第2話 夏の太陽は眩しすぎて。
家に着くまでに何があったのか記憶にない。
身体に吹き付ける風は相変わらず生ぬるくて気持ちのいいものではなかった気がするが、木々にこだまする蝉達の叫び声のように私の心も何かを叫びたがっているような、それでいて焦りのような喜びのような名前のつけ難い興奮を覚えたのは確かである。
気がつけば私は制服を脱ぎ捨て、ダルダルになったTシャツと中学の時の指定ジャージを履いていた。
慣れとは恐ろしいものだ。
どんなに悩んでいてもボーッとしていても、毎日行う習慣というものは息をするように体が勝手にやってしまう。
扇風機の前に体育座りをしたところで、ようやく意識がハッキリし出した。
太陽という男について思い返してみる。
彼は幼馴染で家も近所だったため、幼稚園・小学校・中学校と同じ学校に通っていた。
ほかの男子とは違う気の合ういいやつで、幼馴染などとは関係なく気づけばいつも一緒に居た。
私も彼も、そしてその周囲も、私達2人のことをきょうだいのように感じていた。
中には私たちが付き合っているのではないかと噂する者もいたが、ランドセルを投げあって笑ったり、ザリガニを釣っては唐揚げにして食べたら美味しいんじゃないかとふざけあったりする様子を見て、そんな噂をする人はすぐにいなくなった。
こんなに楽しくてくだらない毎日を、大人になってもずっと一緒に共有できるんだと何の根拠もなく、そして絶対的なものだと信じていた。
でもそれは、中学2年の冬に突然崩壊した。
今まで同じ身長だった太陽は、2年になって急に背が伸びた。
ブカブカだったブレザーは身体にフィットし、足首は少し見えるようになった。
声もなんだか深みのある声になった気がするし、目に見えて女子からモテるようになった。
「本当に付き合ってないんだよね!?」
そう可愛い子に何度確認されたことか。
「ないけど」と答えると、女の子達は決まって喜んだ。
「ないけど」という言葉の続きはいつもグッと飲み込んで、続きの言葉なんてないと自分に言い聞かせる。
けど、なんなんだ。
私はこの続きの言葉が思い浮かばないのに、聞かれる度いつもその後の言葉に詰まっては飲み込んだ。
きっと太陽はあの女の子たちに告白されているのだろう。
でも、太陽は1度だって私にその事を報告したことはない。
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