第12話おっさんに舐めた口を吐いた男の受難

おっさんに舐めた口を吐いた男Side


俺の名はシュレン。


この国の七賢人が一人にして、この国最強の魔術師。


俺に勝てる者と言えば、目の前のアリス王女殿下位だ。


アリス王女とは幼年学校で2回も同じ学級になった。


これはもう運命としか言えない。


俺たちは幼馴染なのだ。


そう、俺が決めた。


故に、戦乙女、殺戮という名に愛された天使とかいう字名を頂く王女殿下にも、物おじひとつしないで求婚できる唯一の男……それが俺、シュレン・ジュタークだ。


そんな俺の婚約者同然の王女、アリス。


彼女が新しい従者を伴って、腕を組んで歩いていると言う噂を聞きつけた。


秒で、王女殿下の匂いを嗅ぎ分けて、その場所に行くと。


『これが王女殿下の従者なのか?』


俺は目を疑った。


どこからどう見てもおっさんだぞ?


さぞかし見目よい若い男か、勇猛な猛者かと思えば、ただのおっさんだ。


しかも、腕を組むどころか、王女自ら胸を押し付けている。


「……りえない!」


もう一度言おう。


「あ・り・え・な・い・!」


俺にさえなびかない王女がこんなおっさんと。


しかも、おっさんの顔には身に覚えがあった。


七賢人の職務柄、王都の冒険者ギルドに出入りすることがあるが、このおっさんは俺も注目していた新星の冒険者パーティ、銀の鱗の一員……だった盗賊。


先日、ついに窃盗をして追放されたと聞いた。


しかし、俺はそれで腑に落ちた。


これはおそらく王家の弱みを握ったおっさんの悪行に違いないと。


「なんでおっさん如きが……それに、お前、冒険者ギルドの盗賊か……?」


気がつくと、俺はおっさんに声をかけていた。


そして、核心をついて行く。


「おい! お前! ひょっとしてこの間、冒険者パーティ銀の鱗を追放された盗賊じゃないか?」


「ええ。俺は冒険者パーティ銀の鱗のを追放されやした」


……やはりか。


俺は自分の明晰な頭脳による推理が見事一致していることに満足した。


まあ、少し痛い目にあえばひくだろう。


楽勝だな。


俺はおっさんを挑発することにした。


ついでに俺の凄まじさを王女に見せつけて改めて惚れ直してもらおう。


そして、俺の伝説が始まるのだ。


七賢人シュレンの伝説がな。


「ぎゃははは! やっぱりな! その情けない顔! 確か昨日ギルドで聞いたぜ! それにな、俺はな、弱いヤツは死ぬほど嫌いなんだ!」


「あら、おっさんが弱いって思うの? じゃ、決闘で勝ってごらんなさい。このゴミ虫がぁ!」


俺は狼狽えた。


まさか、そこまでの弱みを握られているのか?


いくら俺でも戦乙女の殿下と殺りあったら、コンマ1秒も持たねえ。


「そこまで言うなら、決闘でカタをつけましょう」


「お、俺はただ、無相応な者にしつけを! それにアリス様と決闘なんかしたら、頭を掴んで、ギリギリ捻り切って、頭を床に投げつける位のことをするでしょう?」


俺はギリギリの交渉をする。


一体、どんな弱みを握られたんだ?


「おっさんに勝ったら、あなたと婚約してあげてもいいわ、でも、もし負けたら切腹しなさい」


「え? それはつまり……俺との婚約を承諾? ようやく俺の良さがわかってくれた?」


すると、王女は熱い視線をこの俺に向けると。


「──このおっさんをボコボコにできたら、ね」


「ッ!!」


俺は歓喜した。


つまり、そういうことか!


全ては殿下の自作自演。


俺がこのさえないおっさんをボコボコにして、正式に婚約を陛下に認めてもらう。


殿下は思慮深く、そうお考えになられたのだ。


『俺も罪な男だ』


一国の王女にこんな茶番を演じさせるとはな。


「盗賊風情がなぜアリス様にかかわったのかは知らんが、アリス様にいいよるなどと、本気でやっていること自体が不愉快だ! 貴族である俺がわからせてやる!!」


俺は速攻で、この道化師を消し炭にすべく魔法戦を試みた。


おっさんは逃げることもできないまま炎にまみれる。


『!? な、なんで無傷なんだよ!』


ありえないだろ?


俺の炎の魔法を喰らって無傷だなんて?


こいつ、不感症か?


とはいえ、今更後には引けない。


この男をボコボコにすれば、俺と王女はめでたく相思相愛の婚約者同士になれる。


きっと、王女が魔道具か何かで、一時的におっさんの力を上げたのだ。


はっ!?


俺は気がついた。


簡単に瞬殺してしまったら、ドラマティックじゃない。


つまり、そう言うことか。


適度に強い男を倒して、力づくで自分をものにしろと。


殿下はそう言っているのに違いない!


俺は得心がいくと、場違いな最上位呪文を唱えた。


「求めるは、煉獄。荒れ狂う炎の精霊は、その胸を掻かきむしり、その瞳を赤く染める。膨れあがれ炎よ! 加速する炎よ、燃え尽きた灰は、天より注ぐ!?」


……嘘だろ?


なんでなんともないんだ?


せめて防御の魔法位唱えるものだろ?


ていうか、唱えろよ!


めちゃくちゃだ。


ありえない。


ありえないだろ。盗賊風情の雑魚がなんで炎の最上級呪文を喰らって、なんか気のせいかな? って、顔してんだ?


いや、まだだ。まだ俺はやれる。


こんなところで諦めたら、とんだ道化師だ。


禁呪である、第一位階の魔法を披露するしかない。


殿下はそこまでドラマティクに俺のものにされたいんだ。


……だよな?


「ふっ……ここまでの魔法を見せる気はなかったんだが、もういい。本当は軽い火傷をさせる程度で許してやる予定だったが……お前には惨めに大火傷をおってもらうことにしよう――《煉獄斬-撃-》!」


これで終わりだ。


これを喰らって平気なのは、ドラゴンか……殿下位だ。


「何だこれ? こんなんでどうするつもりだ?」


嘘だろ? どうして? どうして素受けするの?


どうしてただのおっさんが第一位階の魔法の最終奥義の発動をちょっと火の粉がかかっちゃったみたいなノリで、振り払うの?


俺、10年修行したんだぞ?


それをめんどくさいからって、藪蚊を払うみたいに払うの?


俺は頭がクラクラしてきた。


はっきり言って、訳がわからない。


「あ……ありえない! 俺の《煉獄斬-撃-》 を手でかき消すのだなんて!! お、お前、伝説の第一位階の炎の魔法すら無効にする魔道具を付けているのか? それ以外に考えられない!?」


それ以外に考えられない。


こんなのインチキだ!


ドコーン!


衝撃が訪れ、気がつくと、俺は天に向かって飛んでいた。


そして、気がつくと、俺は切腹することになっていた。←今ここ

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