第10話おっさんは殴るだけ

「後にしてくれ―――」


お嬢様のパンツを堪能したいからと言う言葉はギリギリ飲み込んだ。


男が呆けているところを確認した俺は殴りに行った。


ドゴォォォォォォォン!!


轟音と同時に、急速に近づいてアッパーカットをお見舞いする。


何故か爆音が聞こえる。


「……へ?」


「ぬぽおおおおおおおお!!」


間抜けな俺の声に反して、男は忽然と姿を消した。間抜けな悲鳴だけを残して。


「あいつ、何処へ行きやした?」


「う、上よ、おっさん!?」


上を向くと、男がはるか高い空に吹っ飛んでいた。


「……は?」


俺は意味がわからず、目をぱちくりさせる。


い、いや、いや、身体強化(小)だぞ? それを発動して男を殴った。


(極大)もあるけど、それだと大怪我するだろ?


人間を殴ったのは初めてだが、大型の魔物だと、吹っ飛んだりはしなかった。


これじゃ、まるで(極大)の身体強化のスキルで殴ったみたいじゃないか?


身体強化(小)って、一番効果が少ないヤツだよな?


おかしい。


たしかにおもくそ殴ったが、普通、あんなに吹っ飛ぶか?


俺はただ、意表をついて、殴っただけだぞ。


「え?」


「へ?」


「は?」


その場にいる誰もが、素っ頓狂な声をあげる。


さっきまで殺意を向けていた周囲の学生たちも、すっかり度肝を抜かれてしまったようだ。


ぽかんと口を開けて、男が飛んでいる放物線を目で追っている。


「…………あぽあぽあぱあぽぽぽぽぽぽぉ!!」


放物線の最高位で悲鳴をあげた男が、上昇から落下に軌道を変えると、落ちてきた。


情けない悲鳴をあげながら、見苦しい姿のまま、万歳して手足を大の字にして地面に激突する。


――― ドォォォォォン!!


男は地面深くまで窪んだ穴を作って入ってしまった。


万歳の形の人の形の穴が地面に開いている。漫画以外で初めて見た。


流石に死んでいると、気分が悪いので、生死を確かめに穴を覗くと、男はまだ生きているようだ。ぴくぴくとゴキブリみたいに手足を動かしている。


いや、酷い目に合わせようとは思ったけど、予想外の威力だし、よく考えたら、ちょっと暴言吐いて、お嬢様に言い寄っただけだ。


これ位の罪で、結界の中とはいえ、殺してしまうのは、例えこの馬鹿でもあんまりだとおもったから、正直、ちょっと安心した。


「ち……ちょっと!」


お嬢様が驚いた顔で俺を見ている。普通、喜ぶところだと思うが?


お嬢様は続けて俺に質問してきた。


「お、おっさん……いま、なにをしたの?」


いや、それは……。


正直俺は困った。実際、俺にも良く分からん。


「身体強化(小)のスキルを発動して殴っただけです。当たりどころが良かったようでやす」


「「「そんな訳、あるかぁああああああ!!」」」


何故か周囲の学生達に突っ込まれた。


「そんなこと言ったって、マジそうですぜぃ?」


身体強化(小)って、ちょっと身体能力が上がるだけのヤツの筈だ……。


俺も段々自信が無くなってきた。


それにしても、お嬢様のスカートは既に元の状態たが、お嬢様は何故あんなことをしたんだろう?


その時、また一陣の風が吹いて、お嬢様のスカートがふわりと浮き上がるが、今度は慌ててスカートを押さえた。


何故だ?


みんな、俺と男に注目が行っていて、お嬢様の方は見ていない、なのに何故?


は!?


そうか!


俺は腑に落ちた。


『俺はこの男の魔法で幻覚を見せられていたんだ!』


危ない危ない。


とんでもない勘違いをするところだった。


お嬢様が俺に向かって、自らスカートの裾を上げてパンツ晒すとか、絶対あり得ない。


この男の卑怯な魔法に踊らされていたんだ。


幸い、弱い魔法使いでよかった。


「まあ、いいわ。私が見込んだ男、それがこのおっさんよ。みんなよく覚えておいてね」


そう言って、俺に喜色を見せて、頬を赤くしてお嬢様が俺を見つめている。


ああ、まだ微熱が続いてるんだ。


長い馬車の旅だったのだろう。


それに、このお嬢様は俺のことを信用してくれているし、大事にしてくれる。


周りの揶揄からも守ろうとしてくれたし、きっと、人を見る目がある人なんだ。


俺は盗賊だが、信用第一でやって来た。


そんな俺を盗賊だからと言って、色眼鏡でみないで重用してくれるなんて……。


気がつくと、俺はお嬢様のメロン大の胸をガン見していた。


……知らず知らずのうちに。

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