第11話お嬢様はアホな男の首をスポンと抜く
「私の顔を見るなり、逃げだそうとするとは、何事ですか? シュレン君?」
「い、いや、切腹は無理です。いくらんでもそれは酷すぎるって言うか……ッ?」
「ええ、私も無理に勧めるつもりはありませんが、公爵家の嫡男ともあろう方が……二言なんてありませんよね? ある筈がありません。ええ、さっき、おっさんに対して舐めた口を叩いていたこと忘れられましたか? あぁ?」
お嬢様の最後の語尾がヤンキーぽくて、おっさん怖い。
男は俺に殴り飛ばされてボロボロだったが、決闘魔法結界の効果で今は元通りだ。
「さあ、今すぐに腹を掻っ捌きなさい、掻っ捌くわよね? 掻っ捌きたいわよね? 掻っ捌かない選択肢はないわよね? さあ、掻っ捌きなさい! 掻っ捌け!」
見ると、男は腰の短刀を手に持って目が泳いでいる。
まあ、告白に失敗すると切腹とかはあんまりだと思う。
俺は助け舟を出すことにした。
「お嬢様、あっしのことを気にかけて頂いてありがとうございやす。しかし、この男の年齢で、腹を掻っ捌く勇気を持てと言うのも無理にごぜえやす。どうかご慈悲を」
「おっさん、こういうことは最初が肝心なのよ。ここできっちりシメテおかないと、また似たようヤツが現れるわよ」
「……し、しかし」
告白に失敗すると切腹というシステムはきっと貴族特有の習慣だと思うが、平民の俺には理解できねえ。
俺が困った顔をすると、お嬢様はこう切り出した。
「……おっさんは優しいわね。いいわ、魔法結界の中で切腹してもらうことで手を打ちましょう」
そう言うと、再び魔法結界が発動した。
「その親の仇を見るような目は私に対する嫌がらせですか……ぁあ?」
「ひぃ! す、す、す、す、すい……ません」
いや、親の仇を見る目ではなく、慈悲を期待した目だと思うぞ。
シュレンとか言う男は真新しい畳の上で白無地の小袖と浅黄色の裃を左前に身につけて、切腹に挑んでいた。
左前に小袖着るの、死んだ人のと同じあれな。
彼の前には三方がおかれ、短刀の柄には和紙が巻かれていた。
「……ア、アリスさまー」
男は情けない声を上げていた。
無理もない。
いくら決闘用の結界の中で、生き返るからと言っても、自分で自分の腹掻っ捌ける度胸のある男など、そうはいまい。
そもそも、切腹するほどのことしたわけじゃないし。
むしろ嬉々として長い剣を天に向けて掲げている、介錯人を名乗り出たお嬢様の方が怖ぇ。
「さて、わざわざ介錯人をかって出たのにこんなに待たせるのだなんて、酷いではありませんこと、シュレン公爵令息? いい加減、思い切って行け! あぁ?」
「そ、そんなご無体なぁ!」
「私に婚約を申し出た以上、これ位のことはして頂きますわ。……何より」
何よりなんだ?
「本物の腹切りが見たいではないですか? 見たいですよね? 他人のなら、ほんと、愉快に見てられますよね? シュレン君もそうは思いませんこと? さあ、思いなさい!」
「ひぃいいいい」
お嬢様は嬉々としてシュレンと言う貴族の息子を虐めていた。
ちょっと、可哀想になって来た。
「さっさとしないとどうなるか、幼馴染だとか言う、あなたならわかりますよね?」
「へぇっ?」
思わずとぼけた声が出てしまった。
幼馴染の男の子に言い寄られて、フった上、切腹を申しつけるとか……お嬢様……鬼。
「わ、わかり……ました。やらないと……き、きっと、こ、ここ、殺され……るッ!」
「わかれば良い」
そう言うと、再び剣を天に掲げるお嬢様。
「や、やっぱり無理レ——-ス!!」
そう言って、逃げ出そうとする男。
だが、ガシっとあっさり手を捕まえらて、逃げられない。
これはどうなるのだろうか?
殺されるとか言ってたな?
そう言えば、結界の中だし。
「あなたみたいなのは、いつも通り、頭を捻り抜きます、そりゃ」
そう気軽に言うと、男の体をひょいっと持ちあげて……頭をグイっと掴むと、無理やり一回、二回と捻った。二回目の途中でグキッていう変な音が聞こえたから、多分、頸椎をへし折られたのだろう。
それからさらにネジネジとおかしい回転で頭を回して首の皮で繋がっているだけになって、胴体からテロンと首がぶら下がっている状態になると。
今度は頭の頂点を鷲掴み、軽く引っ張る。
スポン!
軽快なワインのボトルのコルクが抜けた時みたいな音がして、首が取れた。
そしてやおら大きく振りかぶると。
「死にさらせぇ!!!」
と、お嬢様は地面に投げつけた。
「ええッ!?」
俺はお嬢様の行いにも驚いたけど……いつも通りって、こいつ、何度も首を捻り取られてんの?
……いや、だったらさっさと切腹すればいいのに。
切腹の方が楽だろ?
こいつ、頭おかしいと確信した。
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