつは口が悪いがこんな真似をする奴じゃなかったのに何でだ?
「……
「いきなりなにすんだよ!! 悪ふざけもたいがいにしろよ」
「おい、あれノールックで躱したよな?」
「あのパンチが悪ふざけ? 本気だったんじゃないか?」
え? あのコマ送りの裏拳が?
軽いツッコミ程度だと思ってたけど……。
「いや。悪かった。レベル二になったんだよな?」
「ああ」
「白黒バランスか。悪くないが、その先は白を優先させた方がいい」
ヒールが使えるのと使えないので差がデカいからな。
今の攻撃は俺が黒スキル一の鷹の目を覚えてるかどうかの確認かよ!!
鷹の目はパッシブでスキルを発動してなくても常時動体視力が強化されるからな。
「サンキュ。参考にするよ」
「白が高いとパーティに呼ばれる可能性は高い。高レベルになればなおさらだ。ソロはやめとけ」
「クラススキルにも振らないといけないし、そこは難しよな」
「ホントホント。もうちょっとポイントがあれば……」
三色持ちでもレベルアップごとにもらえるスキルポイントは八だからな。
まともに考えれば、一レベル上げるのに十もポイントを使うクラスや魔術なんかの習得スキルにポイントを振るのは難しい。
三色でもレベル十五時点で貰えるスキルポイントは合計で百十二しかないんだ!!
で、単色をレベル十まで上げるのに必要なポイントは七十八。残りは三十四ポイントしかないときた。
レベル十五以上に上がるには経験値が馬鹿みたいに必要になってるし、三色持ちだと他の色にも振りたいだろうしな。
冒険者やってると、悩みは尽きないぜ。
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