第3話 好きの種類



 好き。


 好きとはなにか。

 それについて考えさせられる機会は何度もあった。


 太陽と付き合っているのか聞かれる度に、あぁ、この子達は太陽が“好き”なんだ。

 と、そう考えるし、直接的に「太陽の事をどう思っているのか」と聞かれることもあった。

 これについてはなんて答えたか思い出せないし、今そう聞かれたとしてもどう答えたら良いのか分からない。



 私は“好き”が分からないのだ。



 大きくわけて2種類の好きがあるということは理解に苦しく無い。

 ひとつは友情的な好き、そしてもうひとつは恋愛的な好き。


 太陽に対して好きというなれば、きっと前者が正しいのであろう。

 でも、それもしっくりくる言葉ではなかった。


 残念ながらこの気持ちを言語化するほどの語彙力は持ち合わせておらず、“好き”に対して考えさせられる度に頭の中が曇るのであった。



 以前、太陽に聞いたことがある。

 その問いに、太陽は気だるそうに、心底興味のないような態度で答えた。


「好きなやつ?はぁ、いないけど。」


 いつもだとそんな態度で返そうものなら、ちょっとばかし意地悪な言葉を添えて肩なんかを小突いてやるのだが、この時ばかりは何故だか無性に嬉しくなった記憶がある。


 これだけ聞くと、恋心を抱く乙女のような印象をもたれかねないが、それでもやはり、私は太陽に対して“恋愛的な好き”を抱いている訳では無いという確信があった。



 こんなことを考えた事があるという事実だけでなんともゾワゾワしてしまうのだけれども、もし太陽と男女として付き合うようなことがあった場合――


 そんなことがもし、もしあった場合、私はどう立ち振る舞うのか。


 みんなのように手を繋いで帰路を共にしたり、休日には2人で映画を見に行ったりオシャレなカフェでランチをしたり、ひいては恋人としかしないであろうキス―――――


 なんて、ここまで来ると脳がシャットダウンしてしまい、悪い夢でも見ていたのかと思うような疲労感に襲われるのだった。


 つまり、こんなことを想像しても心をときめかせたりすることは無く、結論として太陽に対して“恋愛的な好き”を抱いている可能性がない事が断言できる。



 それならば何故、付き合っているかの問いの後には必ず言葉が詰まってしまうのか。

“好き”では無いのならば、はっきりそう言って女の子達と太陽をくっつける協力でもすれば良いのではないか。


 いや、協力する義理もなければそんな面倒なことを買って出るほど善人な私ではないのだが。



 嫌いか好きかと問われれば、好きとしか答えようがない。

 なぜなら、嫌いならばこんなにも長く一緒に居たりすることなんてないんだから。


 しかし恋愛的な好きでなければ、友情的な好きもしっくりこないとなると、ますます私は太陽に対しての気持ちが分からなくなる。


 ずっと友達でいような!なんてそんな感じでもなければ、困っているなら全力で力になろう!なんて言う気概もきっとお互いにない。


 その場の空気を共有しあい、お互い気を使うことも無くただ楽しいから一緒にいるだけ。

 そんな関係なのだ。


 周りが思っているほど仲良し2人組ってほどでもなく、意外と淡白な関係のため、“友情的な好き”という感情が抱けないのかもしれない。



 そんなこんなで、私は太陽に対する気持ちの名前が見当たらないまま、ある日突然、そして今日に至るまで太陽の顔すら見ることが出来なくなったのだ。

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